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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
九章『信じる心があなたを救うと信じて』

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リサ対ユーシャ 二本目


「三本勝負だ」


 リサとの勝負に負けた直後、ユーシャはそんなことを言い出しました。

 ちなみに事前にそのような取り決めがあったわけではありません。どうにも彼女らしからぬ往生際の悪い物言いです。



「ああ、昨日レンリとウルが教えてくれたんだ。勝負事に負けた時はとりあえずこう言っておけって。これで次も負けたら『今のは本番じゃなくて練習だった』とか『次の勝負で勝ったほうに五億ポイント』とか言えば良いって」


「そ、そうなんですか。いや、わたしは別にいいんですけどね。うちの子達もゲームで負けた時とか、たまに似たようなこと言ってますし」



 どうやら、ユーシャの発言はレンリ達の入れ知恵によるもののようです。

 見た目だけは大人のユーシャがそんなこと言い出したものだからリサも一瞬戸惑っていましたが、すぐに相手の中身がまだまだ子供みたいなものだということを思い出しました。子供の遊び相手なら普段から慣れたもの。すぐに思考を切り替えて適切な対応をしています。



「おい、あいつに変なこと教えるなよ」


「ユーシャ、ちゃん……なんでも、信じちゃう……から」



 一方で、未だにユーシャとの距離感を測りかねているルグとルカは、それでも一応はセコい悪知恵を吹き込んだレンリに抗議していました。



「ははは、それはウチの娘にちょっかいかけるな的なアレかい?」


「いや、娘じゃないから」


「こらこら、ユーシャ君に聞こえるところでそんな風に言ったら可哀想だろう。ねえ、ユーシャ君?」


「うん、お父さんにそう言われるのは心がイヤな気分になるな」


「うっ……すまん」



 しかし、こう返されてしまってはルグの抗議も思うようにいきません。



「もういっそのこと認知してあげたまえよ? 戸籍上のあれこれはさておき、気持ちの上の問題に関してはキミ達が認めてあげればそれで済むんだから」


「うん、わたしもそうするのが良いと思うぞ」


「いや、そう言われてもな……」


「なんだ、認知してくれないのか」


「よし、それじゃあユーシャ君。ルー君が言うことを聞いてくれないのなら、今度は街中で『彼が認知してくれなかった』と言い触らして回るのはどうだろう? 別にウソは言ってないからね」


「そういう風に言えばいいのか? よく分からないけど物知りのレンリが言うのなら――――」


「おい、言い方!? ユーシャも、それだけは絶対にやめてくれ」



 見た目は成人女性のユーシャがそんなことを言って回ったら、学都内でのルグの世間体に回復不可能のダメージが入りそうです。オマケに近頃はギルドやよく行く店屋などで彼とルカが交際していることが知れ渡っているため、今ならもれなく浮気者の称号まで付いてきます。



「まあまあ、そのあたりで。レンリちゃんも仲が良いのは結構ですけど、あんまりお友達をからかっちゃダメですよ」


「ははは、興が乗り過ぎてしまったようだね。彼は反応が面白いから、つい。まあ、リサさんにそう言われてしまっては私も引き下がらざるを得ないかな」



 ルグにとっては幸いなことに、リサが間に入ってくれたおかげで先程の話題はそれ以上発展することなく終わってくれました。レンリの邪悪なイタズラから世間体を守ってくれた恩人に、ルグはこれまで以上の感謝を込めて拝んでいます。








 ◆◆◆







「それじゃあ、砂嵐も少し収まってきましたから続きをやりましょうか」


「うん、わたしはいつでも大丈夫だぞ」


「ああ、それなら双方先程のような大技は控えてもらえぬか。大技を出すたびに砂嵐で中断を挟むのではテンポが悪い。というか、さっきのは大気圏内で使ったら絶対ダメなタイプの技だろう」


 と、二試合目の開始前にシモンからそんな注文が。



「そういえば、さっきの最後のほうは砂でよく見えなかったね」



 加えてレンリの指摘もあり、次の勝負からは新たにルールが設けられることになりました。単にkm単位の巨大な武器には変形させないというだけですが。


 追加事項を把握したリサとユーシャは、一戦目と同じように皆から見える位置で向かい合って構えを取りました。互いの距離は百メートル近くありますが、イメージ次第で武器を変形させられる聖剣使いにとって視界の範囲内は全て間合いの内。

 ルールに抵触しない長さの武器でも十分相手に届きますし、あるいは聖剣を弓や銃などの飛び道具に変形させる手もあります。一瞬たりとも油断は禁物。



「では双方準備はいいな? 三、二、一……始め!」



 先程と同じようにシモンの合図がなされました、が。



「うん? 二人とも全然動かないね」


「ど、どう……したの……かな?」


「ほら、アレじゃないか。先に動いたほうが負けるってやつ」



 スピーディーな立ち上がりだった一戦目とは対照的に、リサもユーシャもピクリとも動きません。観戦していたルグ達は、その静けさの中に自分達には分からない高度な駆け引きがあるのだろうと推測していましたが……実はそうではありません。



「うーん、これはどうしようもないな。わたしの負けだ」



 開始から一分ほどでユーシャが降参を宣言しました。

 傍目からは何も変化がなかったように思われました……が。



「よいしょ、っと」



 突然、ユーシャが着ていた半袖のシャツを脱ぎ出しました。



「ル、ルグくんは……見ちゃ、だめ……っ」


「あ、ああ、分かったから少し目隠しの力を緩めてくれないか。頭蓋骨がグシャっといきそうだから」


「シモンも、駄目」


「う、うむ。だが審判という立場上、目を逸らすのもな。こら、危ないから目を突いてくるな……む?」



 慌てて男性陣の視線を逸らそうとルカやライムが動いていましたが、結論から言うとその心配は無用でした。



「銅像? いや銀色だから銀像か?」



 なんということでしょう。

 ユーシャの肌、服の下に隠れていた部分がメッキでもされたかのように光沢のある金属に覆われているではありませんか。しかもシャツに隠れていた上半身だけでなく、下半身や靴の中まで同じような状態になっているようです。



『リサ様、容赦ないの……』


「ウル君は何があったか分かるのかい?」



 二戦目を始める前。

 砂嵐が収まるのを待っていた時から既に戦いは始まっていたのです。

 この第五迷宮内にいる限り、すぐに服や身体が砂まみれになってしまうことは避けられません。ですが、その砂自体に仕掛けがあったらどうでしょうか。



「砂状に細かくした聖剣を普通の砂に混ぜておいて、お喋りをしてる時からちょっとずつユーシャ君の服の下に移動させてたのか。それで試合開始の合図と同時に変形させて、ああいう風にしたと」


『多分、そんな感じだと思うのよ』



 答えはウルの読み通り。

 開始の合図と同時に半身を拘束され、一応脱出を試みてはみたもののユーシャに出来ることはありませんでした。素の状態でもルカと同等の怪力がゴゴの力と合わさって更にブーストされているとはいえ、自由自在に変形する聖剣相手では破壊も難しいでしょう。仮に拘束を抜けられたとしても、その隙に攻撃されたら完全に詰み。

 開始前に気付かれていたらリサの反則負けになっていたかもしれませんが、要は気付かれなければいいのです。



「ねえ、ウル君。リサさんって、実は結構負けず嫌い?」


『……我はコメントを控えさせてもらうの』



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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い勝ち方でした。 秘境でもなんでもなく作戦勝ちですね。
2020/05/02 23:13 退会済み
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