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試練の後で


「その下の皿にチップを敷き詰めて」


「こ……こう?」


「そう。あとは火を付けて燻すだけ」


 帰る途中で“ちょっとしたトラブル”に見舞われたものの、四人は当初の予定通りにライムの小屋まで戻り、屋外で(迷宮内ですが)燻製作りに励んでいました。

 戦いの余波で折角の兎肉がダメになっていないかが心配でしたが、ライムが戦いながらも加減や技の向きを調整していた甲斐あって、肉を入れていたカゴは無事だったのです。


 滑空兎グライダーラビットの頭を刃物で落として皮を剥ぎ、関節の付け根に沿ってナイフを入れてやれば綺麗に解体できます。

 とりあえず片っ端から解体を進めていき、そのまま精肉として使う分と燻製に加工する分に分別。加工に使う燻製器や木のチップの準備も、ライムに教わりながら進めていきました。



「あとは出来上がるのを待つだけ」



 そうして作業は一段落。

 すると、それまでは珍しいことにずっと口を閉じて黙々と作業に没頭していたレンリが、ようやくポツリと呟きました。



「……あんなの勝てるワケないじゃないか」



 どうやら、超常の戦いを間近で見たせいで、すっかり腰が引けてしまったようです。怪我などはありませんでしたが、先程の光景は彼女を落ち込ませるに余りあるものだったのでしょう。



「それは違う。さっきは私が一緒にいたからああだっただけ」



 まあ、良い情報もないではありません。

 迷宮の管理者は相手によって強さを(時には姿すらも)、変化させる。

 ならば、次に挑む時はライム抜きでやれば、あそこまで圧倒的な実力差を感じるようなことはないでしょう。それを理屈では分かっていても、なお恐ろしいと感じているのがレンリ達の現状なのですが。


 意外にも一番平気そうなのがルカで、ルグもレンリと同じように少なからず気落ちしているようです。

 ここしばらくで迷宮での活動に慣れてはきましたが、その慣れは必ずしもいい事ばかりではありません。なまじ安定しかけていたせいで、当初はあったつもりの覚悟が薄れて、心が揺らぎやすくなっていたのかもしれません。




「必ずしも戦いに勝つ必要はない」



 落ち込む彼らを見かねたのでしょう。

 ライムは淡々とアドバイスを告げました。


「あれは心の在り方を問う者。貴方達の望む方法で答えればいい」



 先程勝手に戦い始めた点を鑑みるにツッコミ所がないでもありませんが、本来試練の方法は戦闘に限定されません。戦うのが怖くてもやりようはいくらでもあります。



「心の……在り方?」


「そういえば、起源を示せとかなんとか言ってたな」


「起源って……なん、だろう?」


「動機。理由。始まり。今の自分を構成する核となるもの」



 疑問顔の三人にライムは答えを言いましたが、それはあくまで考える上での指針。結局は三人がそれぞれに自身の答えを見つけるしかありません。

 ソレを自覚し、何かしらの手段を以て示さねば先へは進めないのですから。



「あとは自分で考えて」



 必要なことは教えたというより、これ以上は教えようがないのでしょう。

 この件についてはこれ以上触れることなく、ライムは再び燻製の煙へと視線を戻しました。



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