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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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緊急ドラゴン内会議


 大きなお口でゴクンと丸呑み。

 巨大なドラゴンに少女が食べられるというショッキングな絵面ですが、しかし心配は要りません。これが普通のドラゴンならともかく、ウルが変身したドラゴンならば体内の機能や構造もほとんど自由自在。



「……ほどよく温かいし、変な匂いとかもないし、体液でベタついたりしないし、意外と居心地が良いっすね。いやまあ、呑まれた時はいよいよ死んだかと思ったけど。めちゃくちゃ怖かったけど」



 生物の体内とは思えないほど清潔で、柔らかいクッションに包まれているかのよう。

 なにしろドラゴン自体が大きいので体内だというのに狭苦しい感じもありません。

 消化液を分泌する器官を作ってすらいないので身体が融かされることもないですし、適量の酸素を生成して中の人間が窒息しないようにもしています。ここなら確かに危険はないでしょう。周囲の肉が発光しているので視界にも不自由しません。



『どう? そこにいれば安全なのよ』


「おわっと!? ウ、ウルちゃん、どこから出てきてるんすか?」



 本来、胃袋があるスペースの一部がグニュグニャと変形し、普段の幼女顔のウルが生えてきました。ただし首から上だけ。会話をするなら頭部だけあれば支障はないということなのでしょう。



『ねえ、それで我は何をすればいいのかしら?』


「え、いや、何をって……」



 この時、ウルとバーネットの間には些細な認識の差異がありました。


 バーネットとしては追っ手から逃れるためにひとまず仲間のところに逃げてきただけ。まあ、その「仲間」というのも素直に肯定しがたい関係性なのですが、少なくともバーネットの理解が及ばない強大な能力を持っていることは確かです。

 あの異様に口数の少ない老ドワーフ。そして、その味方をしているらしいエルフ少女が只者ではないことは戦闘分野への見識が浅い彼女にも理解できました。先程、危ない場面で辛うじて逃げることができたのは、突然現れた変な女に相手が気を取られたからに過ぎません。

 怪盗七つ道具の使用に要する魔力にも余裕がありませんし、普通に逃げても捕まってしまう可能性が大きい。ならば、人格はともかく能力的には信用できて、なおかつ一応は自分のことを味方だと認識しているウルかコスモスに助けを求めようというのは、そう間違った判断でもないでしょう。流石にドラゴンに丸呑みされるのは想定外でしたが。



『ねえねえ、我ってば何をすればいいの?』



 しかし、ウルはバーネットの事情など知りません。

 ちょうど自分の役割の締め時について考えていたこともあって、バーネットが来たのはお芝居の指示を出すためだとすっかり勘違いしていました。

 匿ってくれと言われて呑み込んだ際も、あえて観客に見せつけるよう角度や持ち上げる高さに気を遣っていたくらいです。



『我的には最後に自爆とかすると派手で良いと思うんだけど……って、あら?』



 舞台の締め方について話していたウルが突如言葉を止めました。

 それと同時に、まるで破城槌でも撃ち込まれたような轟音と衝撃。安全なはずのドラゴンの身体が、ぐらり、と大きく揺れています。



「ど、どうかしたんすか、ウルちゃん!? なんだか、嫌な予感しかしないんすけど……」


『えっとね、実は』



 ドラゴンの腹の中にいるバーネットには外の様子が分かりません。

 問われたウルが答えようとするも、言葉を続けるよりも早く、同じような衝撃が二度、三度。ズドン、ズドンと連続して響きます。



『えっとね、お客さんが舞台に上ってきちゃったの』


「いやいや、舞台に上がっただけでこんなに揺れないっすよね?」


『うん、その人ってば興奮しすぎて我に……えっと外にはいっぱい他の我がいるんだけど、このドラゴンの我に殴りかかってきて』



 説明の最中にも揺れと衝撃音は止まりません。

 それどころか、どんどんと数と勢いを増しています。



『なんでエルフのお姉さんがいるのかしら? たしか客席にはいなかったはずだけど。あれ、よく見たらゴゴ達もいるの。帰っちゃったかと思ったけど戻ってきたのね』



 ウルの口調はあくまで呑気なものですが、バーネットとしては気が気ではありません。衝撃音以外にも爆発や雷鳴のような音まで、ズドン、ドカン、バリバリと聞こえてきて、しかもそれらがだんだんと大きさを増しているのです。

 頑丈なウロコに覆われたドラゴンの身体が如何に堅牢でも、その守りが破られやしないかと不安になるのは仕方のないことでしょう。



「ちょっと聞きたいんすけど、外にいる人達の中にやたらデカいドワーフの年寄りはいないっすか?」


『うん、いるのよ。最初に殴ってきたのが、そのお爺さんなの』


「……そっすか」



 バーネットは僅かに思案し、そして。



「ウルちゃん、そのジジイは自分達の敵っす。一緒にいたエルフの人とかは正直よく分かんないけど、ジジイの味方をするなら多分、敵、だと思う。だから……」



 素直なウルを言い包めて利用すれば、自分を追う者達をまとめて排除することも不可能ではない。命までは奪わずとも、何日か動けなくなるくらいのダメージを負わせれば、この街を離れて逃げ延びることもできるだろう。



『敵? じゃあ、やっつけていいの?』


「……うん」



 いくら相手が恩人でも、昔からの数少ない知り合いでも、自分にとっての「怪盗」を否定するなら容赦はしない。それに、自分の指示でウルに襲わせたと分かれば、向こうだって愛想を尽かすはず、と。


 バーネットには、そのような意図がありました。

 しかし繰り返しになりますが、ウルは彼女からの言葉をお芝居を締めに向かわせるための指示だとすっかり勘違いしていたのです。


 舞台に上がってきた人々についても「敵」ではなく「敵役」として。

 突然の乱入も、あくまでパフォーマンスの一環として。

 きっとコスモスあたりが頼んで、そういう役割をしてもらっているのだろうと、ウルなりの解釈をしていました。

 

 あれもこれも全部お芝居のうちならば、実情はどうあれそう信じ込んでいるのだから、ウルに躊躇う理由はありません。ただ与えられた役割をこなすだけ。



『がおー! お前達も悪いドラゴンの我がペロリと平らげてやるの!』



 結果、ノリノリの調子で舞台上に現れた面々に襲い掛かりました。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] シモンの報告書どうなるか・・・(;'∀') 幼女の神と魔王の弟子のエルフが乱闘をして劇場が崩壊とか? まさに、考えるのを辞めたくなるような事件が現在進行形ですね。 [一言] 更新…
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