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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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怪盗に向いていない


 たとえば、そう。

 人のためを想って間違いを正す、とか。

 相手の嫌がりそうなことはしないようにする、など。


 そうした気遣いは基本的には善いことなのでしょう。

 無論、相手のためを想っての言葉なのだから無条件に受け入れられるべきだとか、感謝をされて当然だなどと思い上がってはいけませんが。そのような独善や傲慢は、表面上は相手を想っての気遣いと同じように見えても本質的には真逆のものなのです。



「貴女が怪盗?」


「……今更違うって言っても誤魔化せそうにないっすね。そうっすよ、エルフのお姉さん? まったく、この街の人達はいったい何なんすかね?」



 その点、此度のライムの言葉は、正確にはライムという通訳を挟んで告げられたキガン氏の言葉は正しい意味での気遣いによるものだったと言えるでしょう。



「……ぬ」


「うん、伝える」



 ただし、それが真に相手のことを想っての忠告だとしても、恐らく感謝されることはないでしょう。いえ、それどころか嫌われて強い反発と抵抗を生む可能性のほうが高いかもしれません。



「この人は、貴女に止めて欲しいと言っている。違う、言ってはいない。でも思っている」


「お姉さん、よくこのジジイの考えてること分かったっすね。もしかして心とか読める人っすか。で、止めて欲しいって何を?」



 何を止めて欲しいのか。

 ライムは単刀直入に伝えました。



「怪盗」



 怪盗を止めて欲しい、と。

 正確には、キガン氏がそう思っている、と。



「はあ? 自分だって色々悪いことしてるくせに何言って、いや、言ってはないか。でも、人にはお行儀良くしろとか、一体どの口で……」


「違う。そうじゃない」


「なんすか、お姉さん。そうじゃないって」



 キガン氏は、怪盗の仕事が犯罪だから止めろと言っているのではありません。

 そもそもバーネットが指摘したように彼自身も様々な犯罪に手を染めてきた身。手段を選ばずに人を救うという教義によるものであり、実際に稼いだ金銭の大半は弱者の支援に充てているとはいえ、人の法を軽視しているという点では両者にさしたる差はないでしょう。


 キガン氏がバーネットに怪盗を止めさせたいのは、もっと単純な、そして裏稼業の人間としては致命的な理由によるものです。



「貴女には、怪盗に必要な才能がない」


「いやいや、怪盗の才能って言われても。最近、何度も捕まったせいで正直自信はなくしかけてるけど、自分もちょっとしたもんなんすよ? パパの道具だってあるし」



 怪盗としての能力面に関して言うならば、実際、バーネットもそう捨てたものではありません。本人の身体能力は多少運動のできる一般人レベルとはいえ、特殊な効果の七つ道具を適切に使いこなせば本来そう簡単に捕まったりはしないはずなのです。道具の性能に胡坐をかくことなく、使いこなすための努力だってしています。


 けれど、努力で補えない部分はどうしようもありません。

 その本人にはどうしようもない欠点がある限り、いくら彼女が努力をしても、他にはない特別な道具を持っていようとも、怪盗として大成することは絶対にありません。

 今のところはまだ無事ですが、いつかどこかで、きっと本人の頑張りではどうにもならない理不尽な形で捕まってしまうことでしょう。



「貴女は怪盗に向いていない」



 何故なら、それは。



「運が、悪いから」


「…………」



 バーネットが咄嗟に反論できなかったのは、呆れて声も出せなかったというわけではありません。むしろ、その点については深く納得できてしまったから。

 パッと思いつくだけでも、両親を亡くして自分も死にかけた事故が思い浮かびますし、それ以前だって家業のせいで一か所に腰を落ち着けることがなく友達の一人もできない慌ただしい暮らしぶり(もっとも幼少時はそれが普通だと信じていたのですが)。事故以降も、衣食の面倒は見られていたとはいえ幸福とは言い難い。

 ごく最近では怪盗志望を名乗る謎の変人達に付きまとわれたり。危険を冒して盗みに入ってみれば、ターゲットの全員が全員、奇妙なコレクションに熱を上げる変人揃い。


 日常の細かな場面を思い返してみても、本を読めば落丁に当たり、買い食いをすれば食当たり。近道をしようとすれば工事中で通行止め。もちろん、その程度なら全ての人に起こり得る些細な不幸ですが、そうした物事に当たる頻度が他の人と比べても少し……いえ、かなり多いのはバーネットも否定できません。



「……正直、思い当たるフシは色々とあるっすけど」



 その運の悪さが怪盗仕事の決定的な場面で発揮されないという保証はありません。それを根拠に、怪盗に必要な才能がないと言うのも納得できないではありません。




 が、しかし。

 向いていないからどうした。

 才能がないから何だというのか。


 彼女にとって怪盗とは、すなわち両親への弔い。

 バーネットの両親は決して良い人間ではなかったけれど、良い親ではあったのです。才能に欠けていても、向いていなくても、そんなことは関係ないと思えるくらいに。



「まあ、一言だけ言わせてもらうなら……余計なお世話っすよ!」



 人に言われて「はい、そうですか」と諦められるくらいなら、バーネットは、二代目怪盗ガーネットは、最初からこんな生き方は選んでいません。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 口喧嘩のような親子喧嘩のような流れ [一言] 更新おつかれさまです 運がない、たしかにコスモスに目を付けられた時点で怪盗家業に向いてない でも逆に考えるんだ。 怪盗道具で手品師に転向…
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