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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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524/1051

物の価値というのは人それぞれ違うので


 競売会は意外にもマトモな立ち上がりを見せました。

 扱う商品の内容以外は、ですが。



「さてさて、次なる品はこちらの椅子。Z国のカナイド村なる農村唯一の食堂に置かれていた物です。一見するとごく普通の安物ですが――」



 ウルの手でステージ上に運ばれてきたのは古ぼけた木製の椅子。

 そこらの家具屋に行けば、もっと状態の良い物が簡単に買えるでしょう。 



「皆様ご想像の通り、かつて勇者さまが座られた品となっております」



 しかし、本日この場に限っては一般的な価値基準は通用しません。

 司会のコスモスが告げた通り、この椅子は十数年前に一度だけ勇者が座ったという代物。あくまでも座っただけであり、実は神や勇者の特別な加護が宿っている……などということは全く、全然、これっぽっちもありません。


 が、本日集まった蒐集家達にとっては勇者が使用したという一点だけでも十分以上。幸か不幸か、常人にはまるで分からない付加価値を見出してしまうのです。



「ちなみに、こちらにご用意した書類は食堂のマスターや当時からの常連客の方々に書いていただいた証言書となっております。ざっくり内容をご紹介しますと、〇年前の□月×日のお昼頃に勇者さまがこの椅子に座りましたよ……というような。そしてほら、ご覧ください。ここの背もたれの部分に特徴的な傷が付いているので、他の椅子と取り違えているということもないそうです」



 物自体はどこにでもあるような安物のため、その気になれば勇者所縁ゆかりということにした品を偽装するのは難しくないでしょう。それはコスモスや参加者も分かっているので、こうして本物である可能性が限りなく高いことを証明するための書類なども揃えてあります。もちろん、最終的には取引者双方の信頼関係の問題になってくるのですが。



「ふむふむ、どうやら本物で間違いなさそうですな」


「ちょうどそのあたりの時期に勇者様が、そのカナイドとかいう村に二日間ほど滞在されたという記録があったはず」


「うむ、たしか会報誌の七号だったな。勇者様の足跡を辿る特集号の102ページに村名の記述があったと記憶しておる」



 そして、この会場に集まっているのは筋金入りのマニアばかり。

 人里離れた山中や荒野などに関しては完全ではないものの、人の住む街や村であれば勇者の目撃情報を集めることは難しくありません。プライバシーの保護という観念自体がまだまだ未発達な地域も多いので、さぞや調べやすかったことでしょう。


 勇者とその一行が大陸中を巡っていた約一年間のスケジュールについては「何月何日にどこそこの集落にいた」とか「どこの商店で何を買った」とか「宿屋の何号室を利用した」などの部分まで偏執的なファン達によって調べ上げられ、細かに記録されているのです。


 コスモスが発行している会報誌でも、ファン達の地道な活動で集められた情報を収集・精査・編纂して、勇者の辿った足跡についての特集が組まれたことがありました。

 この会場に集まったほどの愛好家なら会報誌の内容を暗記していて当然。おおよその日付と村の名前が分かれば、その情報と記憶を元に品物の信頼性を判断することなど造作もありません。


 

「ではこちら、G国金貨二十枚からのスタートです」


「二十五」「三十です」「五十だ!」「……ぐぬ、五十一!」「七十でどうだ!」



 どこにでもあるようなボロ椅子の値は、見ている者が恐ろしくなるほどの勢いで釣り上がっていきました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなかお宝が集まってるじゃないか! たしか、ブランドの古いくたびれた椅子と気づかずに色を塗り替えようとして その椅子のロゴが本物で大金を貰った人がいたり 世界にはまだまだお宝ねむってま…
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