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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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会話のようで会話ではない、ちょっと会話みたいな無言空間


『なるほど、事情は分かりました』


 ゴゴは食事をしながら話を聞き、人数が増えた理由については納得しました。

 ついでに、今後はユーシャに買い物を頼む時に「何でもいい」とは言わないようにしようと密かに誓いました。迷宮が生み出した存在であるゴゴは、その気になれば大抵の物質は消化できるのですが、だからといって変な形の石など食べたくはありません。



「……む」


「ん?」


「……ぬぅ」


「ん。そう」



 食事中、キガン氏とライムは会話……と呼んでいいのかは謎ですが、何かしらの意思疎通をしていたようです。もちろん、傍で見ていたゴゴやユーシャにはさっぱり意味が分かりません。



『あのぅ……できれば、もっと普通の人にも分かるようなコミュニケーションをお願いしたいのですが。いえ、我々もあんまり普通の人じゃないんですけど』



 ゴゴの要求も決して図々しいとは言えないでしょう。

 これがどこか異国の言語であれば努力次第で聞き手側が習得できる可能性もありますが、無口を極めた者だけが会得できるテレパシー染みた謎コミュニケーションなど、どうやって習得すればいいのかも不明です。



「…………」



 まあしかし、無口側の二人も別に意地悪をしたいがために喋らないのではありません。キガン氏は少しばかり目を瞑って考え込むような仕草の後で、



「……馳走になった」



 食事の礼を述べました。

 厳つい顔付きに似あった重々しい声音です。

 ただでさえ恐ろしげな見た目なのに、声が加わると更に迫力があります。

 決して声を荒げたりはしていないのに、まるで大型の猛獣が威嚇の唸り声を発しているかのよう。気の弱い人や子供が聞いたら、それだけで泣き出してしまいかねません。


 もっとも、この場の面々は良くも悪くもそんな繊細さとは無縁でしたが。



「おお、お爺さんがちゃんと喋るのを初めて聞いた気がするぞ。どうして普段は喋らないんだ? 意外と恥ずかしがり屋さんなのか?」


「…………」



 とはいえ、言葉らしい言葉を発したのは先の一言だけ。

 ユーシャの疑問に答えるつもりもなさそうです。

 再び室内は沈黙で満ち満ちてしまいました。



『気まずい』



 ライムとキガン氏の無口組二人は当然として、ユーシャも沈黙に居心地の悪さを感じるような性格ではありません。結果としてゴゴ一人だけが気まずい気分を抱えながら何か話題がないかと思考を巡らせていたのですが、



『あっ、そろそろ午後の競売会が始まるみたいですよ』



 タイミング良く劇場ホール内に動きがありました。

 現在彼女達がいる備品庫からホールまでは少し距離があるのですが、ゴゴはあらかじめ自らの髪の毛の一本を金属の針へと変えて、舞台裏の物陰に隠しておきました。

 その針もまた聖剣である彼女の一部ひとり。別の場所にいる自分同士が思考や感覚を共有することで、このように離れた場所から盗聴器のような使い方をすることもできるのです。

 もうちょっとやる気を出して、舞台裏のみならず劇場内のあちこちに聖剣針を仕込んでおけば、これからやってくるウルや怪盗も一瞬で見つけ出せたかもしれませんが、まあそれについては最初からゴゴが乗り気ではなかったので仕方ありません。




 最初にキガン氏がのっそりと立ち上がり、



「……世話になった」



 それだけ言い残して部屋から出ていきました。

 実際に怪盗団が動き出すのは競売会が始まってしばらく経って、ある程度まとまった額の現金が集まってからになるでしょうが、怪盗を確保するならあまりのんびりしてもいられません。この大きな劇場で人を一人探すつもりなら、事前に建物内外の構造を把握する必要もあるでしょう。



『ライムさんはどうします? ユーシャがやる気になってますし、一応、我は捕り物に付き合っていきますけど』


「ん?」



 ライムには怪盗ごっこに付き合う理由は特にありません。

 勇者本人ならともかく勇者グッズを扱う怪しげな催しにも無関心。

 恐らく、今回は斬った張ったの荒事になるようなこともないでしょう。



「残る」



 しかし、意外にもライムは劇場に残ることにしたようです。

 友人達の遊びに付き合うため……ではありません。



「怪盗に」


『怪盗に、何です?』


「ん……分からせる?」


『え、あの……それはボコボコに叩きのめして身の程を教えてやるとか、誰の縄張りシマで盗みを働いたのか教育するとか、そういう意味合いのアレですか?』


「……違う。そういうアレではない」



 流石のライムもそこまで好戦的ではありません。

 彼女としても、誰彼構わず殴りかかる乱暴者と思われるのは心外です。

 ロクに面識のない人物に戦意を向けることなど……まあ、彼女自身そこそこ心当たりがありますが……最近は挨拶感覚で殴り合うことに疑問を覚えなくなりつつありましたが……それはあくまで相手側も戦いを望んでいるという前提があるからこそ。


 相手が戦いを望まないなら、悪人や意思疎通の取れない怪物でもない限りはライムが自分から手を出すことはありません。よくよく考えてみれば怪盗というのはつまり悪人なので先に殴っても問題ないのでは、などとちょっぴり思いかけましたが心の中で思っただけならセーフです。

 先程のキガン氏もなかなか強そうな気配がありましたが、向こうにその気がなかったので戦うのを我慢しました。ライムはちゃんと我慢の出来る平和的で穏健な淑女レディなのです。


 ともあれ、ライムが分からせると言ったのは物騒な意味ではありません。



「分からせる、とは」



 むしろ、その逆。

 どちらかというと人助けに近い意図での発言でした。


◆久しぶりに執筆途中のデータが全部飛びました。いきなりPCの再起動が始まったと思ったら、保存する間もなく……

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― 新着の感想 ―
[良い点] むとんで会話成立 武人は黙して多くを語らずですね。 [気になる点] 二人の会話が気になる…… アイコンタクトやジェスチャーとかそんなもんじゃない! もっと高度な意思疎通を見てしまったぜ…
[一言] データが吹っ飛ぶというトラブルの中更新ありがとうございます。 ライムは優しいですね。
2020/01/18 20:11 退会済み
管理
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