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遭遇


 三人での最初の冒険から二ヶ月。

 その間、レンリ達は幾度となく迷宮に繰り出しました。


 最初の半月は朝から夕方までの日帰り。それ以降は野宿にも挑戦し、次第に一泊、二泊と滞在期間を延ばせるようになってきました。野外での狩りや休息にも慣れたものです。


 一度迷宮に入った後は最低でも一日の休日を設けて疲れが残らないようにし、また次の探索に備える。失敗と試行錯誤の連続ではありましたが、それでも少しずつ確実に出来ることを増やしていく日々は、それなりに充実したものでした。


 そんなある日。

 転機は、前触れなく訪れました。







 ◆◆◆







「……やっ!」


 裂帛の気合と共に放たれたルグの一閃が、見事に獲物の首を落としました。

 大きな耳で風に乗り枝から枝へと移動する滑空兎グライダーラビットは、剣で仕留めるにはなかなか厄介な相手です。

 しかし、あらかじめ木の上に登って隠れておき、逃げるのに合わせて自らも跳躍すれば高さの利はなくなります。


 とはいえ、この方法では斬った後で地面に叩きつけられてしまいます。

 常人であれば大怪我は間違いありませんが……ルグは足首や膝を柔らかく使って上手く衝撃を逃がし、見事に着地を決めました。



「おお、やるね。身体強化にもなかなか慣れてきたじゃないか」


「ああ、ずっと練習してるしな」



 地面に落ちた滑空兎グライダーラビットを回収したレンリもご機嫌です。狩りの成功で食事が増えるのが嬉しいのでしょう。


 毎日欠かさず自主練習している甲斐あって、ルグの身体強化もやっと明確な効果を実感できるレベルになってきました。

 地面から直接先程の高さまで跳ぶのはまだ無理ですが、木登りの速さや着地の衝撃に耐える頑強さなどはあって困るものではありません。



「結局、レンはあんまり参考にならなかったけどな」


「うぐっ、痛いところを……まあ、こういうのは専門家に任せるのが効率がいいんだよ」



 学都には魔法関係の研究者が多いだけあって、私塾や研究窟なども少なくありません。

 最初の一週間くらいはレンリもどうにか自分で教えようと粘っていたのです。

 ですが、だんだん飽きてきたこともあり、彼女は自分の教育者としての才能にあっさりと見切りを付けました。

 そこで自分で教える代わりに学都で顔の利くマールスに口利きを頼んで、人に教えるのが上手な術者を紹介してもらったのです。そうしたら、ルグはあっさり魔力の認識も基礎的な身体強化の発動もできるようになりました。



「まあ、あの二人みたいにはいかないけどな」


「そりゃ仕方ないってものさ。気にしたら負けだよ」



 二人の視線の先では、手頃な太さの木を根元からへし折って、それをバッサバッサと振って滑空兎の群れを叩き落しているルカと、木々の間を超高速で跳び回って直接兎のつかみ取りをするライムの姿がありました(正確に言うと、後者に関しては残像しか見えませんが)。



 ライムとは毎回会うわけではありませんが、時折迷宮の中で声をかけられたり、レンリ達が手土産の菓子などを持って彼女の小屋を訪ねることもあります。


 ちなみに今日は、兎を食べたい気分だというライムに付き合って、一緒に狩りをしに来たのです。現状、ルカ以外の二人は足手まといにしかなっていませんが。



「強化の確認もできたし……素直に弓を使うか」


「あっ、自分だけ足手まといを脱却しようだなんてズルいぞ!?」



 はっきり言って、わざわざ一匹仕留めるために木に登るより、下から弓で狙ったほうが手っ取り早いのです。

 先程は実戦での強化の使用勘を確かめるために面倒な手順を踏みましたが、鳥と違って滑空しかしない相手なら、動きを読めば弓のほうが簡単に仕留められます。

 ルグは遅れを取り戻すかのように次々と矢を放ち、役立たずはレンリだけになりました。







 ◆◆◆







「大猟。ありがとう」


 大きな背負いカゴ四つが一杯になる量の兎を確保したところで、本日の狩りは終了となりました。全部で百匹以上の大猟に、ライムも(無表情なので見た目では分かりませんが)上機嫌です。

 


「ふふふ。なに、礼には及ばないさ。それほど大したことはしてないからね」


「そりゃ、レンはホントに何もしてないからな」


「一匹! 私も一匹捕まえたよ!?」



 レンリも、たまたま地面に降りていた滑空兎を一匹だけ、かろうじて捕まえることができました。普通に走っておいかけても振り切られるのが目に見えているので、コートを脱いで投網の要領で投げたのです。

 完全なマグレではありましたが、それでも成果には違いありません。一応。



「どう……料理する、の?」


「兎はトマト煮にすると美味しい」


「いい、ね……美味し、そう」



 ルカとライムは獲物の調理法について話していました。

 この二人、共に口数が少ないせいか、なんとなく気が合うようです。今日に限らず、最近はよく料理の話などをしていました。



「傷むといけないから半分は燻製にする」


「兎の、燻製……? 食べたこと、ない」


「燻製の道具は家にある。手伝ってもらえると助か……止まって」



 突然、ライムが他の三人を制止しました。

 常であれば、彼女が気配を隠さずにいると、それだけで森の魔物は寄ってきません。

 なので、わざわざ警戒を促すことは珍しいのですが……、



「緑色の……狼かな?」


「いや、あれは……蔦や葉で身体が出来ているみたいだ」


「変わった……魔物、だね?」



 ライムに遅れてレンリ達もその生き物に気付きました。

 遠目で見ると全身緑色の巨大な狼。

 その身体は、草花や木の葉や果実、蔦や苔など植物の集合体のようです。誰がどう見ても真っ当な獣ではありません。



『汝ら』



 子供くらいなら丸呑みに出来そうなソレ・・の口が開き、ライムを除く三人に向けて言葉を発しました。



『汝ら、己が起源を我に示せ』




少し時間が飛びました&いきなりボスっぽいの登場の巻

味方にラスボスっぽいのもいますけど

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