怪盗コスモス?
怪盗事件を追っていたゴゴとユーシャは、下手をすれば、いえ下手をしなくとも怪盗なんぞよりよっぽど怪しげで厄介な女と出会いました。
「ほほう、怪盗ですか?」
これ以上コスモスに振り回される前に一刻も早く別れて立ち去るのがベストの選択なのかもしれませんが、一応、ゴゴは調べていることについて尋ねてみました。
というか、特に何か証拠があるわけではないのですが、五分五分かそれ以上くらいにコスモスが怪しく思えてきてしまったのです。
本人曰く、たまたまビジネスの都合で学都に来ていたということですが、実は怪盗として暗躍していたなんて如何にもありそうな話。怪盗という奇妙な肩書きもコスモスにならしっくり来るように思えます、が。
「それはなんとも面白そうな。というか正直、私もやってみたいです。ああ、何故一番に思いつかなかったのか。ネタ被りというのはちょっと……いえ、今からでも遅くはないでしょうか?」
『一応言っておきますけど、やらないで下さいね』
「ふふふ、それはフリですかな? そこまで期待されたら怪盗をやらないのがむしろ不作法というもの」
『フリじゃありませんて。お願いですからやめて下さいね!』
この反応を見る限り、コスモスは件の怪盗ではないのでしょう。
彼女が本当に怪盗をやっていたら、下手にとぼけたり弁明したりはせずに「よくぞ見抜きました」とかなんとか言って堂々と振る舞いそうです。
「しかし、その怪盗というのはどうも面白味に欠けますね。せっかくそんな肩書きを名乗っているのに姿も見せないでただ盗むだけでは盛り上がらないじゃありませんか」
『あの、我にそんなことを言われても……』
「私でしたら……そうですね。あえて姿を晒して騎士団や市民の皆様も巻き込んだ盛大な逃走劇を繰り広げた上で最後は見事逃げきって見せるのですが。そうそう、エンタメ性を考慮して専用のコスチュームなども用意したほうがいいでしょうか。セクシー路線の露出の多いやつを」
たしかに、現在この街で発生している怪盗事件の手口はコスモスらしくありません。端的に言うと派手さが足りません。逆説的に、彼女は現在追っている怪盗ではないということになります。
「おっと、ゴゴさまにユーシャさま。突然ですが、私、少々急用を思い出しましたのでこれで失礼いたします」
『あ、いえ。こちらこそ引き留めてしまって……あの、本当にやらないで下さいね?』
「ふふふ。では、これにて失礼」
そう言うと、コスモスはたちまち雑踏に紛れて見えなくなってしまいました。
「はっはっは、なんだか面白い奴だったな! 今回はあまり話せなかったが、次に会うのが楽しみだ」
『ええまあ、悪い人じゃないとは思うんですけど……』
どうやら、コスモスは犯人ではなかったようです。
しかし、今の不用意な会話が新たな第二の怪盗を誕生させてしまったのではないか。あの人物なら冗談ではなく本当にやりかねない。能天気に笑うユーシャとは反対に、ゴゴの内心は不安感で満ち満ちていました。
◆◆◆
そして、早くもその晩。
学都新市街のとある豪邸にて。
「ふふふ、貴方が噂の怪盗ガーネットさまですか? どうも、はじめまして。こんばんは、お元気ですか? ちなみに私は元気です。今朝も人に見せて自慢したいくらい太いのがモリモリ出ました。さて突然ですが怪盗って本当に良いものですね。すごいなぁ、憧れちゃうなぁ。というわけで、私も是非やってみたいのですがネタ被りは御免被りますので……ええ、ここは一つ先達である貴方さまから怪盗の称号を盗み取って差し上げようかと!」
本物の怪盗が頭のおかしい女にウザ絡みされる事態が発生することになるのですが、ひとまずは何がどうなってそんなことになってしまったのか、もう少し前の時点から振り返ることに致しましょう。




