老僧と神官少女
そう、たとえば。
普通の人間同士でも、身長は同じなのに体重が倍も違うということはあり得ます。
目線の高さは一緒なのに、片や五十キロに満たない痩せ型。
片や百キロを超す肥満体型。
そういった差異は、べつに極端なレアケースというわけでもないでしょう。その場合、同じ背丈であるはずの両者から受ける印象は大きく違ってくるはずです。
しかし、人間同士であればそういった体型の差異は自然とある程度の枠内に収まるもの。相手がドワーフとなると、受ける印象はまた段違いに変わってきます。
骨格も、筋肉も、脂肪や皮膚も、その太さや厚みは人間種の軽く三倍以上。普通の小柄なドワーフでも百キロを超える者は珍しくありませんが、人間種並みの高身長かつドワーフらしい肉厚な体格の老僧は、恐らく半トン近い体重があるのではないでしょうか。
「ねえ、あの人こっち見てない?」
そんな大男が平和な喫茶店に入ってきたのだから大変です。
何が大変かって物理的に。
老ドワーフが店内を一歩進むごとに床はギシギシと軋み、壁や柱がグラグラ揺れる様は地震のよう。足を踏み出した拍子に床を踏み抜いてもおかしくありません。
無闇やたらに見た目の迫力があるものですから、店員も怖気づいてしまって呼び止めることができません。店内の客もおっかなびっくり眺めるばかり。
「…………」
老僧はそんな周囲の様子など気に留めず、真っ直ぐに歩みを進めています。
既にルカの知己であることは聞いていたので、レンリ達としては彼女に挨拶でもしにきたのかと当たりをつけることはできましたが……それでもなお腰が引けてしまうほどの体格。
彼女達も迷宮の中で数々の魔物を見て度胸を養ってきました。目の前の巨漢を遥かに超える巨大生物も色々と見てきましたが、それらとはまた別種の迫力があります。
しかし、それでも言葉の通じる相手には違いない。
妙にゆっくり歩いているのも、店を自重で破壊しないために慎重に進んでいるのかもしれません。ならば、一応は良識や道徳というものも備わっているはず。
「えと、あのっ……」
いよいよ間近に迫ってきました。
知り合いとして挨拶をしようと、ルカが勇気を出して立ち上がろうとして……、
「って……あ、あれ?」
しかし、老僧はルカ達のテーブルの前を通り過ぎました。
足を止めたのは、そのまま更に数歩ほど進んだ隣のテーブルの前。
その席には入口に背を向ける形で女性客が一人座っています。
外見からするに、レンリ達よりも二つ三つ下の十代前半くらいであろう少女。
異常なまでに豪胆なのか、それとも単に鈍いだけなのか、あるいはテーブルを埋め尽くすほど大量に注文した甘味を食べるのに集中しきっているのか。神殿に入りたての見習いが着るような僧服を身に纏う少女は、背後に迫った巨大な影に気付いている様子もありません。
老僧は、人の頭くらいありそうな巨大な拳を握ると、
「ふっふっふ、久しぶりの甘い物は格別っすね。師匠の財布をちょろまかしてきた甲斐があったってもの……でぇっ!?」
「喝っ」
どうやら身内であるらしい神官少女の後頭部にガツンと一発喰らわせました。
◆この章、新キャラ多くない?
◆まあでもモブ以外は多分これで打ち止めなので勘弁な




