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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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集まれ、奇跡の信仰エネルギー!


「つまり、そういうことなのだよ」


 と、レンリは言いました。



「つまり、どういうことなんだよ?」


「つまり……どういう、こと……なの?」



 と、ルグとルカは疑問符を貼り付けてから返しました。

 女神像に祈りを捧げて効果を実感したまではいいものの、まだまだ完全に理解したとは言い難いものがあります。

 話し疲れたのか、飽きたのか、それともお腹が空いたのかはさておき、ここまで来て説明の手間を惜しんだら台無しです。レンリ自身も一応そこは分かっているので、面倒くさくなって端折ろうとした部分についての解説を改めて始めました。



「べつに宗教に限った話ではないけれど、多くの人の支持を集めたいのなら、世俗的で即物的な利益を与えてやるのが一番手っ取り早いのさ。身も蓋もない話だけどね」


「本当に身も蓋もないな」



 世俗的で即物的な利益。

 それが即ち女神像の加護というわけです。

 先程の実験で得られた効果はほんの一例。

 今後、より多くの人が信仰のエネルギーを捧げるようになれば、更に多種多様な結果が見られるようになることでしょう。


 

「真面目で厳格な人だと信仰に見返りを求めるような形を嫌うかもしれないけど、まあ、なにしろ神様のお墨付きだから受け入れざるを得ないだろうね」



 宗教家というのは、より熱心に信仰する者ほど融通が利かなくなる傾向があります。全員が全員というわけではありませんし、神殿内で高い地位に就くような人間であれば多少なりとも柔軟性がなければ務まらないものですが。

 あの女神を信仰する通称「神殿」と言っても決して一枚岩の組織ではなく、ちょっとした教義の解釈違いで様々な宗派が生まれていたりもしますし、禁欲的な生活や苦行を積極的に行う人々もいます。

 そうした人々の中には、この女神像で得られるお手軽な加護を快く思わない人間もいるかもしれません。もっともレンリの言う通り、信仰対象そのものが是とするなら内心はどうあれ結局受け入れざるを得ないでしょうけれど。

 まあ仮に拒否したところで、そこまで熱心な主張を持つ者は人間社会全体からすれば誤差程度の少数派でしょう。どう判断しようとも大勢への影響はありません。



「さっきのアレは魔法なのか?」


「いや、魔法とは別物だよ。魔法でも似たような現象を再現することは不可能じゃないかもしれないけど非効率すぎるし、やる意味はないかな」



 次なる話題は先程の加護の詳細について。

 甘い物のカロリーだけを遮断するとか、背が高くなったように本人や周囲の認識を変化させるとか、魔法でも再現できないことはないにせよ、実際にやろうとしたら術式の構築も魔力の負担も相当に大変です。それでいて得られる結果は「ちょっと嬉しい」程度なのですから、はっきり言って全く割に合いません。



「アレは魔法とは違う、いわゆる神様の奇跡ってやつさ」



 それがああもお手軽に出来たのは、アレがそもそも魔法とは違う別の技術によるものだから。いえ、普通の人間には学びようも使う方法もない汎用性に欠けたものを「技術」と称するのは間違いなのかもしれませんが。



「人々の信仰によって発生するエネルギーは、どうも魔力とは少なからず性質が違うようでね。燃費は悪いんだけど、その分融通が利くというか。過程を無視して直に望む結果を得られる、願いを叶える力とでも言うのかな」



 同じく不思議な現象ではありますが、魔力を用いて発動させる魔法と、神が信仰力を用いて行使する奇跡とは根本からして違う現象。なにしろ後者は、具体的な方法や理論を考慮する必要すらなく、ただ「そうあれかし」と願えばその通りになるのですから。

 無論、相応のコストを支払わなければ何も起こりませんし、元となるエネルギーそのものの増幅など叶えられない例外もあるのですが。



「これまではそういった奇跡はなるべく出し渋って、ここぞという時にだけ出すようにしてたらしいよ。支出を最低限に抑えて有事に備えるというか、奇跡の安売りを避けて価値を高めるというか。まあ、リスク回避の方針ならそれも間違ってないんだけど……で、その女神像がお手軽願い叶え装置、兼、願いの読み取り装置ってわけさ」



 仮に10の信仰を捧げられたとして。

 まず最初に1を使って相手の望みを読み取る。

 その際、迷宮に蓄えられた対象の過去の言動などによる補正も入る。

 そして残りの信仰エネルギーを用いて願いを叶え、余剰分を神様側で回収する。その際に使うコストは、赤字にはならないよう最大でも9を超えないようにする。

 


「まあ本来であれば、信仰なんて目に見えないものを数字で管理することは出来ないんだろうけど、そこはほら、なんでも願いが叶うわけだし」



 元々、つい最近までは女神も信仰の管理をなんとなく多い少ないくらいの大雑把な感覚で扱っていたのだとか。なにしろ実体のない目に見えないものですし、他の誰が使うわけでもありません。それでも問題はありませんでした。

 しかし、現在ではレンリの提案によって集められた信仰は神様の下で厳密に数値化され管理下に置かれています。収支の管理をするのには、そうしたほうが圧倒的に便利だからです。

 たとえ形のない心の力であろうとも、それこそ神の奇跡を用いれば信仰エネルギーの可視化や管理方法の効率化も不可能ではありません。そこそこの決して少なくないコストを用いることにはなりましたが、これも先行投資の一環です。

 人々の信仰に優劣をつけるようで気が引けると小心な女神は言っていたのですが、結局はレンリの押しの強さに折れました。

 


「ははは、大きく儲けたいなら相応の投資はしないとね」



 この女神像から与えられる加護の効果時間は数分から数日程度。

 あえて永続的な効果にしないのは、リピーターを増やすための工夫です。

 具体的な内容は人それぞれ、また同じ人物でも毎回違うランダム性がありますが、像の前に来て祈れば確実に何か嬉しいことが起こるわけですし、迷宮そのものも安全性を大きく増しています。女神像の性質が広まれば、定期的に祈りを捧げるべく迷宮に通う人々も出てくることでしょう。そうなれば迷宮の成長に必要な栄養源も安定的に確保できます。







 ◆◆◆







 そして数日後。

 実際にその思惑通りに――。

 否、レンリの思惑以上の結果が出ていました。




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