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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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信じる者は救われる(※効果には個人差があります)


 さて、今更と言えば今更の話ですが。

 迷宮達は普通の人間のように決まった住所に住んでいるわけではありません。ウル達のうちの一体がレンリの部屋に住んではいますが、あれはまあ例外です。


 普通の人間同士のような感覚では、住所不定の相手を広大な迷宮で探さねばならないとなったら相当に難儀しそうな印象があることでしょう。

 ですが、今回のレンリ達のように知り合いが訪ねてきたケースでは、迷宮の化身を探す手間は一切かかりません。自身の迷宮内における彼女達は、比喩でもなんでもなくそのままの意味で、どこにでもいるのですから。



「ウル君達は便利だなぁ」


『我からすれば普通の人達が不便に見えるの』 



 迷宮内であれば、化身達は知り合いが声をかければ姿を現します。

 木や草の一本一本、地面や空気や水も含め、身の周りにあるほとんど全てが迷宮の構成物にして感覚器。目であり、耳であり、肌である。傍目からは何もないところに声を掛けたように見えようとも、それを聞き逃すことはまずありません。


 迷宮にもそれぞれ得意不得意がありますし、一度に生成できる化身の数や容姿のバリエーションには限度があるのですが、ウルの場合はそれが万単位。たとえば「今は忙しいから対応できない」などということは基本的にありません。

 またウル達同士は記憶や感覚を完全に共有しているので、この場に新しく出現したウルとレンリの部屋に住んでいるウルとの差異も皆無。そんな彼女達にしてみれば、一人に一つしか肉体がない普通の人間が不便に思えるのも無理はないでしょう。


 ともあれ、そうして地面から生えてきたウルにレンリは尋ねました。



「やあ、ウル君。見た感じ迷宮の調整はもう済んでるんだろう? 例のアレのところに案内してくれたまえ」


『え~、面倒くさいの。人に物を頼む時はそれなりの言い方があるのよ?』



 新しい個体を自在に造ることはできますが、それが労働力としてスムーズに機能するかは別問題のようです。まあ、そもそも一方的な命令を聞くような間柄ではありません。ウルの言うことにも一理あるかもしれませんが。



「はいはい、案内してくれたら後でお小遣いをあげるから」


『わーい! さっさと付いてくるの。モタモタしてると置いてっちゃうのよ?』



 なんとも現金なことに、ウルは現金でやる気を出しました。

 初めて会った頃に比べて、しっかりしたと言うべきか、意地汚くなったと言うべきか。いずれにせよ、レンリと暮らすうちに少なからず影響されているのは間違いなさそうです。



『もうちょっと先に一番近いのがあるの。あっ、あの木の陰よ』


「ええと……もしかして、あれかい?」



 ウルの先導で森の中を進んだ一行は、森林の中には不似合いな物体を見つけました。


 直径2メートルほどの巨大な女神像。

 いえ、先日会ったばかりの本人(本神)とは全然似ていないのですが、よく神殿などに祀られている像とそっくりのデザイン。像の全身が水晶か宝石のような透明感のある素材で出来ているのが珍しいといえば珍しいものの、大抵の人はそれが女神像であると一目で理解できるでしょう。

 ウルの説明によると第一迷宮のあちこちに、そして第二や第三の迷宮にも同じ物が多数出現しているのだとか。



「売り飛ばしたら、そこそこ良い値が付きそうだけど……ふむふむ、引いても押してもビクともしない。ねえ、ルカ君。これ持てるかい?」


「うん……よい、しょっ……あれ、手が?」



 非力なレンリはともかくとして、ルカが持ち上げようとしてもビクともしません。それも単に重すぎて持てないのではなく、ある程度以上の力を込めようとすると幻になったかのように、スゥっと手が通り抜けてしまうのです。



「なるほど、一定以上の力に反応するのか。ふむふむ、尖った石で引っ掻いても傷一つ付かない。これじゃあ物理的に破壊するのは無理そうだ。なら魔法で爆破するのは……」


「レン、いきなり耐久実験は流石にどうかと思うぞ」



 なんにせよ、これでは迷宮の外に持ち出すどころか、この場から動かすのも無理そうです。迷宮内には客寄せの意味もあって時折高価な宝物が湧くこともありますが、そういった最初から取らせることが前提のアイテムとは明らかに性質が異なります。



「それっぽいデザインなら別に像でなくても何でも良かったんだけど、まあ、これなら大丈夫そうだね」


「で、結局これは何なんだよ?」


「ああ、説明書きか看板みたいのが近くにあったほうがいいか。ウル君、ちょっと神様に伝えといて。細かい文面は任せるから。納期は今から一分ね。はい、よーいスタート」



 ぴったり一分後。

 女神像のすぐ隣に同じ材質のプレートがニュッと生えてきました。

 肝心の、そこに刻まれている文面はというと……。


【信じるものは救われる。象に向かってお祈りをすると良いことがあるかも?】


 急ぎの突貫仕事のせいか「像」と「象」を間違えていましたが、これなら一応の趣旨は伝わります。信心深い人であれば、こうして促されるまでもなく祈っていたかもしれませんが、まあ分かりやすくて悪いということもないでしょう。



「まあ先に言っちゃうと、これはウル君達の成長に必要な信仰心を集める装置なのだよ。ただ人が入ってくるだけでも情報えいようは得られるみたいだけど、こっちのほうが高品質な栄養源になるみたいだし」



 先日の『神の残骸』事件の際に、命の危機に瀕した人々の祈りを受けてヒナは神としての能力の一部を開花させました。それほど必死で切実な祈りが捧げられる機会はそうそうないにしても、信仰心というものが神の素養を秘める迷宮達にとって最上のエネルギー源であることに違いはありません。

 迷宮に入ることのリスクがなく、また祈りを捧げることに具体的なメリットが存在するのなら、エネルギーの収集効率はこれまでとは段違いに高まることでしょう。



「それで……その、良いこと……って?」


「それは実際に試してみてのお楽しみさ。少なくとも損はないはずだから、二人共やってみなよ」


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