本日の主菜『何もかも不確かなこの世界で幼女が辿り着いた真理』
『ええと、我はいったい何を見ているのかしら?』
ウルは誰に聞かせるでもなく呟きました。
場所は、件のお嬢様達の屋敷の一室。
高級ホテルのスイートルーム以上に広く豪華な、アンナリーゼの私室。彼女達は皆それぞれに同じくらいの部屋があり、内装や家具などは各々の好みで固められています。
まあ、部屋については別にいいのです。
部屋の広さや豪華さだけなら、ウルだって別に戸惑いはしません。
「レンリお姉様、お菓子のお代わりをお持ちしました」
「お姉様、お飲み物はいかがですか?」
「ふふ、お姉様に膝枕をして差し上げられるなんて光栄ですわ」
「ちょっと、クレア。膝枕は十分ごとに交代ですからね!」
問題は……いえ、これが問題なのかもウルにはよく分からないのですが、この光景が異様なことは間違いありません。大貴族のお嬢様達が競うようにして、かつ心底嬉しそうにレンリの世話を焼き、レンリもまたそれが当然であるかのように受け入れています。
『……ええと、我はいったい何を見ているのかしら?』
ウルはもう一度呟きました。
何度見ても意味が分からない光景です。
「何って、ごく普通の女子会じゃないか? 変なウル君だなぁ」
『え、我が変なの?』
今度はウルの呟きが聞こえたのか、レンリからの返答がありました。
もっとも、それで納得できるかどうかは別問題ですが。
『うーん……でも我もこういうのよく知らないし、意外とこれが普通なのかも……「普通」? あれ、そういえば「普通」ってなんだったっけ?』
普通と異常の境目とは?
そもそも、「普通」とはいったい?
世界とは? 宇宙とは? 生命とは?
だんだんと、ウルにも自分が何について悩んでいたのか分からなくなってきました。単に、どうでもいいことで悩むのが面倒臭くなってきただけかもしれませんが。
と、そんな時、部屋の戸をノックする音が聞こえてきました。
「あっ、お姉様。夕食の支度が整ったようですよ」
「我が家のシェフはなかなかの腕ですよ。実家の副料理長に頼み込んで一緒に来てもらったんです」
「今日のメインは鹿肉のローストでしたっけ。ワインは何を合わせましょうか?」
「ああ、例のライムさんに頂いた……引っ越し祝いと言って、突然何頭分もの生肉を担いで玄関まで来られた時は驚きましたが」
ここまで菓子や飲み物を少なからず口にしていましたが、その程度ではレンリの小腹を満たすことすらできません。いくら本気で食べていなかったとはいえ、食べる速度よりお腹が減る速度が速いのは、生物として何か間違っている気がしないでもないけれど。
「ははは、それは楽しみだね。ほら、ウル君。食堂に行くよ」
『うん、そうね。我には何が正しいのか分からないけど、とりあえず美味しいお肉は正義で真理なの』
何もかも不確かなこの世界で、それでも信じられる物がある。
それはもしかしたら、とても幸せなことなのかもしれません。




