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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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試合と試合の間に


 ところで、もうかなり今更の感がありますが。



「そういえば、ルカさん以外への自己紹介はまだでしたわね」


「ああ、そういえば。というか、なんで俺達はそれより先に戦ってたんだろう?」



 ここまでの会話や事前にレンリから聞いていた話で互いの名前くらいは把握していましたが、駅から訓練場に直行して即試合という意味不明な流れになったせいで、本来早い段階ですべきことをまだ済ませていませんでした。


 幸い、かどうかはさておき、現在ルグ達とお嬢様達の試合は一旦中断ということになっています。マギーも、そしてライムやシモンも、強そうな相手を見ればついつい戦いたくなってしまうという一般的な感覚とは異なる価値観を共有する者同士。

 普段は立場もあって常識寄りの振る舞いをするシモンとて、根っ子の部分ではそちら側の人間なのでしょう。そんな風な彼らだからこそ並外れた強さを身に付けられたのかもしれませんが。


 そんな達人サイドの面々は現在、柔軟体操や軽いシャドーなど試合前のウォームアップをしています。団長のシモンや、部外者であっても実力者として知られるライムが試合をすると聞いて、周囲でトレーニングをしていた他の騎士団員も自分達の訓練を中断して場所を空けていました。

 彼らが本気で戦う準備が終わるまでには今しばらくの時間がかかりそうです。それが終わるまでの間に自己紹介くらいはできるでしょう。



「では、一人ずつ順番に」 



 お嬢様軍団の人数は四人。

 まず、リーダー格の金髪縦ロールが先程試合をしたアンナリーゼ。

 ダークブラウンのウェービーな長髪、四人の中で一番長身のベアトリス。

 セミロングのホワイトブロンドを緩い編み込みにしているクレア。

 同じくセミロングのピンクブロンドを編み込みにしているドリス。


 彼女達の家はA国の貴族社会の中でも仲良し同士、言い方を変えると同じ派閥に属しており、それが自然と子供達の付き合いにも影響して幼い頃から仲良くしているのだとか。

 アンナリーゼが四人のまとめ役のような立場にいるのも、派閥内での家の力関係が影響しているようです。もちろん本人の気質がそういった役目に向いているからでもありますし、上の立場にいるからといって下の者に理不尽を強いるような性格でもありません。

 少しばかりややこしい事情はあるけれど、本質的には平民の女子達が仲良しグループを作って一緒に遊ぶのと大差はないでしょう。


 ちなみに、今ここにいないレンリの家はそういった貴族社会の派閥には良くも悪くも関わらない例外的な立ち位置にいます。

 爵位や資産額こそ上から数えたほうが早いくらいなのですが、本家のトップから分家の末端まで筋金入りの研究者気質しかおらず、そのような勢力争いにはほとんど誰も興味を示さないのです。

 もっとも、その無関心も悪いことばかりではありません。

 どこかの派閥に肩入れする心配がないからこそ、フラットな立場から王族の教育係という大任を果たせるという見方もあるのです。


 他の貴族家としても、特定の派閥に属さない家だからこそ無用の警戒をすることなく任せられる。これが他の家であったなら、自分の派閥が有利になるように教育という名目で王族の思想を誘導することを考えていたことでしょう。それもう当然の権利であるかの如く。

 様々な派閥が自分達の息のかかった教育係を送り込もうとして、贈賄や不正な斡旋といった汚職の温床になっていた可能性もあります。


 だからこそ、どこにも属さないレンリの家が教育係を務めることに意義があるのです。ある意味では、貴族社会の中における更なる特権階級とすら言えるかもしれません。



「と、そのようにレンリお姉様ご本人のみならず、お姉様のお家の皆様も公明正大にして向上心旺盛な素晴らしい方々なのです!」


「……俺達は何を聞いていたんだろう?」



 自己紹介の途中から脱線し、後半はほぼレンリ関係の情報になっていましたが、そこまで熱心に語る姿勢そのものが、これ以上なく雄弁に彼女達の個性を物語っているとも言えそうです。



「あ……準備、できた……みたい」



 そんなお喋りをしている間に準備も整ったようです。

 最初はライムとマギーの試合。大岩のようにゴツいマギーと向き合うと、ただでさえ小柄なライムは豆粒のように小さく見えてしまいます。

 しかも、素手のライムに対してマギーの得物は長大な斧槍ハルバード。リーチの不利は槍に対する剣どころの騒ぎではありません。



「あのエルフの方、あんなに小さいのに大丈夫かしら?」


「ええ、心配ですわ。怪我をしないといいのですけれど」



 と、アンナリーゼとベアトリス。

 彼女達はライムの身を案じているようです。

 まあ、初見ではその反応も無理はありません。



「でも、先生が遊びたがるくらいですもの。本当はすごく強いのではなくて? たしか、エルフ族は魔法の業に長けると聞きますわ」


「なるほど、力が弱くても魔法の達人なら戦いようもありそうですね。先生の間合いに入らないよう距離を取りながら術を繰り出せればあるいは……」



 と、クレアとドリス。

 ライムの戦力を正確に見抜いたわけではありませんが、弱い相手にマギーが興味を示すはずはないという自分達の指導者への信頼が判断の根拠になっているようです。

 もっとも、試合展開の予想については恐らく全く違うものになりそうですが。



「二人とも、準備はいいか? ちゃんと朝ご飯は食べたか? トイレに行っておくなら今のうちだぞ?」


「ん。大丈夫」


「ああ、同じくね」


「よし、それじゃあ……あ、見物の人達もトイレは大丈夫か? 我慢するのは良くないぞ。お腹が痛いのを我慢してる人はいないな? ……よし、大丈夫そうだな。良かった」



 試合場として空けられたスペースの中央には、ライムとマギーと、そしていつの間にか審判役を買って出たらしいユーシャがいました。ゴゴが近くにいないので勇者の能力は発揮できませんが、まあ、素の状態でも結構強いらしい彼女なら戦いに巻き込まれても自分の身くらい守れるでしょう。



「それじゃ……よーい、ドン」



 そして、戦いが始まりました。


 

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