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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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傭兵マギーと弟子


「アタシのことはマギーって呼んどくれ。本当はマーガレットってんだけど、こんなゴツい婆さんにそんな可愛い名前は似合わないからね」


 お嬢様達の「先生」は、自らマギーと名乗りました。

 本当はマーガレットなのですが、筋骨隆々の外見に可愛いらしい響きが似合わないと感じているのか、あまり自分の本名が好きではない様子です。



「で、もう察しはついてるだろうけど、あの子達に戦い方を教えてるんだよ。剣だの槍だの、弓や格闘術や、まあ色々だ。貴族のお嬢さんの護身術にしちゃ、ちょいとばかり過激な内容だがね」


「マギーさん、は……冒険者、なん……ですか?」


「ああ、違う違う。アタシは傭兵さ。元、だけどね」



 ルカの問いにマギーはこう返しました。



「傭兵……って、冒険者と……違う、の?」


「ああ、すごーく簡単に言うと人間同士の戦争で金を貰うのが傭兵さ。もっとも、最近じゃ冒険者との境目も曖昧だけどね。金さえ積まれりゃ魔物退治みたいなことも普通にするしねぇ」



 冒険者も護衛仕事などで人間相手に戦うことがないわけではありませんが、傭兵にとってはそれこそがメインの仕事。それもゴロツキや盗賊退治ではなく、国と国、あるいは同じ国内の領主同士が戦争をする際の助っ人が本領です。

 よほどの大領主でもなければ、いつ起こるとも知れぬ戦争のために普段から大勢の私兵を養う余力などありません。そういう時は領内の農民や職人に武器を持たせて即席の兵隊にするのですが、素人に武装させても戦果など期待できるはずもなし。また領民を危険に晒すリスクは税収の低下にも直結します。


 そして、そういう時こそ傭兵の出番。

 冒険者の一グループは精々数人から多くても数十人程度ですが、傭兵団は比較的小規模なものでも百人を超えることが珍しくありません。小領の領主などはそういったフリーの軍団を臨時雇いすることで、ようやくマトモな戦争ができるようになるのです。


 プロの傭兵となれば個人技だけでなく集団戦の連携や戦術にも通じていますし、必要以上に勝ちすぎることもありません。殺した敵兵からは身代金を取れませんし、戦後のことを考えれば無闇に敵を皆殺しにして余計な遺恨を残すのも宜しくない。そうしたアフターケアまで考えられるのが優秀な傭兵というものなのです。



「まあ、それも今は昔だけどね。最近はどこも平和で傭兵団の仕事なんてロクにありゃしない。最後に戦らしい戦をしたのはいつだったかねぇ?」



 しかし近年では傭兵団の仕事は、つまり人間同士の戦争は滅多にありません。魔物退治の仕事などは変わらずありますが、数百人規模の腕利きを養える稼ぎになるかというと、それは正直難しい。



「アタシもそこそこ大きい団のアタマを張ってたんだけどね、まあ、傭兵働きで食える世の中じゃなくなったってことなんだろうさ。仕事柄、色んな伝手はあったから団員の再就職先の世話をしてやって、団を解散したのがもう五、六年前になるかね」



 だからこそ、傭兵なのだとか。



「で、解散してからしばらくは隠居気分でのんびりしてたんだけど、ほらあの子、アンナリーゼの親父に娘とその友達連中の稽古を付けてやってくれって頼まれてね。アタシも暇を持て余してたから鍛えてやってるってわけさ……と、まあそんなことよりもだ」



 ちなみに、先程からマギーやルグ達がいるのは学都南部にある騎士団の訓練場。

 お嬢様達は更衣室を借りて運動用の服に着替えている最中です。



「この街の騎士団は面白いことやってるねぇ」


「やっぱり……珍しい、です……よね」


「ああ、そりゃ珍しいさ。軍と民間の垣根を低くするため、ね」



 この街の騎士団では、昨年から頻繁に外部の民間人や冒険者との合同訓練や武術の指導を行っています。近頃ではますます参加者も増え、当たり前の日常となりつつありますが、やはり公的な軍隊組織がこうした活動を行うのは珍しいのでしょう。歴戦の武人であるマギーにとっては尚更物珍しく映るようです。



「あ……着替え、終わった……みたい」


「おお、待ちかねたよ。ほら、駆け足! 整列!」


「「「「はい!」」」」



 そして、ようやく着替えを終えたお嬢様達がやって来ました。

 普段からかなり厳しく鍛えられているのでしょう。マギーの声が飛んだ途端に軍人のようにキビキビとした動きに切り替わっています。



「さあ、楽しい戦いの時間だ! 皆、仲良くヤり合うんだよ」







 ◆◆◆







「……やりにくい」


 ルグは木剣を構えながら困った顔をしていました。

 ここまで流されるままに来てしまいましたが、



「さあ、ルグさん。手加減無用ですわ!」


「あ、ああ」



 ルグの視線の先には、自身の背丈より長い木槍を半身に構えたアンナリーゼ。

 お嬢様達のリーダー格である彼女の金髪縦ロールは非常に目立ち、訓練場内にいた騎士団員や一般の人々もこの試合に注目を向け始めています。



「ルグくん……が、がんばって……っ」



 ルグとしてはルカの前で格好悪いところを見せたくはないけれど、この見るからに高貴な身分のお嬢様を衆人環視の中で叩きのめすのも外聞がよろしくありません。



「……本当、やりにくいな」



 それに、そもそも勝てる保証もありません。

 元々、ルグの背丈は年下の女子であるアンナリーゼよりも低いので間合いの長さで劣るのは仕方がないのですが、今回は更に得物の差もあります。


 ルグの剣に対し、相手は槍。

 双方の間合いの差は倍以上になるでしょう。


 単純な話ですが、武器の長さはそのまま強さに繋がります。

 剣で槍に勝つには相手の三倍の技量が必要、と言われるほど。

 屋内や森林では槍の長さがかえって不利に働くケースもありますが、生憎とこの訓練場内は障害物のない平地。槍の有利は動かないでしょう。


 剣で有利を取るには、たとえば素早い踏み込みで長さの利を活かせない超至近戦に持ち込む手などがオーソドックスですが、それについてはアンナリーゼも警戒しているようです。迂闊に飛び込んだら手痛いカウンターを喰らいかねません。


 ならば逆にアンナリーゼの攻撃に対するカウンター狙いといきたいところですが、彼女は決して大きな隙を見せません。攻撃は全てルグの間合いの外から、それも大振りではなく細かく小さく当てることを狙った堅実な戦法です。

 派手な容姿とは正反対の地味とすら言える戦い方ですが、これは恐らくマギーの指導によるものでしょう。敵を倒すよりも自身の守りを重視していることが窺えます。


 ルグも上手く避け続けていましたが、これでは埒が明きません。

 間合いの不利がある以上、このまま打ち合いを続けてもいつかは有効打を喰らうだけ。彼のパワーでは相手の武器を手から叩き落とすような強引な手も使えません。


 そのままルグが形勢不利なまま数分間も打ち合いが続いた後、



「くっ、これならどうだ!」


「そんな苦し紛れなど! 隙あり、ですわ!」


「しまった!?」



 ルグが渾身の横斬りを放ったものの、そんな見え見えの大振りが当たるはずもなく当然空振り。生じた隙に、アンナリーゼが彼の胴目掛けて槍の柄を叩き込み――――。



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