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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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困った時はグーで殴れば大体なんとかなる


 そして話は再び学都にお嬢様軍団がやって来た頃に戻ります。


 

「……というわけで、レンが戻ってくるまでもう三、四日くらいかかりそうなんだ」



 ルグも決して喋りが上手いほうではないのですが、ルカよりはだいぶマシというものでしょう。レンリが迷宮都市で新たな魔法の修業をしていて、こちらに戻るまで数日はかかりそうだと説明していました。

 無論、神だの魔王だのといった事情をそのまま明かすわけにはいかないので、たまたま運良く高名な老師の指導を受けられる機会を得た、くらいにボカしてあります。


 魔王の家に住み着いたウル達も期待通りに連絡役を担ってくれていました。

 ルグ達がレンリの現状を把握しているのも彼女達のおかげです。

 普段は動物型のペットとして飼われつつ、たまに人型に戻って家事やお店の手伝いをしたり、向こうの街中に遊びに出たりと楽しくやっているようです。


 まあ、それはさておき。



「流石、お姉様。素晴らしい向上心です……けれど……はぁ」


「本当に残念ですわね」


「ええ、早くお会いしたかったのに」


「いっそ、このまま迷宮都市行きの列車に乗ってしまいましょうか?」



 レンリにすぐ会えないと理解したお嬢様達は見るからに落ち込んでいます。



「あいつ、こんなに慕われてたのか」



 事前にレンリ本人から聞いていた話からルグも多少は知っていましたが、この慕われ方は予想していた以上。人望がある、という段階も若干通り越している気がしないでもありません。



「レンリは良い奴だからな。お父さ……じゃなかった。ルグさんも知ってるだろう?」


「そりゃ、まあな。あと、ユーシャ。お前、ちゃんと空気を読めたんだな」


「えっへん。もっと褒めていいぞ」



 一方、意外にもユーシャはレンリの慕われ具合に理解を示しています。

 出会って数日程度の付き合いでしかありませんが、どうもレンリが出発するより前に色々と変なことを教わっていたようです。そのせいか、かなり評価が高くなっているのでしょう。



「まあ、いないものは仕方ないだろ。レンにあんた達のこと頼まれてるし、街の案内とかならするぞ?」


「あの……元気、出して……」


「お二人とも、お気遣いありがとうございます……けど……そういう気分でもないですわね……はぁ」


「なんだか……旅の疲れが出てしまいましたね……」


「はぁ……」


「ふぅ……」



 兎にも角にも、このダウナー極まるお嬢様達をどうにか立ち直らせないと何もできません。まだ列車を降りてすぐの駅のホームですし、このままだと単純に邪魔です。彼女達が連れてきた使用人も、肝心の主人がこの様では動きようもないでしょう。


 ホスト役を任されているルグやルカとしても、まさか貴族のお嬢様達を力づくで引っ張っていくわけにもいかず、ユーシャは「今の感じはお母さ……じゃなくて、ルカさんの喋り方に似ていて良いなあ」などと一人で謎の盛り上がり方をしています。とりあえず、この状況を解決する役に立ちそうにはありません。


 この状況を解決する救いの手は、意外なところから差し伸べられました。



「こらっ、あんた達! こんな所でウジウジしてんじゃないよ!」


「あたっ」


「いっ」


「うっ」


「えっ」



 救いの手というか、救いの拳骨ですが。

 お嬢様達の護衛の中でも一際体格の良い人物。女性でありながら190㎝近くありそうな身長に、服の上からでも一目で分かる分厚い筋肉を持つ老女がズカズカと近寄ってきて、巨大な拳で彼女らの頭をゴツンとやったのです。


 相手は由緒正しい貴族の令嬢。

 事によっては大問題になりかねませんが、



「ほら、シャキっとしな!」


「「「「はい、先生!」」」」



 お嬢様軍団は怒るでも怯えるでもなく、まるで訓練中の兵士が厳しい上官を前にした時のようにピシッと背筋を伸ばしてホーム上で整列しています。



「何かと小うるさい家の連中もいないんだ。ちょいとハシャぎたくなるのは分かる。会いたかった相手が留守にしてて落ち込むのも分かる……が、出迎えてくれたボウヤ達に迷惑かけんのは、そりゃあ筋が違うってもんだろ。ええ?」


「……はい、先生の仰る通りですわ」


「分かればよろしい。そっちのボウヤに嬢ちゃん達も、アタシの弟子共が済まなかったね。勘弁してやってくれるかい?」


「いや、俺達は別に気にしてないけど……」


「は、はい……」



 落ち込んでいたお嬢様達は立ち直ったようですが、事情を知らぬルグ達には疑問が尽きません。いえ、「先生」や「弟子」という言葉から推測は出来なくもないのですが。



「おお、大きいお婆さんだな。私より背の高い女の人は初めて見たぞ。すごく強そうだ」


「ん? おやおや、そういう嬢ちゃんこそなかなか出来そうだね。ボウヤに背の低いほうの嬢ちゃんもよく鍛えてるみたいじゃないか。よしよし、良い事を思いついたよ! この辺りに思い切り運動できそうな場所はあるかい?」



 その正体を尋ねるよりも前に、話が妙な方向に進んでしまいました。

 筋骨隆々の「先生」はルグ達に向けて、こんな提案をしてきたのです。



「今も昔も、手っ取り早く打ち解けるには思い切りり合うのが一番だからねぇ。ちょいと、親睦がてらにうちの弟子共に稽古をつけてやっておくれよ。身体を動かせば気分もスカッとするだろうよ」



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