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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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基礎から始める概念魔法


 ギブとテイクはワンセット。

 わざわざ詐欺師めいた言い方などせずとも、最初から普通に頼んでいれば普通に受け入れられそうな話ではあります。それでもあえてレンリがああいった言葉選びをするのは性分か趣味か、あるいは万が一にも素直に感謝されないためか。

 経緯はさておき、結果的に女神はアイデアの報酬を身体で、つまりは自身の労働力で支払うことに同意したわけです。



『さて、それでは実際にやって見せましょうか』



 待ち合わせた喫茶店から場所を移して近所の公園。

 女神は道中で購入したいくつかの小道具の中から新聞紙を取り出すと、それをクルクルと緩く丸めて握り、もう片方の手で持ったナイフの刃を目掛けて振り下ろしました。



「へえ!」


『うふふ、お粗末様でした』



 丸く柔らかい新聞紙を受けて、しかし、切り落とされたのはナイフのほう。

 そこらの雑貨屋で買った安売り品とはいえ、丸めた新聞紙で、しかも叩き折るのではなくスパッと切り落とすとなると只事ではありません。



『念の為言っておきますが、わたくしが剣術の達人だったというわけではありません。普段は戦いとかしない人が実はすごく強かった……みたいな設定が唐突に生えてきたりはしませんので。多分、武器や魔法無しのレンリさんと喧嘩してもギリ負けます』



 レンリの知り合いには似たような真似が出来そうな剣の達人も何人かいないこともないけれど、今起きた現象は真っ当な剣術とは全くの別物です。聖剣の製法にも関わってくる、とある特別な種類の魔法によるものでした。



『これはナイフの持つ「切断」という概念を奪って、一時的にこちらの新聞紙に付与したわけです。あとは切りやすいように刃の「硬さ」も抜いてるので、ほら、この通り金属製のナイフがグニャグニャに。種も仕掛けもありません、なんちゃって』


「ふむ、どれどれ?」


『あ、そっちの新聞紙は危ないから注意して触ってくださいね』



 口ぶりからすると手品のようですが、レンリがナイフや新聞紙を検めてもトリックの種らしきものは見当たりません。試しにナイフの刃を強く握っても皮膚が切れることはありませんし、落ちていた木の枝に新聞紙を振り下ろすとこれもスパッと切断されました。どうやら、何かしらの不思議な現象が働いているのは間違いなさそうです。



『概念魔法、とでも言いましょうか』


「この技術が聖剣を造るのに使われている、と」


『ええ、今お見せしたのはその基本中の基本程度の術ですし、これをマスターすればすぐ造れるようになるというわけではありませんが、主要な技術の一つではありますね』



 レンリが要求した報酬とは、オリジナルの聖剣を造るのに必要な技術の幾許かを提供する事とその教導。単に「こんな技術が使われている」とだけ知らされても、全く未知の魔法技術を独力で習得するのは現実的ではありません。

 故に、女神がこの魔法をレンリに教えて、習得させるまでが今回の報酬ということになります。あくまで「今回」のですが(具体的には先程のアイデアと、まだ協力を約束する以前のことですがウルとヒナの「開花」に結果的に貢献したことについての)。今後もしまた女神の益になるような提案なり行動なりを示したら、その都度また同じように報酬を要求することになるでしょう。


 まあ、既に知っている知識を教えるだけなら、女神側としても大した負担ではありません。それに、一度で聖剣の作成に必要な全てを教えるわけでもありません。

 教えるのは、あくまで貢献の度合いに応じた分だけ。

 明確な基準があることではないのでファジィな判断になりますが、レンリとしても一度に覚えることが多すぎても理解が追いつきません。とりあえず今のところは、ですが、双方共にこの取引条件で納得していました。



『モノの内包する性質や意味を強めたり弱めたり。この世界のルールを騙す、みたいな感じでしょうか』



 そうして実演したのが先程の概念魔法。神様自身は自前の魔力を持ちませんが、依代の人物から借りることで魔法を使うことはできるようです。



『これを応用してモノの持つ意味を大きく強めれば、物質の表面的な形状がそれに沿って変化したりもするわけで。聖剣以外の例だと、ヒナの使う液状化も物質の持つ元々の性質を「液体」という概念で上書きしたものですね』


「なるほど、私の知る魔法技術とは随分違うみたいだね」


『ええ、現代の魔法体系とは別の、ほら、例の古代文明由来のアレですから。ただまあ、あんまり使い勝手が良い魔法ではありませんよ? 敵を倒すだけなら普通の攻撃魔法のほうが手っ取り早いですし。物を切るなら最初から刃物を使えばいいわけで。魔力のコストも決して軽くないですから』



 現代の魔法技術では出来ないようなことも出来る。

 が、そうする意味は正直薄い。

 最初からそういう能力を持って生まれたヒナ達はともかく、普通の人間が苦労して習得しても、費やした労力に見合うだけの成果は得られないかもしれません。


 ソレ単体では意味が薄い。

 たしかに凄いは凄いけれど、ただ凄いだけの魔法。

 例として挙げられたヒナにしても、液体を自在に操作する別の能力があるからこそ液化能力に意味があるのです。苦労して覚えても趣味や自己満足以上の意味はあまりないでしょう。



「大丈夫、大丈夫。私の目的だって言ってみれば趣味でしかないわけだし」



 まあそもそもの話をすれば、レンリが聖剣を造ろうとしているのだって単なる趣味でしかありません。使い勝手の悪い魔法にせよ、ただ知的好奇心が満たされるというだけで十分以上に習得する理由になり得ます。



『わたくしとしては諦めてくれたほうが楽だったんですけど、仕方ありませんね。先程やった初歩と同じことができるまで、そうですね……この身体にも色々用事がありますし。こちらも付きっ切りで指導できるわけではありませんから……自習込みで七日間くらいを目途に頑張りましょうか』


「ははは、舐めてもらっては困るな。七日と言わず三日で覚えて見せようじゃないか!」


『ええまあ、こちらとしても早く済むに越したことはありませんけど。それではまず詠唱文の暗記から始めましょうか』


「暗記系は大の得意だよ。これはもしかして三日どころか今日中にマスターしてしまうかもしれないなぁ。ふふふ、自分の才能が恐ろしい!」



 そうしてレンリは新たな魔法の修業に取り掛かりました。

 結論から言うと、初歩を習得して学都に戻るまで六日ほどかかりました。



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