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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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ガッカリ! 輝くお嬢様軍団


 学都の南端に位置する鉄道駅。

 そのホームに、ある意味異様とも言える集団がいました。

 特にうるさく騒いでいるわけでもないのに大層目立っており、周囲の乗客や、見送りや出迎えに来た人々も遠巻きに視線を向けています。


 犯罪の気配を感じるとか、そういう暗い種類の異様さではありません。

 むしろ、見るからに華やかでキラキラしていて、まるで彼女らの周囲だけシャンデリアの光に照らされているかのようです。


 お嬢様。

 一般的にそう呼称されるであろう少女達がホームの隅に固まっていました。



「ふふふ、ここがレンリお姉様が住まわれている街。まるで空気からもお姉様の香りがするかのようでクンクン……スゥー……ハァー……スゥー……スゥ……ゲホッ、ケホッ!?」


「あらあら、アンナリーゼさん大丈夫ですの? 背中をさすりますね」


「でも、分かりますわ。親元を離れての長旅というのは気分が沸き立つものですもの」


「ええ、ついはしゃぎたくなってしまいますわ」



 全員、今すぐ舞踏会にでも出席できそうなドレス姿……というわけではありません。

 近くでよく見れば使われている生地の品質の高さは分かりますが、デザイン的には周囲の乗客が着ている服とさしたる違いはないでしょう。


 例えるなら、高貴な身分のお嬢様がお忍びで街に出る時に選びそうな……例えるも何もそのままですが……という感じの衣服を身に着けています。もっとも、リーダー格のアンナリーゼからして金髪縦ロールなどという、お嬢様以外の人類には到底許されないヘアスタイル。これでお忍びと言い張るのは無理がありそうですが。


 それでも一応は無用のトラブルを避けるために高価なアクセサリ類は旅行鞄にしまってありますし、化粧も最低限しかしていないのですが、圧倒的なお嬢様オーラを一切隠せていません。

 髪型その他の身体的特徴に目を瞑っても身分を誤魔化すのは不可能でしょう。

 本人達にアピールする気など毛頭ないにも関わらず、何気ない一挙手一投足、細かな所作から高貴さがドバドバと滲み出ていました。


 周囲の注目が集まるのも無理はありません。

 彼女達はいずれもかなりの美人揃い。これが舞踏会の会場であったなら、精悍な貴公子達が我先にと声をかけてきたことでしょう。

 もっとも、お嬢様方の近くには使用人や護衛と思しき人々が、歓談の邪魔にならない程度の距離を置いて控えています。それを見た上でなお近付こうとする勇敢な、あるいは無謀な男性はなかなかいないでしょうけれど。


 そう、興味に任せて近付こうとする「男性」はいませんでした。



「なあなあ、お母さん。なんだか変な奴らがいるぞ。あれじゃないのか?」


「え、変って……? あ、うん……そう、みたい」


「こら、ユーシャ。一人でどんどん先に行くなよ。迷子になるだろ」



 勇者らしく勇気があるから、というよりも単に空気を読んでいないユーシャが、ホーム上のお嬢様軍団を見るや一直線に近付いていきました。ルカとルグは慌ててそれを追いかけます。



「あら、あちらをご覧になって? あの方、お姉様のお友達のルカさんでなくて?」


「ええ、前にお茶会でお会いしましたもの」


「ごきげんよう」


「ごきげんよう、ルカさん」


「え、あ、その……ご、ごきげんよう……です」



 ルカとお嬢様達には既に面識があります。

 互いに顔を覚えていたおかげもあって、スムーズに再会を果たせました。

 レンリの友人だからという理由も少なからずあるかもしれませんが、彼女達は身分差を理由に無用の壁を作るタイプでもないようです。



「それで、ルカさん。お姉様はどちらですの? ああ、早くお会いしてご挨拶……ハグも……いえ、出来ればもっと色々……そういえば風の噂によると市井の方々の間にはパジャマパーティーなる素敵な風習があるとか。それなら合法的かつ自然にお姉様との同衾も……」


「え、えと……レンリ、ちゃん、は……」



 むしろ、距離が近すぎるくらいかもしれません。

 決して語気を荒げたりしてはいないのに、上品な笑顔の圧にルカは若干怯えています。それぐらいにレンリが彼女達から慕われているということでもあるのでしょうが。



「アンナリーゼさん。レンリお姉様のことですから、どこかでお腹を空かせて食べ物屋さんに寄り道しているのではなくて?」


「ここでお肉を焼いたら匂いに釣られて出てこないかしら?」


「ナイスアイデアですわ。武器屋さんで切れ味の良さそうな刃物を見繕っていただいて、お肉に刺しておけば完璧ですわね」



 ……多分、慕われているはずです。

 それにレンリのことだから本当にその作戦で誘き出されそうだと、ちょっと離れた位置で会話を聞いていたルグも思ってしまいました。


 まあ匂いの届く場所にいれば、ですが。

 残念ながら、今はそういう方法でレンリを誘き寄せるのは難しいでしょう。



「え、えっと……レンリちゃん、は……その……あの」


「あー……ストップ、ストップ。いきなり横から悪いけど、ルカが困ってるからちょっと落ち着いてくれないか?」



 お嬢様軍団の圧力に押されていたルカを見かねて、ルグが助け舟を出しました。



「あら失礼。貴方は……もしかして、ルグさん?」


「俺を知ってるのか?」


「ええ、レンリお姉様から伺ってますわ。小っちゃくて可愛らしいと」


「……まあ、うん、そのルグだ。それでレンの居場所についてなんだけど、俺とルカはあいつからその件で言伝を頼まれてここに来たんだよ」


「言伝、ですの?」



 そもそも、友人達の出迎えなんて人任せにするようなことではありません。

 本来であればレンリ本人が顔を出すべきでしょう。

 それにも関わらず彼女が今この場にいないのには、重大な、かどうかはさておき、それなりの理由があるのです。レンリに会うのを楽しみにしていた彼女達には、なかなか言いにくいことではありますが。


 と、ここで空気を読まないユーシャが会話に割り込んできました。


 

「ああ、レンリに会いたかったのか。あいつなら今この街にいないぞ?」


「お姉様が、い、いらっしゃらない……!?」



 言伝の内容も、そもそも今日の目的すら知らなかったユーシャですが、お嬢様達の一番知りたかったことについては聞いていました。その言葉を聞いた少女達は愕然とした表情を浮かべています。



「うん。ちょっと前から用事で迷宮都市ってとこに行ってるんだ。いいなぁ、わたしも行きたいなぁ」



◆お嬢様達それぞれの名前と特徴については近いうちに

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