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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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勇者のユーシャちゃん


 そして、あっという間に半月ほどが過ぎました。

 特に事件らしい事件もなく街は平和そのもの。

 ちょっと前に滅びかけたとは思えない穏やかな日々です。



「なあなあ、お父さん」


「だから、お父さんは止めろって言ってるだろ」



 けれど、そんな街の様子とは裏腹にルグ達の親子問題にはほとんど変化がありません。娘を自称する彼女は毎日のようにルグやルカ後ろを付いて回っているのですが、やはり自分達よりも年上に見える人物から親扱いされることには慣れないようです。



「むう、お父さんは頑固だな。お母さんもそう思わないか?」


「わ、わたしも……その呼び方、は……ちょっと」



 相手に悪意や落ち度がないだけに強く拒絶することもできません。

 毎日毎日、飽きもせずに同じようなやり取りを繰り返していました。



「ところで、今日はどこに行くんだ?」


「なんだ、ユーシャ。知らないで付いてきてたのか?」


「駅、だよ……お迎え……頼まれた、から」



 とはいえ、親子関係以外の部分では進展がないわけでもありません。

 特に大きな成果は、名無しだった彼女の名前でしょうか。


 流石に名前が無いと何かと不便なので、迷宮達やレンリ達も協力して何日もかけて色々な案を出し合い、その中で本人が最も気に入った名が選ばれました。

 勇者だからユーシャ。

 堂々と「勇者」そのものを名乗るのは問題がありそうですが、この辺りの国々で使われている言葉での「勇者」とは発音や綴りが違います。

 元々、様々な国や地域からの移民が多い学都には聞き慣れない名前の住人も少なくありません。人に聞かれても多少変わった名前だと思われる程度でしょう。ちなみに名前が決まった本人は「勇者のユーシャちゃんだぞ。いえい」と変な喜び方をしていました。



「駅か。それなら、わたしは列車に乗ってみたい。なんだか楽しそうだ」


「ふふ……それは……また今度、ね」


「今日は出迎えだけだからな。まあ、そのうち乗る機会もあるだろ」



 謎の女性、改めユーシャの外見は成人のそれですが、精神面は子供っぽい部分が少なからずある様子。今みたいに列車に乗りたがったり、ルグ達と別行動をしている時はウルやヒナや街の子供達と一緒に遊んだりもしているようです。

 まあ、誕生してからの時間で考えれば、子供っぽいのではなく子供そのもの。むしろ異常に早熟であるとすら言えますが。



「それからそれからな、列車とどっちが速いか競走したり、どっちの力が強いか押し合いっこもしてみたい。なんだか楽しそうだ」


「……それは永久にやるんじゃないぞ?」


「あ、それ知っているぞ。フリというやつだな? こないだレンリが言っていた。あいつは面白いことを色々教えてくれる良い奴だ」


「フリじゃないからな! 絶対やるなよ!」



 もっとも、精神年齢は子供でも身体スペックは超人級。

 どうやらゴゴが近くにいなければ勇者としてのフルスペックは発揮できないようですが、素の状態でもルカと同等の怪力を有しているのです。決して本人に悪気はないのですが、好奇心の赴くままに振舞ったらどんな被害が出るか分かったものではありません。



「っと、急がないと。遅刻したら後でレンに文句言われそうだ」



 あまりのんびりしている時間はなさそうです。

 いえ、待ち合わせた時点では余裕があったのですが、ユーシャの相手をしているうちに時間ギリギリになってしまいました。



「ルカはそいつらの……じゃなくて、その人達の顔知ってるんだよな?」


「うん……みんな、良い子……だった、よ」



 本日、ルグ達はレンリからちょっと変わった仕事を頼まれていました。

 それが遠方からやって来る知人の出迎えというわけです。冒険者の仕事という風ではありませんが、雇い主の希望とあれば断る理由もありません。

 まあ、これがもし初対面の相手であれば人見知りの激しいルカは困ってしまったかもしれませんが、その相手というのは彼女にとっても顔見知り。友人、と言っても差し支えないでしょう。



「その時は俺だけタイミング合わなくて会えなかったからなぁ。いやまあ、話を聞いた感じだとタイミングが外れて助かったのかもだけど」


「うん? お父さんはよく分からないことを言うな。そいつらに会いたかったのか会いたくなかったのか、どっちなんだ?」



 事情を知らないユーシャには、ルグが何を言っているのか分かりません。

 


「だってなあ……女ばっかりの中に男一人って結構キツそうだし」


「そう……? いつもと……あんまり、変わらなく……ない、かな?」


「ほら、なんていうかルカも分かるだろ? そういう種類の人達って普段から馴染みがないから実際にどういう感じなのか全然想像できないし。いや、レンも一応はソッチ側なんだろうけど、流石にあいつが例外なのは俺にも分かるし」


「あ、うん……そういえば、わたしも……最初は、すごく緊張してた、ような」



 ルグが何について心配しているのか、ルカにも理解できたようです。

 隣で聞いていたユーシャは、ますます不思議そうに首を傾げるばかりでしたが。



「むむむ、わたしには二人が何を言ってるのか全然分からないぞ。結局、そいつらはどういう奴らなんだ?」



 その疑問に、ルグとルカはぴったり口を揃えて答えました。



「「お嬢様」」



◆名前の案はいくつか考えたんですが最終的にシンプルで覚えやすそうなのにしました

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