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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
八章『新生勇者伝説』

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ピンと来た? キュンと来た?


 キッカケは今から半年近く前。

 レンリ達が第二迷宮『金剛星殻こんごうしょうかく』を攻略していた頃のこと。


 いえ、そもそもの話をするなら五年ほど前、神造迷宮が誕生した時期にまで遡ることになるでしょうか。迷宮が、そして二振り目の聖剣が生み出された頃に。


 ゴゴの本体である第二迷宮は他の迷宮群と比べても特殊な性質を有しています。

 迷宮でありながら剣でもある。

 剣でありながら迷宮でもある。


 何故、別々に造らずに一緒にしてしまったのかについては、正確なところは創造主である女神にしか分かりません。第二迷宮に与えられた能力と、持ち主の意のままに姿を変えるという聖剣の相性が良かったからか。あるいは単に、思いついて出来そうだったから何となくやってみた、程度の軽い理由でしかないのかもしれませんが。


 ともあれ、生まれながらに聖剣としての性質を有していたゴゴには、誕生当初から探しているモノがありました。神から与えられた責務だからというよりも、ある種本能的な欲求にも近いのかもしれません。もしも他の武器に意思があったら、きっと同じように思うのではないでしょうか。


 いかに強力な武器も、それ単体では置き物としての価値しかない。

 武器には、それを使う担い手が必要。

 自在に化身を生み出せるゴゴには高度な自立性がありますが、それでも彼女だけでは本来の己の性能を一割も引き出すことができないのです。


 無論、担い手は誰でもいいというワケではありません。

 特に、絶大な威力を有する聖剣ともなれば人選には細心の注意が求められます。


 そんなわけで、ゴゴは迷宮の管理や試練官としての業務をこなし、時折街に出ては美食を楽しんだりの息抜きもしつつ、やって来る人間の中に目ぼしい人物がいないかと何年も探し続けていたのです。


 もっとも、肝心の成果は芳しくなかったのですが。

 迷宮に来る人間の中には腕が立つ強者も少なからずいました。

 知恵が回ったり、勇気があったり、幸運に恵まれていたり等々、腕っぷし以外の観点からしても見所のある人物はそれなりにいないこともありませんでした。


 しかし、どうにもピンと来ない。

 ゴゴ自身にも明確な理由があったわけではないのですが、誰も彼も何かが違う気がする。それでも焦って適当な相手を選んでしまうくらいなら、長く時間がかかってもじっくり納得できる相手を探すべきだろう、と。そんなスタンスで気長にどっしり構えていて……そして、今から半年前。とうとうゴゴはピンと来る人間を、人間達を見つけたのです。


 いえ、その時は本当にそう思っていたのです。

 ゴゴ自身、冷静になってからよくよく考えると、その感覚は剣が使い手を選ぶためのインスピレーションとしては的外れだった感がなくもないのですが。







 ◆◆◆







『ほら、我の迷宮でルカさんが大暴れした時のことなんですけど』

 

「あ、あの時の、話は……は、恥ずかしい……」


 この説明をするに当たっては、その話題を出さないわけにはいきません。

 ルカにとっては人生最大の黒歴史ではありますが。

 自分のせいでルグに大怪我をさせてしまった、と思い込んでからの自暴自棄の大暴れ。溜まりに溜まったストレスや自責の念や言葉にできないモヤモヤなどが大爆発して、完全に正気を失くしてキレてしまったわけです。


 もっとも、その件自体は仲間達の、特にルグのファインプレーのおかげもあって無事に解決しています。それに、あの一件がなければルカが彼に恋をすることもなかったかもしれません。



「人生、何が幸いするかわからないよね。あの時は……たしかこう、ルー君がルカ君を抱きしめるみたいにしてさ」


『ええ。正直、我もあれはかなりキュンと来ましたよ』


「ん。浪漫」


「おい待て待て、詳しく言うな。俺まで恥ずかしくなるだろ!」



 当時、現場にいた女性陣、レンリとゴゴとライムが本題から脱線したまま盛り上がっています。彼女らにとっても、あれは相当に印象深い思い出のようです。


 ちなみに、当時現場にいなかったヒナやウルは蚊帳の外に置かれる形になってしまい、一緒に盛り上がれずにいましたが、



『へえ、そんなに? 我も見たかったわ』


『うんうん。やっぱり、こういうのは臨場感が大事なの』


『それなら、当時の我の視聴覚データを共通の記憶領域に上げておきますよ』


『ありがとう、ゴゴ姉さん。どれどれ……へえ……ふむふむ』



 そこは迷宮同士。口頭や文章で伝えるよりも詳細に、かつ臨場感をそのままに情報を伝える便利な手段があるようです。プライバシーも何もあったものではありません。



「おい、ゴゴ。話題を逸らすな! 結局、そいつは誰なんだよ?」


『おっと、失礼しました。じゃあ、もう暗くなってきましたし、要点以外は端折りながらいきましょう』



 この調子ではいつまで経っても本題に入れそうにありません。それ以前に今のままの話題が続くのは、ルグとルカにとって都合がよろしくありません。



『あの時のやり取りはロマンチックでドラマチックで、我としても相当に感慨深いものがあったわけです。はっきり言って、かなりキュンと来ました』


「だから、それがいったいどうしたって――」


『それであの時の我は、ついついこんな風に思ってしまったんですよ。ルカさんの肉体的才能と、ルグさんの自分の身を顧みずに人を助けようとする精神性。これを併せたらすごいことになりそうだぞ、と』



 もし二人の長所を併せ持った人間がいたとしたら。

 自らの、すなわち聖剣の担い手として相応しいのでは、と。



『ええまあ、今にして思えば当時の我が冷静さを欠いていたことは否めないんですけどね。そもそも、ピンと来たんじゃなくてキュンと来たわけですし。剣が使い手を選ぶ決め手になるかというと……でもあの時は、我もテンション上がって細かいことが気にならなくなっていたと言いますか。時間が経って頭が冷えた頃には、もう後戻りできない段階まで進んでいたと申しますか。お二人の血液や体組織は我の本体に分解・吸収される過程で遺伝情報まで解析済みでしたし、「あ、これなら出来そうだな」って。コピー元と同一の個体を増やすのではなくお二人の要素を掛け合わせる形になりますし、他にも色々と手を加えているので厳密には本来のそれとは異なるんですが……ええと、皆さんクローンってご存知です?』



 まあつまり、なんとも珍しいことに今回はゴゴのやらかし案件だったのです。



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