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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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よい終末を! レッツゴー新世界


 正午から始まった説明会兼昼食会は、もう随分と長引いていました。

 テーブルを埋め尽くすほどだったご馳走もほとんど空っぽ。

 残っているのは一部の肴とお酒くらいでしょうか。

 一部の大飯喰らい達としてはおかわりを注文したいところですが、これでも一応は公に出来ない内容について話し合う秘密の集まり。話すべきことを全て話し終えるまでは店のスタッフを呼ぶこともできません。



『結構長く話し込んじゃいましたけど、まだ他に何かありましたっけ?』



 ここまでの話の流れ上、仕方のない面もあったとはいえ、話題が予想外の方向に頻繁に逸れてしまっていました(特に超古代文明の下り等)。話す側はまだ良くても、聞く側としては情報過多で頭がこんがらがってしまいそうです。



『ええと、ええと……はい! 我からの質問なの。ところで、結局なんでアレは我とかヒナを狙ってきたのかしら? 失敗してたけど本体も狙ってたみたいなの』


『はい、良い質問ですね、ウル。その理由はですね……なんと!』


『な、なんと?』


『なんと、わたくしにも正確がところはよく分からないんですよ。ごめんなさいね』



 疲れてきたのか、それとも飽きてきたのか、だいぶグダグダ感が出てきました。

 が、知っていてあえて答えを誤魔化しているわけでもなさそうです。



『だってほら、さっきも言いましたけど、今のわたくしと元の身体だったモノとはもう無関係ですから。まともな思考力の残ってない本能だけの状態で何をしたかったのかというと……まあ、推測くらいはできなくもないですが』



 ここで話をしている神様と元の肉体であった『神の残骸』の間には、もはや繋がりは残っていません。故に正確な理由は本人ですら推測に頼るしかないのだとか。



『多分ですけど、わたくしの創造物である迷宮や聖杖から神力を取り込んで、瀕死の状態から復活しようとした、とか?』


「復活って、そんなのできるのかい?」


『いえ、無理ですよ。そんなことが出来ればとっくにやってます。仮に迷宮の深くにまで食い込んでも、昨日の化け物みたいなのがもっと強大になるばかりだと思いますよ。でもまあ、アレでも一応は生き物ですから。死にかけていたのが生存本能で動いたっていう考えは割と筋が通るのではないかと』



 『神の残骸』がウルやヒナを通じて迷宮本体への浸食や捕食に成功したとしても、元の知性と肉体を備えた神として復活することはない。もしそういう形での回復が可能ならば、遥か大昔の化石になる前のフレッシュな肉片だった時に既に復活を果たし、その後の歴史は大幅に違うものになっていたはずです。

 とはいえ、元通りの形になれるか否かという理屈を抜きにして、生命である以上は生存本能というものが備わっているはず。化石になってなお完全に死に切らないほどの生命力となれば、通常では考えられないほどに生存欲求が強くともおかしくはない。

 それ故に本能的に栄養源となり得るウルを攻撃し、迷宮本体との経路を遮断される前に吸収した神由来のエネルギーで不完全な怪物として再生した。そう考えれば、一応の筋は通ります。


 けれど、もし他に理由があるとすれば?



『もしくは……それこそ根拠のない想像でしかありませんけど』



 意思なき化石いしが迷宮を狙った理由。

 それが本能的な生存欲求によるものだけではないとしたら。



『かつてのように世界を守ろうとしたのかもしれません。新しい神々を生み出して世界を救おうとするわたくしから。なにしろ全ての迷宮が神になった時が、ある意味では今の世界が終わる時だとも言えますから』







 ◆◆◆







 新しい神々を生み出せば、この世界は救われる。

 しかし、その救世は古い世界の終わりをも意味する。



『誤解なきよう申し上げておきますと、世界が終わると言っても現在の生命が死滅するわけではありません。人も動物も植物も魔物も、虫一匹や草一本でさえ死ぬことはありません』



 世界が終わる。

 物騒なことこの上ない字面ではありますが、神様としてもここまで苦労して生き延びさせてきた人類や他の生物に危害を与えるつもりはありません。



『終わるのは、あくまで今の世界の在り方だけです。終わるというより、変わる。そうですねルールとか、あるいは世界観とでも言いますか』



 他の皆としては反応に困ります。

 在り方。ルール。世界観。

 そんなことを言われても意味が分からないと思うのが通常の反応でしょう。



『先程、神は人々から影響を受けると言いましたね。人間ほど自我の発達した生物はそう多くありませんし、それ自体は間違いではありませんが、正しくは人々以外の動植物や自然からも影響される。そして、逆にそれらもまた神の影響を受けるのです。一方的ではない相互作用。お互いに不可避の影響を与え合っているわけですが……』



 神と世界との相互関係。

 それは一方通行ではない両想い。

 互いが互いに影響し、影響される。



『その仕組みを利用してこの世界を理想郷にしちゃおうかなー、なんて思ったわけですよ。そのための新しい神造りなわけでして。七柱もいれば欠陥だらけの今の世もかなり良い感じになるでしょう』


「欠陥だらけ? 今時分はそこそこ平和だし、そんな悪くないように思うけど?」


『いえいえ、レンリさん、そこは譲れません。欠陥だらけですとも。今の世界の責任者としてはちょっと看過できません。たとえば、そうですね――――』



 この世界は看過できない欠陥に満ちている。


 たとえば、生まれながらに衣食住に困らない裕福な生活を保証された者がいる一方で、貧しい家に生まれ今日の食事にも困る者がいる。


 たとえば、健康に恵まれ病気や怪我と縁のない老人がいる一方で、幼くして病魔に苦しむ子供がいる。


 たとえば、千年を超える寿命を持つ種族がいる一方で、十年に満たない短命の種族として生まれた者がいる。


 たとえば、何をやっても人並み以上の才覚を発揮する天才がいる一方で、何をやっても上手くいかない凡才がいる。


 たとえば、一切の落ち度がないにも関わらず、ただ運が悪かったというだけで事故や事件に巻き込まれ、理不尽な不幸に遭う者がいる。


 たとえば。

 たとえば。

 たとえば。

 例を挙げようと思えば限りがない。

 そんなことはない、なんて口が裂けても言えやしない。 


 けれど、もし、それら全てを解決できるとしたら?

 肉体を持って活動可能な神々が人々の営みを手助けする、だけではなく。



『わたくしとしても長く付き合ってきた今の世に愛着はありますけど、まあ、それと引き換えに世界平和を実現できるのなら考えるまでもありません』



 世界を構成するルールそのものを根底から書き換える。

 新しい神々による世界法則の再定義。

 そうすることで全ての人が望むだけの幸福を得られるような、現在の常識や資源や運命や物理法則の限界すらをも超越した世界が実現できるとしたら?



『というわけで、あの迷宮は世界を救うために世界を終わらせる装置だったのです。うふふ、すごいでしょう? 尊敬してもいいですよ?』



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