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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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神の成り方、神の在り方


 神を食べたウルが神になった。

 神造迷宮の真の機能は新たな神々を生み出すことであり、迷宮の化身である彼女には、『神の残骸』に残留していた神聖力とでも言うべきエネルギーを受け入れる下地があった。そう考えれば異常な急成長にも一応の説明はつきます。



『あれ? でも、我はアレ食べてないわよ?』



 とはいえ、今回の事件における不明点はまだまだあります。

 急激なパワーアップを果たしたのはウルだけではありません。



『というか、お姉ちゃんはよくあんなの食べようと思ったわね?』


『ちっちっち、見た目が悪い食べ物ほど意外と美味しかったりするのよ』



 ヒナが関わった局面ではそもそも食べることを考える余裕もありませんでしたが、それを抜きにしても普通のセンスをしていたら、あんなゲテモノに口を付けてみようとは思わないでしょう。

 結局、ヒナは最後まで『神の残骸』の力を取り込んではいませんでしたが、それでも現に強くなっています。その理由は何なのでしょうか。



『たしか……人混みの中で知らないうちにあるじさまに触られたわね』


『ええ、それで迷宮外での制限を解除しましたけど、その後の強化にはまた別の理由があるんですよ。ふふ、分かります?』



 この口ぶりからするに、神様はちゃんと答えを知っているようです。



『まあ、今のままでは考える材料が足りないかもですし? ちょっとヒントをあげましょう。そもそも、わたくしがタイミング良くこの街に来たのは偶然ではなくて、ちょうどあの時あの場所にいる必要があると予知していたからなんですが……』


「へえ、予知能力なんてあるんだ」


『そんなに使い勝手の良いものでもありませんけどね。昨日も「そこにいたほうが良い」ってことは前もって分かっても、その理由は直前まで分かりませんでした。遠くの未来とか、個人の未来をピンポイントで知ろうとすると、信じられないほどコストが跳ね上がりますし。あ、でも天気予報とかならある程度大雑把でも役立ちますから得意分野ですよ』



 流石は神と言うべきか。

 神様には予知能力があり、昨日はそのおかげでヒナの手助けをすることができた。

 心臓を怪物の針で突き刺されたレンリが無事だったのも、ヒナの能力で一時的に肉体を液化されたからですし、見方によっては命の恩人(恩神)とも言えます。


 が、レンリが注目したのは予知能力そのものではありません。



「コストが跳ね上がる……コストね。予知能力を使うのには何らかの対価となるものが必要となる、と。それは魔力とは違うのかい?」


『ええ、別物ですね。魔力って要は生き物の生命エネルギーなんですけど、ほら、わたくしが生きているかというと微妙な線ですから。そうですねぇ、神やそれに類する者だけが使える特別な力、みたいなものがあると考えていただければ』


「ふむ、そうなると昨日の状況から考えて……なるほど」



 神だけが使える特別なエネルギーが存在する。

 昨夜の、ヒナが急激に力を増したタイミングの前後で何があったか。

 ヒナ自身の変化というよりは、むしろその周囲。街や人々の様子はどうだったか。それを考えれば答えは自ずと導かれます。



「信仰心、かい?」


『うふふ、ちょっとヒントをサービスしすぎたかもしれませんね』



 救いを求める祈りや応援。

 そういった願いの力がヒナに集まり、ウルと同じく元から神になり得る素養があったものが、キッカケを得て覚醒した。それが昨夜の超パワーアップの原因です。



『ついでに申し上げておきますと、昨日解決した後でヒナが街の皆さんから随分モテていたじゃないですか。あれも神になった証拠みたいなものでして。カリスマという言葉の由来はご存知ですか?』



 カリスマという言葉の原義は「神の賜物」という宗教用語。

 それがいつしか政治的指導者や英雄が有する超常的な資質を意味するようになりました。魅力や威圧感などより細かな分類はできそうですが、要するに「人を惹きつける力」のこと。



『神に属する存在であれば、自然とそういったカリスマ性を帯びるものなのです。住民の皆さんがヒナに好意的だったのも、単に命の恩人だからというだけでなく、無意識のうちにカリスマに影響を受けていたのでしょうね』


『そ、そうなの? 怖がられるよりはマシかもしれないけど、我としては洗脳でもしてるみたいでちょっと……』


『ああ、大丈夫ですよ。よっぽど心が不安定でなければ、そこまで強く影響を与えることはありませんから。昨夜は命の危機に晒された直後で心が揺れていた人が特別に多かったんでしょうね』



 人を惹きつけるカリスマ性といっても、基本的にそれほどの影響力・強制力はありません。特に今のヒナは神といってもまだ「なりかけ」。大きな事件や災害で人心が揺らぎやすい状況でもなければ、精々、他者から多少好意的に見られやすい程度の影響しかないはずです。



『それはちょっと嬉しいかも……あ、でも』



 平時においては微々たる影響とはいえ、このカリスマを上手く活用すれば友達百人も夢ではありません。しかし、ヒナには不安があります。



「そうそう、私からも聞いておきたかったんだ。ヒナ君はもう突然我を失ったりはしないそうだけど、その根拠を聞かないうちに安心しろって言われてもね。特に今はもう人の力で拘束なんて出来ないわけだし」


『うん、それは我も知りたい、です。もし今の力で暴れたりしたら……』



 神の力を得たヒナがその気になれば、一瞬でこの街を跡形もなく破壊できるのは昨日見た通り。もし万が一にも我を失くして怒り狂うようなことがあれば、世界そのものを滅ぼす災厄になりかねません。


 その問いに対する答えは以下のようなものでした。



『そうですね。では今度は神の在り方というものについてお話しましょうか。神とは人と共に在るモノ。それはただ信仰をエネルギー源とするからというだけではないのです。神の人格、というのもおかしな言い方ですけれど――』



 神の在り方。

 具体的には人格や振る舞いといったものは、信仰の源である人類の影響を強く受けます。


 人類が平和を望み心穏やかに暮らすなら、頼もしい守護神として。

 人類が闘争を望み破滅に突き進むのなら、荒ぶる戦神や破壊神として。


 人が願ったように在る。

 それが神という存在の宿命なのです。



『だから、少なくとも当面は大丈夫。ヒナに祈った人達は純粋に救いを求めたり感謝を向けたりしただけですから。彼らが願う通りに貴女は心穏やかなままでいられるでしょう』



◆未回収の謎を回収するのに思ったより長くかかっていたりいなかったり。多分もう二、三話くらいあれば今章が終わるんじゃないかなと思わなくもないような気がそこはかとなくするかもしれません。

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