神の残骸と食い意地の張った幼女
かつて、この世界には知られざる超古代文明が実在した。
しかし、ちょっとしたアクシデントで当時の人類は絶滅スレスレにまで追い詰められ、同時に全知全能系女子(自称)だった神様も自前の肉体と能力の大部分を喪失。それでも辛うじて人類を存続させ、幾度となく訪れる絶滅危機を乗り越え、なんやかんやあって現代に至る。そして――。
「ちょっといいかい?」
ここまで一同は適当に飲み食いしつつ、また頻出するツッコミどころをスルーしつつ、神様の話に耳を傾けていたのですが、ここでレンリからの「待った」がかかりました。
女神の目的は、この世界や人類を存続させること。
それ自体は決して間違ったものとは言えません。
そもそも先程の話が本当ならば、神による介入がなければ人類は歴史上のどこかの時点で滅亡していた可能性が少なくない。現人類としては感謝こそすれ非難するはずもなし。
「この世界や人類が将来的にも滅びないようにする。その目的自体はまあ良しとして、どうして『迷宮』が出てくるんだい? ねえ、ウル君達はどう思う?」
『え、さあ? 分かんないの』
『その目的は我も初めて知りました。我々とその目的の関連について、思い当たることはないでもありませんけど……まあ、まだ推測の域は出ませんね』
『我もお姉ちゃん達と同じかしら』
けれど、何故そこで迷宮が関係してくるのか。
この場にいる迷宮達はウルとゴゴとヒナの三名のみですが、いずれも確たる答えは持っていないようです。もしも迷宮に世界や人類を永続させるような機能があれば、彼女達にも大きな関係があるはずなのですが。
『そうですね。何から話したものでしょう……ああ、そうそう。ウル、昨日は随分と沢山アレを食べたみたいですね? 美味しかったですか?』
『うん! こってりとして、さっぱりとして、それでいてまったりとしていて絶品だったの! はっ!? でも、アレがあるじさまの昔の身体ってことなら、もしかして怒られちゃったり……?』
『いえいえ、心配しなくてもいいですよ。アレは今のこのわたくしとは完全に別物ですし。むしろ、人間の皆さんのお手伝いをよく頑張って偉かったですね。よしよし』
と、ここで話題の方向が急転換。
昨日の戦いでウルは『神の残骸』である怪物を、それはそれは美味しそうに食べていました。その食べっぷりといったら大したもので、彼女自身の体積を遥かに上回るほどの量を凄まじい速さで口に運んでいました。
現在女神の依代になっている少女やレンリも人間離れした大食いではありますが、流石にトン単位の食料を一度に食すことはできません。多分、できません。少なくとも今はまだそこまで人間を辞めてはいないはずです。
「へえ、そんなに美味しかったんなら、ちょっと味見をしてみたかったなぁ」
「まずい」
『そういえば、我以外の人達は美味しく感じられなかったみたいよ?』
『ええまあ、人間の皆さんが食べてもそうでしょうね。ウル以外だと、あとは他の迷宮達なら美味しく感じられるかもしれませんけど』
その現場は見ていないレンリは『神の残骸』の味に興味を示しましたが、それは昨日の時点でライムがもう確かめています。彼女以外にも現場にいた物好き連中が何人か味見をしていましたが、ウル以外の誰が食べても粘土を齧ったような味と食感に思えて、とても食べられたものではありませんでした。
『そういえば、ウル。本体との繋がりはもう回復していますね?』
『うん、寝て起きたら戻ってたの。我は今日も絶好調なのよ!』
『ふふふ、それは大変結構。迷宮外でのリミッターも外れたままですか。なるほど……まさか食事という形で成るとは、正直わたくしにとっても予想外だったのですけれど。ええ、結果オーライということで』
ウルの能力は昨日から大幅に上がっていました。
本来は普通の子供並みに抑えられるはずが迷宮外でも強いまま。
しかも、その能力は元々の本体内部での全力を大幅に上回っています。
その原因と考えられるのが『神の残骸』を食べたこと。
この情報が考えを進めるためのヒントとなりました。
「ウル君がパワーアップしたのはアレを取り込んだからで、アレは元々神様の肉体だったもので……ん、んん?」
『あら、レンリさんはお気付きになられました?』
「根拠に欠けるただの勘だけど……え、まさか本当に?」
『はい、それで正解ですよ。正確にはまだ完全にそうなったわけではなく、なりかけ、くらいの段階ですけれど』
「なるほど、つまり神造迷宮って……へえ、ウル君達がねぇ」
最初にレンリが答えに辿り着きました。
論理的な考えに基づく推理というより、半ば勘で当てたようなものですけれど。
『なるほど、我々の行き着く先はそこですか』
『責任重大ね。我に務まるかしら……』
続いて当事者であるゴゴやヒナも気付いたようです。
『え、なになに? 皆、どうしたの?』
「ウル君、おめでとう。あれ、おめでとう、でいいのかなコレ?」
『えっと、ありがとう? でも、何がおめでたいのか分からないのよ?』
ウルはまだ自分が何になったのか気付いていない様子でした、が。
「ウル君。キミ、神様になったんだってさ」
『ふーん? そう言われてもピンと来ないの。そんなことより、お姉さんがさっきから手元にキープしてるお肉を我に寄越すの!』
答えを聞いても調子は変わらず。
神を食して神になろうが普段通り。
ウルは相変わらずウルなのでありました。
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神造迷宮とは。
即ち、神が造った迷宮である。
重ねて即ち、神を造るための迷宮である。




