今明かされる衝撃の真実! 幻の超古代文明は実在した!?
昨日の怪生物の正体。それは……。
『昨日のアレの正体はですね、なんと……あ、このオードブル美味しいですよ』
「おいこら、待ちたまえ。いや、待たずにさっさと吐きたまえ」
『あるじさま、我も流石にそれはないと思うわよ?』
この期に及んで更に引っ張ってきて一同は内心かなりイラっと来ましたが、本気ではぐらかすつもりなら、そもそもこんな場を設けるはずがありません。
『ふふふ、皆さんの緊張を解そうという、わたくしなりのゴッドジョークです。それで正体なんですけどね、アレは物凄く古い時代にいたとある生き物の成れの果て、みたいなものでして』
「成れの果て? よく分らぬが、アンデッドのようなものだろうか?」
『アンデッドとは動く仕組みが違うのですよ。いわゆるゾンビやスケルトンのような魔物とは別物でして。ほとんど死んでいるけれど、まだほんの少しだけ生きている、みたいな? まあ、まともな意識や思考は残ってませんし似てるといえば似てますが』
ゾンビやスケルトンのようなアンデッド系の魔物は、かつて生きていた生物の死骸が肉体に残留していた魔力や土地の魔力の影響で変質して発生するものです。
ごく稀に狂気的な魔法使いが不死を求めて自分の肉体をアンデッド化しようとする事例・事件もありますが、生前の意識を保ったまま変性に成功するケースはまずありません。自然発生型のアンデッドと同じく人を襲う怪物と化して、最終的にはより強い魔物や人間に倒されることがほとんどです。
しかし、昨日の怪物は生物の成れの果てでありながらも、完全に死んでいるわけではない。ほんの僅かに残った自前の生命力で動いていたのだとか。
『わたくしのほうでも昨夜からちょっと調べてみましたが、どうやら博物館に収蔵予定だった化石の一つがアレだったみたいです』
「化石って……そんな状態で生きてたっていうのかい?」
『ええ、生きてたんですよ。とはいっても、元々残っていた生命力だけでは大したことはできません。最初に近くを通りかかったウルを攻撃してエネルギーを吸収するのに失敗していたら、それだけで力を全部使い果たして、完全にただの化石になっていたと思いますよ』
「ということは、つまり……昨日、たまたまウル君が博物館の近くを通りかからなかったら、そもそも事件も何も起こらなかったと?」
『ええ、まあ、そういうことになってしまいますねぇ』
『なのっ!?』
難しそうな話に早々に飽き、テーブルの隅で揚げた芋と格闘していたウルは、突然話を振られてビックリしています。
「まあまあ、昨日のウルはあくまで被害者であり我々の恩人だ。責任があるとすれば、それはあの怪物だけであろう」
『シモンさんの言う通りなの! 我は我の無罪をしゅちょーするの!』
まあ流石に、昨日の事件についてウルの責任を本気で追及しようなどと考える者はこの場にいません。それに今、追及すべき点は他にあります。
「それで、あの怪物の正体はなんなのだ?」
『ですから、アレは古い時代の生き物の成れの果てでして……』
「いや、だから、その生き物とは具体的に?」
『具体的に、ですか。ええまあ、ちゃんと説明はしますよ? しますけれど……』
もうほとんど死んでいるけれど、それでもまだ少しだけ生きている。化石となってすらも完全に死に切らない生物とは、つまり具体的にどういう存在なのか。
その具体的な正体に話題が及ぶにつれ、急に神様の舌の回りが鈍りました。一応、話すつもりはあるようなのですが、どうも慎重に言葉を選んでいるような様子です。
『ええとですね……先程も申しましたけれど、アレにはもうまともな意識や思考は残っていない暴走状態であって、他の誰かが操っていたとか、そういうのでは全然ないんですよ。ついでに付け加えておきますと、元々のちゃんと生きていた頃のアレとは見た目もまるで違いますし、そもそも本質的には悪いモノではなくてですね……それで、つまり』
幾重にも念入りに予防線を張っていましたが、言葉を重ねるほどに胡散臭さが増すばかり。
本人(本神)もそれは分かっているのか、とうとう観念したようです。
『アレってですね……わたくしがまだ自前の身体を持っていた全盛期真っ盛りの全知全能系女子だった頃の肉体がですね、まあ色々あって木っ端微塵に爆散して世界中に散らばって、それが化石になったものだったり、なーんて……てへっ』
意を決して怪物の真の正体について告げました。
◆◆◆
『むかしむかし、あるところに、現代よりも遥かに高度な文明を誇る超古代文明がありました。いやまあ、わたくしだって自分で言ってて説得力に欠けるとは思いますけど、本当にあったんだから仕方ないじゃないですか!』
『時代的には大体百万年近く前にはなりますかねぇ。で、その時代の人々は強く賢く美しいパーフェクトな神の下、皆が幸福に暮らしていたのです。まあ、その神っていうのが当時のわたくしなんですが』
『ほら、わたくしって女神じゃないですか。今の時代の神殿でもそういうことになってますよね。それもその頃に自分の肉体を持っていた名残でして。最初から今みたいに肉体がなかったのなら、こんな風に明確な性別があるのは逆に不自然かもですし?』
『それで話を戻しますが、高度な文明に暮らす人々は飢えることも老いることも、病や貧困に苦しむこともなく幸せに暮らしていました。種族的には今のエルフの皆さんに近いんですけど完全に寿命の縛りとか克服してましたし、もうほとんど別物ですね』
『当時のわたくしは世界を円滑に管理・運営するための機構みたいな感じで、今みたいな遊びの部分が少ない性格だったんですけど、能力的にはそりゃあもう大したものだったんです』
『正直、当時の記憶に関しては欠損も多いんですけど、聖剣とか他の道具とかも当時のわたくしと当時の人類が確立した技術を元にしてますし。あの頃は同じような道具が一般の人々にも当たり前に普及してたんですよ』
『まあでも、今の世界を見ればわかるように、その超古代文明も最後には滅びちゃったわけですよ。それも、たったの一晩で』
『その頃は魔法技術も今よりずっと発達してたんですけどね、たしか召喚魔法か何かの実験でどこかの世界に繋がったと思ったら、話の通じないタイプの怪獣だか邪神だかが出てきまして。それは驚きましたよ、山脈をまたいで越えられるくらいの大きさがありましたもの。出てきた瞬間に当時一番の大都市が潰れて壊滅しましたし』
『もちろん、黙って滅ぼされるわけにはいかないから応戦はしましたよ。当時のわたくしは超強かったですし。でもまあ、相手もかなりの強敵だったのは認めざるを得ないというか……』
『はっきり言ってしまうと、わたくしは万能ではあっても全能ではなかったんでしょうね。戦いの余波で当時の人類の半分が死んで、それ以外の人々については……今でも申し訳ないとは思ってるんですが』
『わたくしは、この世界を完全に滅ぼされる前に敵を異空間に封印することにしたのですが、残念ながら細かな狙いをつける余裕もありませんでした。止むを得ず、まだ生き残っていた住人や街ごと異界に飛ばして……』
『そこから先に何があったのかはわたくしも詳しく知らないんですが、致命傷を負っていた敵はほどなく死亡。一方、異界に飛ばされた人類は劣悪な環境で生き残るために自分達の肉体を改造したようで。満足な設備が残っていたとも思えませんけど、ほら知識や技術力はあったはずですから』
『その子孫が今の魔族の皆さんで、わたくしが敵を封印した世界が魔界というわけですね。長い歴史の間に初期の技術とかは失われていたようですが』
『まあ、ほんの五百年くらい前に当時の魔王が攻めてくるまでは、わたくしもてっきりそのまま全滅したと思ってたんですけどね。いやまさか軍勢を率いて攻めてくるとは。通常の別世界より繋がりやすいから侵略に要する魔力コストが低かったようで』
『本来、異世界間の距離に遠い近いといった概念は通用しないはずなんですが、元が一つの世界だったのを空間ごと引き裂いたようなものですから、薄っすらと繋がりでも残ってたのかもしれません。そのおかげで今は低コストで二つの世界の常時接続とかできてますし、悪いことばかりでもありませんけど』
『どこまで話しましたっけ? ああ、そうそう、それで相討ちのような形で敵を倒したわたくしですが、辛うじて精神と魂は保ったものの、肉体はもう完全に駄目になってまして。最後にカウンター気味にいいのを貰ったせいで木っ端微塵になりましたから。修復も不可能でした』
『他に僅かに生き残った人類も、高度な文明に守られていたのが一夜にして石器時代に後戻りしたようなものですから。過酷な暮らしでどんどんと数を減らしていきまして。原始的な生活をしながら世代を重ねるうちに蓄えた知識や不死性も薄れていって』
『わたくしも手助けをしたいのは山々だったのですけど、なにしろ自前の肉体がありませんから。何十年か何百年かに一度、今のこの身体のように相性の良い人間に憑依して知識を与えたり導いたりしてたんですが』
『ほら、人類ってちょっと目を離したらすぐに絶滅しそうになるじゃないですか。戦争とか伝染病とか、魔物が大発生したり災害が続いたり、特にこれといった理由がなくても何となく衰退したり』
『そうやって何度も綱渡りをしながら数を増やしたり減らしたり、文明を進めたり戻ったりを繰り返して、今の文明はまあそこそこ良い感じになってると思うんですよ』
『だから、わたくし的には今のうちにもう絶対滅びないように手を打っておきたくてですね……それがつまり、この街の神造迷宮なわけでして』
◆前作から考えてはいたけど、なかなか明かす機会のなかった設定をようやく出せました。
◆もう二話か三話くらいで本章の〆になると思います。




