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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
一章『源流想起庭園』

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悲鳴


「…………あれ? 私は……?」


 あれから約一時間後、レンリはようやく意識を取り戻しました。

 ですが、まだ完全に覚醒していないためか、気絶する直前の記憶は曖昧なようです。



「ここは?」



 そして、現在彼女が寝ていた場所にも見覚えはありませんでした。

 元より迷宮内の大半に見覚えなどないのですが、そういう意味ではなく、天井や壁らしき物に囲まれていたのです。

 身を起こして壁に触れると、その材質は分厚く丈夫そうな布であることが分かりました。支柱らしき棒やロープの端も視界内に存在することから、どうやらテント状の空間内にいるのだと判断できました。



「……何か、物凄く恐ろしいことがあったような……?」



 まだ記憶が混濁している様子ですが、かろうじて思い出した感情に身震いしていました。

 そして思い出したことはもう一つ。



「そうだ、二人は!?」



 ようやく同行者の安否について思い至ったようです。

 テントの入口らしき布の切れ目に手をかけて勢いよく開くと、



「あ、起きた」


「……? ……!?」



 すぐ目の前に先程の襲撃者の顔がありました。

 そして、そのキッカケによって瞬時に気絶前の一連の流れを思い出したレンリは、



「きゃぁっ!?」



 普段の口調から大きくかけ離れた、可愛らしい感じの悲鳴を上げました。







 ◆◆◆







「……つまり、私達が悪戯でライムさんの罠を壊したんじゃないかと思って、追いかけてきたと?」


「そう」


 テントの外には怯えながらもどうにかライムに事情を説明したルカと、先に気絶から目覚めたルグも座っていました。二人とも特に怪我はない様子です。



「そうだったのか、申し訳ない」


「いい。悪気がなかったのなら許す」



 お許しを貰ってレンリもホッと一安心でした。

 こうして見る限りでは自身より背丈が低い小柄な少女にしか見えませんが、先程は何が起こったのか認識もできない数秒でパーティーが壊滅状態に陥ったのです。どうにか平静を装って話してはいますが、内心にはかなりの怯えがありました。



「でもさ、最初からワケを話してくれたら良かったのに」



 先に目覚めて話していたせいか、比較的緊張の少ないルグがそんなことを言っています。

 確かに、最初から追いついたライムが「事情を聞かせて欲しい」と一言告げるだけで、先程の惨状は回避できたかもしれません。



「知り合いから前に聞いた」



 ですが、ライムは言いました。

 真っ正直に聞いても嘘を吐かれたら、どっちにしろ真偽は分からない。

 敵味方を判別する彼女なりの基準とは……、



「『逃げる奴は敵だ、逃げない奴はよく訓練された敵だ』……と」


「「いや、それ見分けられてないよねっ!?」」



 レンリとルグが声を揃えてツッコミを入れました。

 ルカも声には出していませんが、コクコク頷いて二人に同調しています。



「それは冗談」



 まあ、これは流石に本気ではありませんでしたが。



「殺気を当てて嘘を吐けなくしただけ」



 本当の理由もそれはそれで酷いものでした。

 嘘を吐くだけの心理的余裕や口裏合わせを防止するために、殺気で脅しをかけたようです。『人間は追い詰められた時にこそ本性が出る』という、よくある話の応用とも言えますが妙に物騒な思考でした。



「あれが殺気というものか……本気で怖かった」


「うん……怖かった、ね」



 女子二人は心底ビビっている様子。

 普通に市井で暮らしていれば、殺気など感じる機会はありません。

 ルカは家業の関係で荒っぽい人間を目にする機会もありましたが、そこらのチンピラとは迫力の桁が遥かに違いました。









「俺達と変わらないくらいなのに強いんだな」


 ルグは比較的怯えが少ないようです。

 単純に強い相手への尊敬もあり、割と気軽に話しかけていました。



「いや……よく考えたら、エルフだから見た目通りの歳じゃないのか?」



 エルフやドワーフなどの長命種は外見からでは実年齢を推定できません。

 だからこそ、ルグもこのような疑問を持ったようですが、



「そう、私は貴方達よりずっと年上。この前、十九歳になった」


「いや、あんまり変わらないし」



 ライムはまだ十九歳。

 十五歳のルグ達ともそれほど変わらないようです。

 身長が低いのも、まだ成長期が終わっていないからかもしれません(エルフの成長は人間よりもやや緩やかで、個人差もありますが二十~三十歳程度まで成長期が続きます。その後、老境に入るまでの数百年を全盛期の肉体のまま過ごすのです)。



「人間は早く背が伸びるから羨ましい」


「隣の芝生は青く見えるってやつかな。私達のような人間からすれば、単に寿命の点だけでも長命種が羨ましく思えるのだけど。それに、人間だからといって必ずしも成長が早いわけでは……」


「おい、レン。なんでそこで俺を見る」


「いやいや、なんでもないよ。ははは」



 実は、レンリ達三人の中で一番身長が低いのが、唯一の男性であるルグなのです。

 自分より高身長かつ同年齢の女子二人と一緒にいるというのは、なかなかにコンプレックスを刺激される環境なのかもしれません。



「まあ気にしないほうがいいよ。変に大きくなられると可愛くないし」


「いや、気にするよ。ってか、頭を撫でるな!」



 話しているうちにレンリの緊張も少しは解れてきたようです。

 ルグの赤い髪に指を入れ、わしわしと撫で始めました。もしかすると、彼をからかうことで平静を取り戻そうとしているのかもしれません。


 まあ、それも結果的には逆効果。

 すぐに逆襲を受けることになったのですが。



「む、そっちがそう来るなら……なあなあ、さっきの『きゃぁっ!?』って悲鳴だけど、レンってあんな声も出せたんだな。えらく可愛い声出すもんだから正直笑いそうになったよ」


「う、うん……可愛かった、ね」


「わかる。可愛いと思う」


「な……!?」



 何故かライムまで一緒になって、先程の可愛い悲鳴について言及しました。

 ルグ以外の二人にはからかう意図はないようですが、「可愛い」と連呼されたレンリは珍しく照れて顔を赤くしています。



「ま、待ちたまえ君達!? 仕方ないだろう、ビックリしたんだから!」


「ビックリして、つい可愛い声が出ちゃったのか」


「や、やめないか!? 私が悪かったから……!」


「『きゃぁっ!?』!」


「やめて!?」



 レンリは赤くなった顔を手で隠してしまいました。

 普段は他人からからかわれる事がないので耐性がなかったようです。先程の一件で精神状態が不安定になっていたのも、照れに拍車をかけているのかもしれません。

 まあ、これも因果応報。

 先に背丈のことをからかわれたルグが満足するまで、レンリは逆襲を受けることになるのでした。



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