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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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助っ人求む


 ルカ達の到着から十数分。

 騎士団の戦力に冒険者達も加わり、状況は僅かながらに改善されてきたようです。あくまで、僅か、ではありますが。



「デカいのが行くぞ、前の奴は離れろ!」


「うおっ、危ねぇ!?」



 魔法兵の操る超巨大ゴーレムによるフライングボディプレスが、前衛陣の退避とほぼ同時に『ソレ』を押し潰しました。シンプルな大質量による攻撃は、周囲一帯の地面を揺らすほどの威力。いくらタフな相手でも一溜りもありません。


 それ以外にも、魔法使いの冒険者が放つ火炎旋風、剣や槍による集中攻撃なども着々と戦果を上げていました。他にも、たとえば……。



「え、えい……っ」


「おお、掛け声の割にすごい威力だ!」



 ルカの右ストレート一発で『ソレ』の一体が爆発四散。

 あまり大きな相手だと衝撃が伝播しきるよりも前に再生されてしまいますが、人間と同等サイズの小型個体なら十分な有効打となり得ます。


 戦いの早い段階で、決して倒せない敵ではないとシモンが示したのが大きかったのでしょう。まったく手応えのないまま戦うのと、多少なりとも勝利の希望を抱いて戦うのでは、士気が大きく変わってきます。

 完全に無敵でないのなら戦いようはある。

 強力な攻撃で再生の間もなく倒しきれば数を減らすこともできる。

 事実、この十分ほどで十体以上もの討伐に成功していました。


 しかし、分裂によって増殖した数もほぼ同等。

 数の上ではほとんど変化がありません。



「魔力が減った奴は完全にバテる前に後ろに下がれ!」


「こいつは長期戦になるぞ。ペースを考えながら交代して戦うんだ」



 分裂を繰り返している『ソレ』が消耗しているのかは間近で観察しても分かりませんが、戦っている人間達は確実に消耗していました。

 再生の間もない一瞬に強力な攻撃を集中させれば倒しきれる、とはいえ、それほど強力な攻撃となると魔力や体力を大きく削られてしまいます。

 かといって温存するような余裕はありません。ある一定以上の水準に達した高威力の攻撃でなければ、『ソレ』を一息に倒しきることができないのです。


 最初の招集以降にも話を聞いたらしい兵隊や冒険者がどんどんと駆け付け、今や人間側の戦力は数千にもなりますが、その全員が一流の戦闘者というわけではありません。『ソレ』を倒せるほどの技を持つ一流となると、多く見ても百か二百か。それも常に倒せるわけでなく、『ソレ』が気紛れのように小さく縮んだ瞬間を狙ってようやくという有様。


 大規模な破壊魔法であれば大きい状態でも倒しきれるかもしれませんが、そんな魔法の使い手はそもそも数が少ない上に、一発で魔力を使い切ってしまうことでしょう。どこかの一家のように、コンロの火を着けるくらいお手軽に大規模魔法を連発する連中は例外中の例外なのです。


 大きさが一定ではないとはいえ、どちらかといえば大きい状態の時が多く、中にはちょっとした小城ほどのサイズに膨れ上がっている個体すらいます。大きいだけで風船のように軽ければ救いもあるのですが、どうやら質量のほうも体積に比例して増減するようで、膨れようとする時に弾き飛ばされて怪我を負う者も少なくありません。


 そんなモノが実に三十体近く。

 歪な球体に様々な生物の器官が出来ては消えていくという奇妙な形態ゆえに、弱点や急所といったものが存在するのかも一切不明。基本的に拡大縮小と増殖をするばかりで、能動的に攻撃や移動をしないからこそ辛うじて戦況を維持できていますが、このまま持久戦を続けても状況が改善する見込みは薄そうです。


 全力で戦い続けても現状維持が精一杯。

 かといって、こんな激しい戦い方を続けていたら、交代で休憩を取ったとしても丸一日も保たないでしょう。そうして現状維持すらできなくなってしまえば、増え続ける『ソレ』に街が押し潰されてしまいます。積極的に人間を襲う気がなかろうと、ただそこに存在するというだけで恐るべき脅威なのです。





 しかし。



「やむを得ぬ、か……」



 しかし、それでも人間側には、というよりもシモンを含む一部の関係者には反則とも言える最終手段があります。



「ルグ、俺はここを離れられん。伝令を頼めるか?」


「はい。勇者リサさん達に、ですね?」


「うむ。いざとなったら師に頼らねばならぬとは、未熟な我が身が恨めしいが……」



 正体不明の怪生物が相手だろうと、迷宮都市在住の某一家に任せれば一瞬で片付くことでしょう。苦戦どころか、あっさり片付けて食材にすることすら検討しかねません。倒すこと自体よりも正体を隠すほうに苦労しそうです。



「今から鉄道で手紙を送るのでは時間がかかりすぎる。こういう形で利用していいものかは分からぬが、ウル達に頼めば迷宮都市に連絡できよう」



 迷宮都市までは鉄道で半日。

 手紙を送るのでは、そこから更に配達に時間がかかるので早くても丸一日は見ないといけません。人を直接送ればもうちょっと早く連絡がつきそうですが、それでもまだ遅すぎます。

 しかし、迷宮であるウル達ならテレパシー的な能力で迷宮都市在住の神様(正確には住んでいるのは依代となる人物ですが)に一瞬で連絡が可能です。

 未だ真意の全ては分かりませんが、学都に人を集めて迷宮を育てたいらしい神様にとっても、謎の怪物に街が壊されるのは本意ではないでしょう。神様を使い走りにしていいのかはさておき、ちょっと近所までお遣いを頼むくらいしてもバチは当たらない、はず。



「じゃあ、俺、迷宮までひとっ走り行ってきま――」


「その必要はない」



 ルグの言葉に応えたのは、上空から降ってきたライムでした。どうやら建物の屋根上を跳ねながら、ほぼ真っ直ぐにここまでやってきたようです。



「あの子達に呼ばれて、来た」


「なるほど、レン達が」



 先程、ルグ達と別れた直後にレンリが思いついた手助けの手段が、頼りになる助っ人を送り込むことでした。

 第三迷宮内にいた一行が街の騒動にまったく気付いていなかったように、第一迷宮に住んでいるライムも外の騒動に気付いていないかもしれない。状況を教えて助っ人として向かってもらえばさぞや心強い戦力になるだろう、という考えです。



「来てくれたのは心強いが……必要ないというのは、どういうわけだ?」


「いない」


「いない? それは、どういう……いや、あまり考えたくはないが、まさか」



 ライムが戦力に加わったのは嬉しい誤算。

 が、もう一つの誤算には、それを台無しにするだけの衝撃がありました。



 ◆



 そもそも、誰かに助っ人を頼もうとしたレンリが、迷宮都市に連絡することを考えないはずがありません。すぐ隣にいたヒナに頼んで、ライムよりも先に神様に連絡を取ってもらいました。連絡してもらおうとはしたのですが……。



『もしもし、どうしました? え、そっちに謎の怪物が? だから、あの一家にお願いして退治してもらいたい……なるほど、なるほど。ええとですね、ちょっぴり言いづらいんですけど、実は今わたくし、というか依代の身体がですね、ちょっとした泊まりの用事で迷宮都市を離れてまして。だから、すぐに連絡するのは無理そうかなー……なんちゃって』



 依代となる人間が迷宮都市にいないのでは、あの一家に連絡することができません。

 迷宮達がテレパシーで会話できるのは、自分達以外では創造主だけ。

 他に短時間で連絡する手段はないのです。


 残念ながら、二重の意味で神頼みの効果はなさそうでした。



 ◆



「なあ、ライム。お前、少し前に転移を覚えたと言っていたろう? それで迷宮都市までひとっ飛びとか……」


「無理」


「だよなあ……」


 いくらライムが天才でも、覚えたばかりの転移術で一気に迷宮都市まで移動することは不可能です。練習はしていますが、一度の転移で移動できる距離はまだ数メートルが精々。近接戦闘への応用という観点からすればそれでも有用ですが、純粋な移動術としての効率は普通に歩くのと大して変わりません。

 


「あ、それと」


「他にも何かあるのか?」


「ん。連絡できない」


「それはもう聞いたが……」


「違う」



 そして、悪い、かどうかはまだ分かりませんが、少なくとも良くはなさそうな知らせはまだありました。連絡がつかないのは迷宮都市にだけではなかったのです。先程、ヒナが言いかけていたことではありますが……。



「ウルと連絡がつかない?」


「そう。他の迷宮が呼んでも応えない、らしい」



 本体である迷宮そのものは変わらず存在しているので、こういう表現は適切でないかもしれませんが、ウルが行方不明になっていました。普段、街で生活しているウルだけでなく、自分の迷宮内で活動しているはずの無数のウル達が誰一人として呼びかけに応えないのです。最初に異常に気付いたヒナだけでなく、報せを受けた第二ゴゴ以降の他の迷宮が呼び掛けても反応がない。明らかな異常事態が発生していました。



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