表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

444/1051

第三の試練と新たな仲間


 当然ではありますが、流石に試練の免除とはいきませんでした。

 いかに恩義を感じていようともルールはルール。

 ヒナは公私混同はしないタイプのお子様なのです。



『ほら、よく見ててね』



 まあ、無理なものは無理として、ヒナがレンリ達に対して出来ることがないわけではありません。


 今、彼女達がいるのはヒナのホームグラウンドである第三迷宮。

 以前にヒナやモモと出会った小島です。

 ずっとこの島に置きっぱなしだった『デストロイ号』を回収する目的もあって『モノリス』の転移で移動してきたのですが……。



「うわ……やっぱり反則じゃない、それ?」


『ええ、外で使えなくて本当に良かったわ』



 以前、最初に出会った時のこと。

 ヒナは自分の液体操作能力について明かしましたが、その時、もう一つ別の能力があるようなことを仄めかしていました。現在、彼女はそちらの能力についての解説と実演をしているのです。


 ヒナが視線を向けると、地面の上に置いた果物が、とろり、と融けました。

 続けて、その近くの岩も。樹木も。砂や土までも。その全てが一瞬にして液体になってしまったのです。



『三態の在り方を支配する。分かりやすく言うと、我が認識した固体や気体は、なんだろうと液体に出来るということね』



 強い酸に漬けるとか、高温の炉で金属を溶かすのとは根本的に違います。

 たとえば純粋な鉄の融点は1538℃ですが、ヒナの能力で液体にした物は基本的に常温のまま。外部から熱を与えたりしているわけではなく、その物質のそもそもの性質を変化させる。融点のほうを自在に上げ下げする、ようなものと考えれば幾分分かりやすいでしょうか。

 そして、どんな物質であれ一度液体となったのならば、液体操作能力でコントロール下における。つまり、この第三迷宮内に存在する物質の全てはヒナの手のひらの上にあるということです。レンリが反則呼ばわりするのも無理はありません。



『まあでも、生き物なら強い魔力とか意思力である程度は干渉を弾けるし、あとは我の認識できないくらいのスピードでずっと動き続けるとかでも防げるし、必ずしも無敵ってわけじゃないわよ。他の子に比べたら、まだ控えめなほうじゃないかしらね?』



 そこまで言うと、ヒナは先程溶かした果物だった液体を操作して宙に浮かべて手元に集め、そこで液化能力を解除しました。手の中に残るのは再び固体の状態に戻った、まったく元通りの状態の果物。外見だけでなく味や食感も液化の前後で変化はありません。ほんの僅かな不純物も混じらせないほど液体操作の精度が高いのでしょう。

 本人は謙遜していますが、無敵と言ってもまったく大袈裟ではない絶対的な能力です。ごく一部の存在自体が冗談みたいな連中でもなければ、対処のしようもありません。



「まったく恐ろしい……けど、味方であるなら心強いよ」


『さっきも言ったけど、我が手伝うのは本当に危ない時だけよ。あまり頼り切りにはしないでね』



 さて、そして何故ヒナがレンリ達に秘していたはずの能力を説明しているのかという理由に戻りますが話は単純。第三迷宮の攻略中だけという条件付きではありますが、彼女が冒険の仲間に加わるから。苦楽を共にする仲間同士であるならば、互いの能力を正確に把握しておくのは当然です。


 迷宮の攻略に迷宮自身が加わるというのもおかしな話。試練の免除をせずとも、こうして手を貸しては結局不正みたいなものではないか、という疑問も出てきそうなものですが、そこは図らずも第三の試練の特異性が解決してくれました。



『我の試練は宝探しよ。どうせ我と戦う必要はないから……というか、我がなるべく人と会わずに済ませられるように決めたんだけど』



 第三の試練の内容は宝探し。

 迷宮内の島々を巡って海図を集め、時に隠された謎を解き、ヒナが隠したという『すごい宝物』を見つける冒険、それ自体が試練なのです。

 なんと、これまではやって来た他の攻略者ともほとんど会わず、守護者としての役割は島々に隠した手紙でコミュニケーションを取ることで果たしていたのだとか。


 何故こんな形式なのかというと、第一第二の試練である程度絞られているとはいえ『不特定多数の攻略者に直接対面して会話をするのは危険かもしれない』というヒナの自重が原因。たしかに迷宮外でもあれだけ危険なのに、全力を出せる迷宮内でキレる可能性を考えると慎重にならざるを得ないでしょう。


 とはいえ、そんな経緯のある試練も今回に限っては好都合。

 第一第二の時のように守護者と戦う形式ならこうはいきませんが、宝探しの内容に触れない範囲の手助けであれば辛うじて不正にはなりません。



『我は攻略の方針に直接口出しはしないけど、航海の安全だけは保証してあげるわ。強い魔物を追い払うとか、船が波で転覆しないようにするとか、あとはお腹が空いた時に食べる物を用意してあげる。これなら恩返しになるかしら?』


「ああ、なるとも! それで『すごい宝物』って何なんだい?」


『ふふ、秘密よ。先に言っちゃったら台無しだもの。他の人に聞くのも禁止ね』



 よっぽど『宝物』に自信があるのでしょう。

 ヒナはいかにも意味ありげな笑みを浮かべています。


 ともあれ、だいぶ中断期間が長くなってはしまいましたが、心強い、心強すぎる味方を得たレンリ達は『デストロイ号』に乗り込んで再び海へと漕ぎ出すのでありました。










◆◆◆◆◆◆



《強キャラ感を出してみたオマケ漫画》


挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ