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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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ヒナのしたいこと


 さて、色々なことがありましたが、ようやくヒナが釈放される日がやってきました。どういう魔法を使ったのやら、少なくとも書類の上では無罪放免。これが普通の容疑者なら大喜びで小躍りのひとつもしているところでしょう。



『もう、来ることがないといいのだけど……』



 しかし、ヒナの場合は喜んでもいられません。

 彼女は自分自身の爆弾のような気性と、その危険性を理解しています。

 下手をすれば、またすぐ留置場に逆戻りという可能性もないではないのです。



「じゃあ、これからどこに行こうか? 何かお店でも見て回る? 天気も良いしお昼前に散歩するのも悪くないかもね」


『協力しておいてもらって……ええと協力、よね? ……とにかく、我が文句を言う筋合いじゃないのは分かってるけど、ずいぶん気楽ね』


「そりゃそうさ。そのために色々準備したんだし」



 釈放されたヒナには、レンリとルカとルグとウルが付き添っています。

 残念ながら仕事のあるシモンは来れませんでしたが、例のリード付き首輪や走り出し防止用の足首のロープは既に装着済み。

 突然走り出したとしても、リードに引っ張られて止まるか、ロープが邪魔で転ぶかして止まるはずです。この数日間で何度も繰り返し検証してきましたが、レンリはこれらの対策で十分に対応可能だという結論を出しています。



「ふふふ、それにしても楽しい時間だったよ。ゴゴ君もあれくらい協力的ならいいのに……そういえば最近、彼女の顔を見てない気がするなぁ。え、あれ、もしかして私避けられてる?」


『ああ、あの子なら最近はちょっと忙しいみたいなのよ?』


「忙しいって、ゴゴ君やウル君は必要があればいくらでも身体を造れるんじゃないの?」


『それはそうなんだけど、本体の負荷……? 余分な演算リソース? ……をなるべく削って作業に集中したいから、みたいな感じなの?』


「なるほど、全然分からないけどウル君も分かってないのは分かった」



 よくよく思い返してみれば、迷宮都市への旅行から戻ってきた直後あたりからゴゴの顔を見た記憶がありません。ウルによると何かしらの作業をしているらしいのですが、詳しくは明かされていないようです。



「おっと、話が逸れてしまったけど今はヒナ君が優先だ。それで、何か行きたい場所とか、してみたいことはあるかい? なるべく善処するつもりだよ」


『行きたい……というのとは、少し違うけれど』


「ふむ?」



 行きたい場所。

 してみたいこと。

 そう尋ねられたヒナは、おずおずと口に出しました。



『あのね……我が怪我をさせてしまった人達に謝りにいきたいの。この間の人達だけじゃなくて、三年以上前の時の人達にも。駄目、かしら?』



 ヒナの中では、そのことがずっと気にかかっていたのでしょう。いくら法的には無罪放免になったとはいえ、それで罪悪感が晴れるわけではありません。

 街歩きや他の色々な物事を楽しむためには、まずそうした過去を清算しなければならない。きちんと許しを乞い、許されない限りは、何をしていても自責の念に苛まれ続けることになる。そのような想いがあるのでしょう。そのような重い想いが。


 そうしたヒナの気持ちが伝わったのでしょう。

 レンリは一切の迷いなく、こう告げました。



「うん、駄目」







◆◆◆







「ヒナ君は真面目だなぁ」


 レンリ曰く。

 そんな謝罪行脚なんかしても、新しいトラブルの元にしかならないだろう。

 怒るか怖がるかは分からないけれど、謝られた相手にとっても迷惑になりかねない。

 また、謝りに行った先で暴走したりでもすれば、それこそ取り返しがつかなくなってしまう。そうなる可能性は、万が一、よりもずっと高そうだ。

 安易に謝っても自己満足にしかならない。むしろ、後ろめたい罪悪感を抱え続けることが、自らへの罰を望むヒナの為にもなるだろう、と。



『言われてみれば、そうかも。結局、我は我の都合しか考えてなかったのね……』


「こらこら、そう落ち込むものじゃないよ。それにキミ達ってまだ四歳か五歳くらいなんだろう? まだ小さいんだし、たくさん失敗をしながら地道に学んでいけばいいのさ」



 ……なんて、人生の先輩のような口ぶりで良い話風に言ってはいますが、正直、レンリとしては退屈かつ陰鬱な気分にしかならなさそうな謝罪行脚に付き合うのが嫌で、それを避けるためにそれっぽい理屈を咄嗟に口にしただけだったりします。


 レンリが指摘したように、ヒナの性根は真面目なのでしょう。

 真面目、かつ自虐的。

 自分を責めるのにも手心を加えず真面目にやるのですが、見ていて気分の良いものではありません。


 それに、不自然に身体を拘束された幼女が暗い顔をしているのです。

 当然、良識のある大人が見れば不審に思います。

 それが街の平和を守る衛兵(おまわりさん)であれば、それはまあ、職務質問くらいはするでしょう。



「ああ、ちょっといいかな。キミ達はこの子の友達?」


「首輪? お嬢ちゃん、これ無理矢理つけられてるとかじゃ……」


「この足に結んでるロープは何かの遊びかな? まさか、いじめとかじゃないだろうね」



 どうやら、学都の衛兵達は非常に優秀なようです。

 これも団長であるシモンの教育の賜物でしょう。

 市民に対して高圧的・威圧的に振る舞ったりは決してしないものの、犯罪の萌芽を決して見逃すまいという熱い使命感が窺えます。ちょっと通りを歩くだけで次から次へと職務質問を受ける羽目になってしまいました。



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