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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
一章『源流想起庭園』

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野外料理と闖入者


「うん、君達が料理出来る子で良かったよ」


「俺は簡単なやつだけしか出来ないけどな。ま、これも給料のうちってことで。ほい、ギョウジャニンニクと豚肉の炒め物一丁あがり」


 恐ろしい追跡者に追われているなどとは夢にも思わず、レンリ達三人は川沿いの岩場で呑気に昼食の準備をしていました。

 見渡す限り木しかない第一迷宮ですが、川の周りに関しては多少開けています。

 魔物避けの石碑近くほどではありませんが、見通しが利く上に水の補充もできるので、休憩場所にはピッタリです。

 慣れていないとそれなりに苦労する野外での火熾しも、レンリが平らな石を見つけて『発熱』の刻印を描いたら解決しました。今はその石の上に鍋を並べて調理中です、



「揚げ物も……もう少しで、出来る……よ」


「うん、美味しそうな匂いがしてきた。私も交渉した甲斐があったというものだよ」



 先程まで手元になかった猪肉や油をどこから入手したのかというと話は簡単で、単に近くを通りかかった他の冒険者パーティーと交渉して、山のようにあった山菜の一部と三人分の豚肉を交換したのです。

 この川沿いまで戻れば他の冒険者や訓練中の兵隊の姿もチラホラ見えますし、交渉相手を探すのは然程難しくもありませんでした。



「やっぱり肉っ気は大事だからね」


「う、うん……お肉は、大事」



 中長期の探索をするパーティーの食事は、保存食や狩りの獲物メインになるものですが、食材が傷むまでの数日間は持ち込んだ生鮮食品を自分達で調理する場合もあります。狩りは毎回上手くいくとは限りませんし、保存食というのは味が濃いので飽きも早いのです。


 揚げ物や炒め物用の油は一緒に貰ったラードを鍋で溶かしたもので、量がやや少ないために揚げ焼き風になっていますが、なかなか美味しそうな具合になっています。



「本当は……卵とか……小麦粉があれば、良かったんだけど……」


「じゃあ、今度からそれも持ってくるようにしようか」



 調理をしたルカは、本当は衣を付けてフリットのようにしたかったとかで出来に不満がありそうですが、それでも焦がすことなく香ばしく仕上がっています。



「へえ、ルカは料理上手いんだな」


「そ、そう……かな? 昔、お姉ちゃんに、教えて……貰ったの」



 アルバトロス一家の先代が亡くなって事実上の解散状態に陥るまでは、長女のリンが二十人分近い料理を毎食作っており、ルカもその手伝いをしていたのです。あまり凝った料理ではなく量と早さ優先だったとはいえ、腕は悪くありません。



「おや、ルカ君にはお姉さんがいるのかい? 奇遇だね、私にも姉が一人いてね。どんな人なのかな?」


「へえ、お姉さんか。その人も一緒に学都に来てるの?」 


「あ、その……それは……」



 レンリとルグは単なる雑談のつもりで聞いているだけですが、ルカは突然のピンチに身が竦む思いでした。ルカ自身にも己が人一倍、いえ人十倍くらいの口下手である自覚はありましたし、嘘も上手いほうではありません。下手に誤魔化すと、そこから素性が知られてしまいかねないので、



「そ、そんなことよりっ……早く食べないと、冷めちゃう、よ?」



 その話題には触れず、強引に話を逸らすことにしました。



「……うん、そうだね。食事にしようか」


「……ああ、早く食べないとな」



 まあ、ルカが家族の話を避けたがっているという意だけは二人に伝わったので、素直に騙されたフリをしてくれたのは不幸中の幸いだったかもしれません。

 単純に仲が悪いとか、なんらかの原因で別離したのが辛いとかで、家族の話をしたがらない人はそれなりにいるものです。ルカもてっきりその類の事情を抱えているのだろうと想像して、彼らなりに気を遣っているようです。なんだか腫れ物に触るような対応をされてしまいました。










「こういうのも風情というか野性味が感じられて面白いものだね」


 レンリはフォークで突き刺したタラの芽の素揚げを口に運びました。

 味付けが岩塩をナイフで削った塩だけですが、揚げ油にラードを使ったおかげか、山菜料理にしてはやけにどっしりとした食べ応えがあります。爽やかなほろ苦さも適度に感じられる上々の仕上がりです。


 フォークやスプーンのような食器は各々持参していますが、流石にお皿まではありません。

 必然的に鍋から直食いになるわけですが、そういうキャンプ的な要素に慣れていないレンリやルカには、そういう点も面白く感じられるのでしょう。



「こっちも……美味しい、よ」



 ルカはギョウジャニンニクの炒め物が気に入ったようです。

 こちらも味付けは塩味のみですが、シャキシャキした食感とニンニクによく似た風味が豚肉の旨味と引き立てあって実に美味。



「うん、美味い。牛とか山羊を飼ってる家だと雑草扱いで嫌われてたんだけどな」


「そう、なの……美味しい、のに?」


「家畜が食うとミルクがニンニク臭くなっちゃうんだよ。そうなったらもう売り物に出来ないから、村の近くに生えてるのは全部抜かなきゃいけないんだ」



 ルグはしみじみと苦労話を語りながら、揚げたギョウジャニンニクを齧っています。

 生のままでも食べることはできますが、加熱するとほんのりと甘くなるのも普通のニンニクと一緒です。



「他のやつはアク抜きをしないといけないから、食べるのはまた今度な。持って帰るなら、二、三回茹でこぼしたら食えるようになるから。そうそう、綺麗な灰があったら一緒に入れるとアクが早く抜けるんだ」


「う、うん……やってみる、ね」



 食事の合間には、持って帰る気まんまんのルカに下拵えの方法を伝授していました。これで、アルバトロス一家の食卓事情も一層豊かになることでしょう。







 ◆◆◆






 食事を済ませた三人は、出発前にお茶を飲んで一服することにしました。

 先程の鍋を川で洗ってから水を汲み、しばし沸騰させた後に茶葉と角砂糖(どっちもレンリが持ってきていました)を放り込むだけのお手軽仕様です。



「この辺りは思ったより歩きやすいし、この調子なら思ったより早く着けそうだね。あ、せっかくお茶を淹れたんだし、今のうちにオヤツも食べちゃおうか?」



 そういうとレンリは鞄の中から丁寧に包装された紙製の小箱を取り出しました。

 中身が溶けないように、包装紙には小さく『冷却』の刻印が描かれています。



「ほら、チョコレート! 叔父様にオススメのお店を教えてもらって、昨日のうちに買っておいたんだ。一人二個ずつだからね」



 他の面々も甘いお菓子は大好物です。

 遠慮などせずに喜んで手を伸ばし、レンリがその手の上にチョコを二個ずつ乗せていきました。



「はい、どうぞ」


「レン、ありがと」


「あ、ありが……とう」


「ありがとう」


「「「…………あれ?」」」



 あまりにも気配が薄く自然体だったので反応が遅れてしまいましたが、レンリと、そしてルグとルカはここでようやく違和感に気付きました。



「はじめまして」



 一体どうしてそうしようと思ったのかは一切不明ですが、どこかで見かけたエルフがいつの間にか隣に座って、貰ったチョコをもぐもぐ食べていたのです。



今の彼女が本気で気配を消すと(魔力操作と体術併用)、常人では目の前に立っていても違和感に気付けないレベルです。


完全にバレバレですが、次回ようやく謎エルフの正体が明らかに!

イッタイ、ダレナンダー?(棒)

感想欄やツイッターでの反応が、完全にヒロインじゃなくてボス枠としての扱いなのしかなくて、ホント笑うしかないですw

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