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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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あぶない? ヒナ調教計画


 そして翌日の昼過ぎ。

 頼まれていた買い物を済ませたルカとルグは、ヒナが勾留されている騎士団本部へと向かいました。



「ペット用の首輪って思ったより種類あるんだな」


「うん……ヒナちゃん、気に入って……くれるかな?」



 用意したロープやリード付きの首輪は、もちろん、そういう発想すらないこの二人が自分達で使うための品ではなく、ヒナの暴走を防ぐことを目的とした物です。

 昨日、レンリが考えた対処法のうちの一つは、単純に物理的に動作を制限してしまおうというものでした。迷宮の中であればロープどころか金属製の鎖でも簡単に引き千切られてしまいそうですが、迷宮の外での身体能力が低下している状態であれば……多分、大丈夫。


 あくまで「多分」であり、予期せぬアクシデントが発生する可能性は否定できませんが。それに、いくら頑丈なロープでぐるぐる巻きに縛っても、厄介な液体操作能力までは封じられません。


 とはいえ、実際に外に出る前に安全な室内で試してみるのが悪いということはないでしょう。本日、ルカ達が騎士団に向かっているのも、そうした実験に協力するためなのです。



「お弁当、も……作って、きたし……気に入って、くれる、かな?」


「おいおい、ルカの料理が気に入らない奴なんているわけないだろ? なんたって、ルカの料理は世界一美味いからな」


「えへ……ルグくん、のも……ちゃんと、あるから、ね」



 まあ、実験の主体となるのはレンリと当事者であるヒナ。

 こちらの二人の手伝いは買い物を済ませた時点で半分以上終わったようなものです。シモンから話が通っているのか、一応は容疑者への面会であるにも関わらず特に面倒な手続きなども要らず、ほとんどフリーパスで留置場へと通されました。

 以前から何かと騎士団に出入りすることが多かったせいか、顔見知りの職員も多く気楽なもの。もう既にレンリと、事情を聞いて同行を希望したらしいウルも一緒に来ているようです。


 ルカとルグが地下への階段を下りて、ヒナの入っている部屋の近くまで行くと、


 何かが壊れるような音と、



『……またやってしまったわ』



 という、昨日と同じように落ち込んでいる声が聞こえてきました。







 ◆◆◆







「やあ、二人とも。頼んだ物は揃ってるみたいだね」


「それは用意してきたけど……あれ、大丈夫なのか?」


 留置場の一室、ヒナが入っている部屋の床にはビリビリに破れた紙、恐らくは本だったであろう物の残骸が散らばっていました。ヒナの落ち込みようと合わせて考えると、再び怒りの衝動に支配された彼女が破壊したようです。



「ああ、多分大丈夫なんじゃないかな? 今回は誰も怪我とかしてないし」


「それで、なんでまたキレたんだ?」


「ここでじっとしてるのも退屈だろうから私が読み終えた本とか、あとは古本屋であれこれ見繕って買ってきたんだけど……あ、そうそう蝋燭も持って来てくれた? ここは薄暗くて読書に向かないからね……でね、どうもフィクションに対しても例のアレが出ちゃうみたいでさ」



 要するに、本に出てくる「悪役」に反応してしまった、ということのようです。

 その破かれてしまった本も特に過激な内容ではなく、むしろ子供向けのマイルドな作風でした。最初の数ページをぱらぱらめくっているうちはヒナも楽しそうにしていたのですが、登場する悪者が暴力を振るったり物を盗んで人々を困らせている……という、主人公が活躍する前の導入の段階で我を失って本を破壊してしまったのだとか。



『ごめんなさい、せっかくの本を駄目にしてしまったわ……』



 せっかく厚意で差し入れてもらった本をバラバラにしてしまったことを、ヒナは気に病んでいるようです。人を傷つけるよりは幾らかマシとはいえ、自分を抑えられないことへの自責や自己嫌悪も少なからずあるのでしょう。


 とはいえ、今日の本題に差し障るほど落ち込まれても困ります。



「いや、それくらい全然構わないよ。別に貴重な本ってわけでもないし。気にしないで、と言っても難しいかもしれないけど」


『そうよ。このお姉さんはお金だけは持ってるから全然気にしなくていいの』


「はいはい、この際もうそれでいいからさ」



 レンリと、今回はウルも一緒に慰めています。

 そのおかげか、ヒナの調子もほんの少しだけ上向いてきたようです。

 気に病んでいない、フリ、ができる程度には。



『ふふ、ウルお姉ちゃん、本当にその人と仲良くなったのね』


『……え、仲良く?』


『ちがうの?』



 ヒナの指摘を受けたウルは本気で首を傾げています。

 ヒナだけでなく、ルカ達が見ていてもレンリとウルは本当の姉妹のように仲が良さそうに感じるのですが、そこは本人達にしか分からない微妙なこだわりがあるのでしょう。



『しいて言えば、強敵と書いて「とも」と呼ぶような間柄かしら。いつか一回シメて、どっちが上かはっきりさせてやるつもりなのよ』


「ほほう、ウル君がそんな風に思っていてくれたとは光栄だね」


『はっ、うっかり口が滑ったの!?』


『やっぱり仲良さそうに見えるけど……?』



 説明を受けてもヒナにはやはりピンと来ない様子ですが、これについては彼女の対人経験の少なさゆえではなく、むしろ分からないのが正常でしょう。この調子に付き合っていたら本題に入る前に日が暮れてしまいそうです。



「ウル君とは後でじっくり話をするとして、とりあえずヒナ君にはそれを身に着けてもらおうか」



 数日後にはヒナも釈放されます。

 そうしたら(本人以上に他の皆の希望で)再び街歩きに挑戦する予定なのですが、不意に走り出したら対応が追い付かないのは先日で実証済み。しかし常に誰かが付き添って、なおかつヒナの首に繋がったリードを握っていれば暴力沙汰になる前に止めることもできる、はず。


 うっかりリードを手放してしまっても、ヒナの両足首同士を、どうにか歩けはしても大きくは広げられない程度の余裕を持たせてロープで繋いでおけば、正気を失くして走り出した次の瞬間には顔面から思い切り転んで止まります。普通の人間であれば大怪我の危険もありますが、ヒナ達の身体はわざわざ精密に造りこまない限りは急所など存在しない大雑把な構造になっているので、頭部を強打しても問題はありません。


 常に誰かが付き添っている必要があり、昨日レンリが言ったように根本的な解決にはなっていませんが、この二重構えがあれば大抵の状況には対応できます。こういった物理的な対策が、レンリの考えた対処法の一つ目でした。



『どう? 似合うかしら?』


「似合う、って言っていいのかな。考えておいてなんだけど、これは思った以上に……」



 しいて問題点を挙げるとすれば見た目でしょうか。

 首輪だけならまだギリギリそういうデザインのアクセサリーに見えないこともありませんが、そこにリードが付くとかなり犯罪的かつ変態的な雰囲気が出てしまいます。

 幼女に首輪を付けてペットの動物のように連れ歩いている人間がいたら、十人中十人が不審に思うこと間違いなし。そこに走れなくするためのロープが加わると更に犯罪感マシマシ。職務質問待ったなし。流石に、最新のオシャレコーデで誤魔化すのには無理があるかもしれません、が。



『うん、気に入ったわ。ありがとう、大事にするわ。よく見たらちょっと可愛い気がしてきたし。こっちのヒモの先の輪っかを誰かに持ってもらえばいいのね?』



 まあ、本人が気に入って身に着けているのであれば大丈夫……だといいなぁ、と。

 ヒナを除く皆は、楽観的というより思考停止的な願望を抱くのでありました。



◆子供用のリード自体は現実にも迷子対策用の商品として存在するそうです。そちらは流石に首につけるわけではありませんが。

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