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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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『悪』を見過ごせない


『………………死にたい』


 それが、正気を取り戻したヒナの第一声。

 暴れていた間はほとんど思考力が飛んでいましたが、決して覚えていないわけではありません。自分がやらかしたことを、通り魔のような凶行の内容を詳細に把握していました。より正確には、化身の状態に関わらず見聞きした情報は本体の迷宮に記録され、正気を取り戻した後の数秒間にその記録を閲覧したという形になりますが、まあ今はそんな仕組みどころではありません。



『……殺して、ねえ、お願い』



 現在、ヒナの身体は頑丈な椅子に太いロープで拘束されています。この状態でも液体操作はできますが、ほとんど身動きはできません。当然、自殺もできません。



『お願い、お願いします。我を殺してください……』


「いいや、殺さないよ」



 搾り出すようなヒナの声に、すぐ目の前に立っていたレンリが応えました。

 しかし、正気を取り戻して無力化された相手を殺すつもりなどありません。そもそも、仮に殺したところでヒナの自己満足以上の意味はないのです。



「というか、キミ達って死ねるのかい? ほとんど不死身みたいなものだろう? 今ここにいるキミが消えても、またすぐに同じ記憶を持つ別のキミが生み出されるだけなんじゃないの」


『それは……そう、だけど』



 レンリの言う通り、迷宮の化身アバターは限りなく不死に近い存在です。

 本体の迷宮そのものが修復不可能なほど損壊したならともかく、そんなのは本来考慮する必要もないほどのレアケース。そして本体が無事な限りは、いくらでも新たな化身を生み出せるのです。それはつまり、本人がいくら望んでも決して死ねないという意味でもありますが。


 また、意図的に化身の生成を止める自由も、化身自身にはありません。

 化身とは、巨大な運営システムである迷宮が人間とコミュニケーションを取ることを目的として作成する機能の一種。本体が必要だと判断すれば、新たな生成を拒否することは不可能。そこに付随する人格がどう思おうと、本体の判断には逆らえないのです。



『死ねないっていうのも不便ね。でも、それならせめて……痛っ』


「痛い? きつく縛りすぎたかな? ああ、いや、そういうことか」


『思い出した……「痛い」ってこういう感じだったわね。ああ、こんなことをしても何の償いにもならないことは分かってるわ。これも結局は我の自己満足なんでしょうけど』



 今のヒナにできるのは、せめて普段は遮断している痛みを感じて自身を罰すること。それが根本的な解決にはまったく繋がらないのは、彼女自身も理解しているのですが、そうせずにはいられないのでしょう。



「まあ、でも分かったよ。キミが街に出ようとしなかった理由。あれじゃ危なっかしいにもほどがある」


『ええ、そういうこと。自分でも本当に恥ずかしいのだけど……』



 その程度の大小に関わらず、『悪』を見過ごせない。

 今回のキッカケとなった酔っ払いの喧嘩は、一応、器物破損や傷害罪に該当する犯罪行為でしたが、それよりもっと軽い、罪とすら言えないような小さな『悪』も例外ではありません。


 たとえば、何かの行列に横入りをしただとか。

 たとえば、ゴミのポイ捨てをしただとか。

 たとえば、小さな子供が友達を仲間外れにしただとか。

 厳密に、何がトリガーになるのかはヒナ自身も把握していません。

 ですが、一度スイッチが入ってしまったが最後。先程の酒場でやったのと同じように、相手が誰だろうと関係なく正気を失くして暴走してしまうのです。



「迷宮外では、他の子も止められないだろうしね」



 暴走の時間もまちまちで、短ければ十秒以内。長ければ何日も怒り狂ったままのことも。迷宮外で同じく能力が制限された者同士なら、ウルやゴゴの手にも負えないでしょう。



『そういえば、貴方達がウルお姉ちゃんを泣かせたって知った時は、七日七晩くらい一人で暴れてたわね、海中で。その時に気の済むまで怒っておいたから、最初に第三に来た時とか、さっき会った時には一応様子見をしてみようと思えたのだけど』


「実はさっきも結構危なかったのか……」



 迷宮の外ですらアレならば、迷宮内で能力の制限のない状態で怒り狂ったら、果たしてどうなってしまうのか。先程、迷宮で初めてヒナに遭遇した時に、もしも話し合いではなく戦闘を選択していたら、それでスイッチが入ってしまっていた可能性もあります。そうなっていれば、運が良くて半殺し。運が悪ければ……。







『それで、我はこれからどうなるのかしら? 死刑にはあんまり意味がないけど、どんな拷問でも謹んで受けるつもりよ』


「それを決めるのは私じゃないよ。っていうか、そういう方向での期待には応えてもらえないと思うよ。あの人、見ててちょっと心配になるくらいの善人だし」



 と、レンリが言った直後に部屋の扉が開きました。


 ここは学都の南街に位置する騎士団本部の一室。何かしらの事件があった時などに、関係者からの聞き取りや容疑者の取り調べに使う小部屋です。



「おい、レン。来てもらったぞ」


「お、お待た……せ……」


「すまぬ、待たせたな。大方の事情は部下やルグ達からも聞いているが、なに、なるべく悪いようにはせぬよ」



 本来であれば、いくら貴族とはいえ一部外者が容疑者と二人っきりで話したりはできませんし、たかが傷害事件の取り調べに組織のトップが出てくることなどありません。ですが、まあ何事にも抜け道はあるものなのです。




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