表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

431/1057

恐るべき、ヒナ


 第三迷宮の守護者、ヒナ。

 空と海の迷宮らしい水色の髪の幼女。



『ふふん、我の能力の威力はどうかしら?』


「おお、これはすごいね。うん、美味しい」


『でしょう? おかわりもあるわよ』



 ウルやゴゴにもそれぞれ固有の能力があるように、ヒナにも独自の能力があり、今まさにそれをレンリ達に披露していました。

 小島に自生していた果物を集め、能力を用いて新鮮なフルーツジュースを作って見せたのです。まあ、それはあくまでそういう用途にも応用可能というだけで、決して美味しい飲み物を用意するだけの能力ではありません。


 液体を操る能力。

 特に隠すこともなく、ヒナは自らの手札を明かしました。



「果物の中の果汁だけを取り出したのか……ところで、ヒナ君。これ、もしかして人間にも同じように出来たりする?」


『できると思うわよ? まあ、そんな悪趣味なことしたことないし、する気もないけど』



 例のごとく第三迷宮以外では使えないとはいえ、対生物能力としては限りなく無敵に近い、恐るべきスキルです。

 能力の対象範囲は、ヒナが「そこにある」と認識した液体全て。

果物の果汁だけを外側に染み出させたように、その気になれば動物の血液や体液を奪って干乾びさせることも可能です。先程の果物も一瞬でドライフルーツのようにカラカラに乾ききってしまっていました。

 そこまでせずとも脳や重要な臓器内の血流にちょっと干渉すれば、鍛え抜かれた肉体も無意味。単純な殺傷力だけなら、聖剣としての性能をフル活用したゴゴ以上かもしれません。


 ヒナ本人が言うように、そんなえげつない戦法を取ることはなさそうなのが、まだしもの救いでしょうか。それにそんな趣味の悪いことをするまでもなく、この海の迷宮と液体操作能力との相性は抜群。

 シンプルに大量の海水をぶつけたり、呼吸器を塞いで溺れさせたり、水に強い圧力をかけてウォーターカッターのように噴射・切断が出来たりと、応用力の広さがとんでもないのです。



『ひーちゃん、ひーちゃん。教えちゃって良かったのです?』


『別に大丈夫でしょ。こっちの能力は隠してるわけじゃないし。モモも、教えちゃダメなほうはちゃんと黙ってるのよ?』


『はい、お口にチャックなのです』



 しかも、液体操作能力についてあっさり明かしたのは、更なる切り札があるからこそ。今はそちらについて明かす気はなさそうですが、そういう奥の手がある、と知らしめておくだけでも牽制としては有効です(今回は本当のようですが、なんならブラフとして架空の能力を仄めかしておくだけでも意味はあります)。

 早めに能力を教えたのも親切心からだけでなく、自分達に敵対しないほうがいいという忠告や警告としての意味合いがあるのでしょう。そういう点からも、ヒナの抜け目の無さが窺えます。表面上の友好的になったように見える態度を、そのままの意味合いで受け入れるのも危険かもしれません。



「戦いにならなくて良かった……」


「ああ、まったくだ」


「う、うん……危なかった、ね……」



 レンリ達は心底そう思いました。先程、仮に戦いになっていたら、それはそれは酷い目に遭っていたに違いありません。


 正直、手に負えそうもない。

 それが三人共通の率直な感想でした。







 ◆◆◆







 ちょっと休憩しようと立ち寄った小島で、宝箱からモモを見つけ、ヒナに襲われそうになり、能力の説明がてらにジュースをご馳走になり、と色々なことがありました。



「さて、と。じゃあ私達は一旦街に戻るよ」



 まだ迷宮に入ってから二時間も経っていません。

体力的にはまだまだ探索を続ける余裕もありますが、ここは一度街に戻って安全な場所で得た情報を整理すべきだろうという判断です。


 それに、守護者の性質を考えると迷宮内で込み入った話をするのは悪手。

迷宮の解析装置としての具体的な性能は不明ですが、少なくとも会話の内容は全て把握されているものと考えるべきでしょう。

 もっとも、思考や記憶の中身にまで解析が及ぶ可能性もありますし、その場合は場所替えをする意味もなくなってしまいます。ただ、ヒナが最初にウルとの件を誤解していたことからしても、頭の中身の完全なる読み取りはできないか、できたとしても解析精度はそれほど高くはないはず……と、レンリは見ていました。現状、真偽を確かめる術はありませんが。


 まあ要するに、レンリとしてはヒナの目の届かない所で考えを整理したかったのですけれど、



『街か。そういえば我も最近全然外に出てなかったし、久しぶりに街でランチっていうのも悪くないかもね。モモはどうする? お金なら我が出すわよ』


『モモは箱の中に戻ってお昼寝の続きをするのです。箱入り娘なのですよ。ふわぁ……』



 少々予想外の展開になってきました。

 現時点でヒナが三人を警戒する理由はそれほどない、はず。

 学都の街中にまで付いてきて監視をしようとする理由もない、はず。

 あるいは本当にただの気まぐれで街に出ようとしているのかもしれないが、もしかしたらそうではないのかもしれない。ヒナの意図を読むための判断材料がまるで足りていません。



『というわけだから、案内よろしく。街やお店のデータはあるんだけど、実際に食べて美味しいかどうかってのはイマイチ分かんないのよね』


「……ああ、それは構わないけど」



 迷宮の外に出れば守護者の能力は制限される。少なくとも直接的な危害を加えられる心配はなくなるはずなのに、ここまではあまり良い流れとは言えません。相手の意図を読めないまま、いつの間にか行動の主導権を握られてしまっています。



 こうして三人はヒナを連れて街に戻ることになりました。

 そしてそこで、迷宮内だけの超常能力などではない、本当の意味での第三の守護者の危険性を知ることになったのです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ