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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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第三の守護者


『よくも、お姉ちゃんをいじめてくれたわね。さあ、覚悟なさい!』


 推定、第三の守護者。

 薄いブルーの髪をショートボブにした幼女は、初対面のレンリにいきなり喧嘩腰で食ってかかってきました。これが単なるお子様ならまだしも、相手はホームグラウンドで本領を発揮可能な迷宮の化身。

 まず、戦うという選択肢は論外です。

 まだどんな能力を持っているのかは不明ですが、自らの迷宮内にいる時のウルやゴゴと近い実力があるであろうことは想像に難くありません。いくら強くなったとはいえ真っ向勝負で勝つのは難しい。ウル達と同じような性質を有しているならば、仮に運良く目の前の一人を倒せたとしても、同等の性能を持つ化身を次々と生み出せるはずです。迷宮の外にまでおびき出せたなら力尽くで黙らせるという最終手段もありますが、現状においては無駄に敵意を煽るだけの悪手でしょう。



「まあまあ、落ち着きたまえ。それは誤解というものだよ」



 ……と、とりあえず言ってはみたものの、レンリがウルを泣かせたのはれっきとした事実です。まだ出会って間もない頃、悪質な詐欺にかけるような形で騙した結果大泣きされてしまいました。

 いじめたと言われれば、確かにその通り。

 実のところ、これについては誤解でもなんでもないのです。

 ウル側の身内が憤りを覚えるのも理解できない話ではありません。


 とはいえ、もう随分前の話ですし、今ではウル本人も気にしていません。

 もし根に持って恨んでいたりしたら、同じ部屋で居候として暮らしたりするはずもなし。ウルの気性を考えても、不満があったら率直に伝えてくるはずです。



『誤解ですって? 適当なことを言って誤魔化そうだなんて……』


「ああ、違う違う。そう受け取られても仕方ないことが過去にあったのは事実だ。だけど、その件ならもうウル君も納得して解決済みなのさ」


『そ、そうなの?』



 だからレンリとしては事実そのものの真偽ではなく、この件は既に当事者同士で解決した話であるという点を以て説得を試みることにしました。



「なんなら今この場で本人に確認してもらっても構わないよ。キミ達は離れた場所でも話せるんだろう?」


『う、うん、そこまで言うなら……』



 第三の幼女もウルの妹だけあって、根っこの部分はお人好しなのか。レンリがあえて感情的にならず落ち着いて諭すように話しているのもあってか、もしかしたら本当に当事者間で解決済みなのかもしれないと思いかけているようです。



『あ、もしもし、ウルお姉ちゃん。今、大丈夫? ちょっと確認したいんだけど、かくかくしかじか……』







◆◆◆







 さて、結論から言うとあっさり誤解は解けました。

 迷宮の守護者同士はわざわざ話さずとも本体を介してある程度の情報共有ができる……のはいいのですが、それだけでは不十分。報告・連絡・相談が完璧に行き届いていなかったばかりに既に解決した案件に固執し続けるような形になっていたようです。



『ウルお姉ちゃんの件に関しては我の早とちりだったみたいね。ごめんなさい』


「いやいや、分かってくれたらいいんだよ」



 少なからず焦りはしましたが、まだ具体的に何か被害が出たわけでもありません。レンリとしても年上の懐の深さを見せて謝罪を受け入れました。



『ついでに、最初に貴方達が第三に来た時にカメキチに命令して脅かしたのも謝っておくわ』


「カメ……ああ、思い出した。あの時のあれはキミの仕業だったのか」


『そうよ、我のペットのカメキチ。命令したのは我だからあの子は怒らないであげて。本当はおとなしくて良い子なの』

 

「ああうん、まあ済んだことだし別にいいよ」



 レンリ達が初めて第三迷宮を訪れた時、迷宮に転移すると同時にスタート地点の島が海中に沈んだことがありました。あれもどうやら、今回と同じ早とちりの結果だったようです。

 当時は相当に驚いて全身びしょ濡れの目に遭いましたが、特に怪我をしたわけでもありません。これについてもレンリは許しました。小さな子供が頭を下げているのです。多少の不満を飲み込んででも度量を示すのが大人の対応というものでしょう。



『そうそう、自己紹介がまだだったわね。我はヒナ。この迷宮の管理をしているわ』


「なるほど、名前がヒナだからモモ君に『ひーちゃん』って呼ばれてるのか」


『ええ、良い名前でしょう?』



 どうやらヒナは、ちょっと怒りっぽいところはあるものの、基本的にはゴゴと同じようなしっかり者タイプのようです。そもそも、「問題児」として分類される中では、第三迷宮のヒナは一番まとも寄りのはず。この分なら、それほど警戒する必要はないのかもしれない。


 ……と、迂闊にもこの時のレンリは思ってしまったのです。



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