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一件落着と追跡者


「こらこら二人とも、護衛が雇い主を置いていかないでく……ええと、これどういう状況?」


 ようやくレンリが二人に追いつくと、宙吊りにされているルカと、それを助けるでもなく明後日の方向を眺めているルグの姿がありました。

 まあ、ルグがルカに視線を向けない理由は明白です。



「み……み、見ない、で……!」


「ああ、見てない見てない」



 ルカのローブの下は長いスカートなのですが、足首をロープの罠に引っ掛けられて逆さ吊りにされている状況では、当然の帰結として彼女の白い足やらその奥の下着やらが見えてしまいます。ついでに、前髪もめくれて顔も見えてしまいます。

 それを防ぐ為に両手でそれぞれスカートと前髪を(この非常時においても顔を人に見られるのがイヤなようです)押さえているので、脱出も困難。本来であればロープを強引に引き千切って脱出すれば手っ取り早いのでしょうが、両手が塞がっていては流石に難しいようです。


 ならば、追いついたルグに罠を解除してもらえばいいのでしょうが、当然のことながら、ロープを切るなり解くなりする過程において、彼に色々見られてしまう可能性が付きまといます。

 多少は慣れてきたとはいえ、異性は異性。ルカにとってその可能性は到底看過できるものではありませんでした。彼に明後日の方向を見させているのも、念の為の用心です。



「……ってワケだから、レン、俺の代わりに解いてあげて」


「ああ、分かった。ええと、じゃあルー君はさっきの場所にルカ君の荷物が落ちてるはずだから回収してきて」







 ◆◆◆







「…………ルグ君……き、嫌い……っ」


「ごめんなさい。反省してます。こう、ストレートに言われると結構心にくる……」


 レンリが括り罠のロープを切ってルカは無事に地上に降りられましたが、先程の芋虫の一件から逆さ吊りにされるまでの一連の流れは、人一倍繊細な少女の心に少なからずショックを与えていたようです。

 自分より小柄なレンリの背に隠れて、涙目で(髪で目元が隠れているので他二人からは見えませんが)抗議しています。

 普段であれば、ルカは誰かを苦手に思うことは頻繁にあっても、嫌うことは滅多にありません。ましてや、口頭で敵意を伝えるようなことはまず皆無です。アルバトロス一家の他三名と一匹が今の彼女を見たらきっと驚くに違いありません。



「まあまあ、落ち着きたまえ。彼も別に悪気があったわけじゃないんだし」



 レンリは一応ルグのフォローに回っています。

 芋虫をいきなりルカ達の眼前に披露したのも別に悪気があったわけではありません。単にルグにとってはアレが食材カテゴリだっただけ。いわば、不幸な価値観の相違による事故なのです。

 まあ、デリカシー不足に関しては釈明のしようがありませんし、アレで喜ぶレンリがちょっとおかしい点についても否定できませんが。


 ただ、その後の暴走と罠にかかって逆さ吊りにされたことについては、これは完全に運が悪かっただけです。少なくとも罠に関してはルグは完全に無実です。



「…………」



 最初は頭に血が上っていた(さっきまで逆さ吊りだったので二重の意味で)ルカも、レンリの弁護とルグの謝罪を受けて、だんだんと落ち着きを取り戻してきました。



「あ、あの……嫌いって言って……ごめん、なさい」


「いや、俺のほうこそ。普通の女の子って虫が苦手なんだな」


「ルー君、なんで『普通の』というところで私を見るんだね?」



 自称普通の女子であるレンリが何か言っていますが、どうにか無事に仲直りできたようです。

 問題の「嫌い」発言も、そこまで深刻な意味合いを込めて言ったわけではなく、単にルカの悪口の語彙力が極端に少ないので、咄嗟に口から出ただけのようです。

 双方共に謝って、この件に関しては無事落着となりました。



「さあ、さっきの道に戻ろうか。どこか安全な場所でお昼にしよう」


「う、うん……」







 ◆◆◆









 ……と、綺麗に終わっていたら良かったのですが、先程からの一連の流れにおいて、直接の当事者である彼ら三人以外に不利益を被った人物がいたのです。


 レンリ達三人がその場を立ち去ったおよそ三十分後。



「罠、壊されてる……」



 ルカが引っかかった罠の残骸を前に、一人の少女が呆然と立ち尽くしていました。

 獲物がかかっていないか確認に来たらせっかく仕掛けた罠が破壊されており、オマケに周囲の木々も滅茶苦茶に薙ぎ倒されていたのです。

 こうも派手に森が荒らされては、周囲の鳥や獣も逃げてしまい、しばらくはこの近辺での狩りは出来なくなってしまうでしょう。


 実際には単なる偶然の結果なのですが、事情を知らなければ悪意を持つ者が嫌がらせで悪戯をしたように感じても不思議はありません。



「まだ、遠くない」



 涼やかな無表情の裏に静かな怒気を秘めた若いエルフ。いつぞやの熊殺し少女は、地面に残された僅かな痕跡を頼りに、凄まじい速度で狼藉者達の追跡を開始しました。



やべえよ……やべえよ……

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