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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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迷宮チルドレン


 第三迷宮にて。

 新たな島に上陸したレンリ達は宝箱を見つけた……まではいいものの、中にはなんと以前に会ったピンク髪の幼女がすっぽりと収まっていました。



「やあ、モモ君。なんというか……ユニークなベッドだね?」


『はい、これが意外と寝心地が良いのですよ。箱の中にあった変な布がお布団にちょうど良い具合でして』


「変な布?」



 第四迷宮の守護者だというモモは相変わらずのマイペースぶり。

 レンリの質問を受けるとゆっくり立ち上がり、身体の下に敷いて毛布代わりにしていた布を持ち上げました。モモ曰く、この布こそが本来この宝箱に入っていた品なのだとか。

 よくよく見てみれば絹のような光沢のある生地は目にも鮮やかな紅色。

 この布でドレスでも仕立てたら、さぞや美しく仕上がることでしょう。まあ今は寝床にされていたせいでしわくちゃになっており、所々にヨダレの染みもついていますが。



『これがなかなか肌触りが良いのですよ。この「空飛ぶ風呂敷」は』


「え、空飛ぶ……何?」


『「空飛ぶ風呂敷」です』


「飛行能力のある魔法道具だって? すごいじゃないか。売ったら一財産になりそうだ」


『ああ、いえ。あんまり高くは売れないと思いますよ? モモも乗ってみましたけど全然浮きませんでしたし。飛ぶ力が弱くて、リンゴ三個分くらいの重さまでしか支えられないみたいです。包まって寝る分には問題ないのでモモ的には大丈夫なのですが』



 どうやら宝箱の中身は単なるネタアイテムだったようです。

 道具の性質を考えると、下手に服などに仕立て直すこともできません。スカートにでもしようものなら、勝手に浮いてめくれ上がる変態的な品になってしまいそうです。本当に人を乗せて飛べるようなすごい魔法道具ならともかく、これならば執着する理由もありません。


 レンリ達の興味は宝物から再びモモ自身へと移りました。

 相変わらずの背丈より長いピンク髪。

 ぼんやりとした眠そうな雰囲気。



「それで、モモ君はまた昼寝でもするために第三ここへ?」


『はい、よくわかりましたねえ。あとは何か甘いのが欲しい気分だったので。モモの第四にはお肉はいっぱいいるのですけど、ちょっと甘味に乏しいのです』


「お肉がいる、ね」


『はい、おっきな動物とか魔物とか、恐竜とかもいますよ。モモ的にはさっと焼いたトリケラトプスのモモ肉をネギ塩ダレでいただくのが最近のマイブームです。あ、ちなみにこの場合のモモは足のお肉という意味で、モモのことではありませんので』


「うん、それは言われなくても分かるから」



 期せずして未知なる第四迷宮の情報が手に入りました。

 今はまだ、レンリ達がそこまで行けるとは限りませんが。


 

『自分の迷宮ならモモも本気を出せるので狩り放題の食べ放題なのです。ゴゴお姉ちゃんが珍しいスパイスとか持ってるのでたまにお肉と交換してもらったりもしますね』


「へえ、やっぱりモモ君も強いんだ?」


『はい、めちゃつよです。全部の迷宮の中でも最強かもしれません。まあ他の場所だとよわよわなので狩られ放題の食べられ放題なのですが』



 これはレンリ達にとっても既知の情報なので驚きはありませんが、迷宮の守護者はそれぞれが担当する迷宮内部では、その凄まじい能力を十全に扱うことができるのです。

 あの威厳が感じられなくなって久しいウルでさえ、本体である第一迷宮ではライムやシモンと対等以上に戦えます。その戦闘力にほとんど無尽蔵とすら思える物量や不死性が加われば、これはもう単身で世界を滅ぼせるほどの実力者が相手でなければ怖い物はないでしょう。このぼんやりとした雰囲気の幼女にしても自分の迷宮内であれば恐ろしい能力を発揮できる、はずです。



『前にお姉さん達と会ってからだけでも、もう三十回くらい身体が壊れて作り直してますからねえ。サメにかじられたり、シャチに食べられたり、大きなシャコにパンチされて首がもげたり。自分で食べたバナナの皮を踏んで転んだら、下が岩で頭がぐしゃっと潰れたり。ええまあ、大体そんな感じで色々あったのですよ』


「そ、そうなのかい。それは大変だったね……」


『いえいえ。痛覚は切ってありますし、わざわざ気にするほどのことではないのです』



 まあ少なくとも、今のところはモモがレンリ達にとっての脅威となることはなさそうです。この第三迷宮にいる限りは見た目通りのひ弱なお子様。のんびりした気性にしては意外と行動力が強めのようですが、それによって遭遇した危機に対応する能力もないようです。


 ……いえ、そもそも生き延びようという意思すらないのやも。

 迷宮の化身という存在ゆえ、死生観が人間と異なるのは仕方ない面もあるにせよ、ウルやゴゴはもっと自分達の身体を大事に扱っていました。

 痛みを感じず、また壊れても替えが利くとはいえ、少なくともウル達は進んで壊れに行くような無茶な真似はしません。またレンリの観察していた限りでは、痛みはなくとも身体が損壊することへの忌避感や恐怖感はあったように思えました。


 しかし、モモにはそういった感覚がない。

 もしくは極めて薄い。前回と合わせてもまだ大して長く話しているわけではありませんが、レンリはそのような印象を抱いていました。


 決して悪人ではない。

 きっと良い子なのだろうとも思う。

 けれど、手放しで全肯定できるかというと……。


 モモもまた創造主から問題児扱いされている一人。

 彼女の問題はそういったある方面への極度の無頓着さ、あまりにも行き過ぎたマイペースさに関係があるのでは……という辺りまで考えて、レンリは一旦思考を切りました。

 例の頼み事を引き受けるかどうかは、まだ返事を保留している状態です。ここで下手に深入りしたら、なし崩し的に面倒事に巻き込まれてしまうかもしれません。


 ……というのが、思考を切り替えた理由の一つ。



『モモ、大丈夫!? アンタ達、モモから離れなさい!』



 もう一つの理由は、悠長に考え事をしている余裕がなくなったから。



『あ、ひーちゃん。おはようございます』


『そこの女! アンタが前にウルお姉ちゃんを泣かせた悪人ね! モモまでいじめようったってそうはいかないわ。この我がこらしめてあげるから覚悟なさい!』


「え、またウル君の妹さん? 第三ここの?」



 第三迷宮にいる限りは、本領を発揮できないモモを警戒する必要はない……が、当然ながら第三には第三の守護者がいるのです。

 その恐るべき能力を十全に操る、警戒すべき存在。それが明確な敵意をもっていきなり襲い掛かってきました。レンリとしては完全に誤解とも言い難いのが悩ましいところです。


 

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