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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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想起:神様の悩み事


 これは今より少しばかり前のこと。

 迷宮都市の、とある宿の一室であった話。



『それにしても、子育てって難しいものですねえ……』



 来訪者カミサマは、レンリ達にこんな愚痴を零しました。



『いえ、みんな良い子なんですよ? 良い子なんですけど……でも、迷宮の管理に向いているかっていうと必ずしもそうではないと言いますか』


 

 この場合の「子供」というのは、生物学的な意味でのそれではありません。

 ウルやゴゴやその姉妹達。

 神造迷宮の守護者達を意味しています。


 更に詳しく言うならば、現在話題になっているのは第二迷宮『金剛星殻』を司るゴゴよりも下の、第三以下の姉妹達です。レンリ達は第四迷宮の担当モモと軽い面識がある程度。全七人のうち半分以上とは会ったことすらありません。

 当然、個々の性格など知る由もなく、こんな風に悩みを相談されたところで気の利いた回答などできるはずもないのですが、それを理解しながらも話題に出してくるのには理由がありました。



『皆さんに頼みたいことはいくつかあるんですけど、特にお願いしたいのが……子守り? カウンセリング? ……っていうのもちょっと違う気がしますけど、その子達と話して更生させてもらいたいなー、なんて』



 迷宮の守護者達は造物主である神に対しては非常に従順です。

 その協力者である魔王やその周辺人物に対しても同様に好意的。

 しかし、それ以外の人間に対しては必ずしもそうではありません。

 人間に対して苦手意識を持っていたり、無関心だったり、過剰に好きすぎたり。「良い子」と言われるだけあって、流石に明確な悪意を抱いている者はいないようですが、だからといって危険がないと判断するのは早計に過ぎます。

 学都の迷宮は、そういったいくつかの問題を抱えていたのです。魔物の強弱や迷宮の地形による難易度は容易に調整可能なのですが、肝心の守護者の人格面はどうにもなりません。


 そもそも「七大」迷宮でありながら、一つ目から順番に攻略していく形式なのもそれが原因だったりします。比較的まともな性格で程良く人間に好意的なウルとゴゴに最初のほうを任せ、不特定多数の人間が後半のあまりまともでない守護者に接触しないようにする。何か問題があっても、そこまで至れる強者なら、まあ何とか対処できるだろう、と。

 問題の方向性がそれぞれ異なるので一概に比べることはできませんが、前のほうの迷宮ほど問題が少なく、後ろにいくほど問題児が集まっているというような理解でもいいかもしれません。


 ですが、もし人を集めることを目的とするならば、最初から全部の迷宮に誰でも自由に入れるようにすべきでしょう。攻略者の能力と迷宮の相性の良し悪しなどもありますし、ある迷宮を苦手としていても別の迷宮では活躍できるというようなことも少なくないはず。現状では、せっかくのバリエーションもほとんどが無駄になってしまっているのです。


 問題のある守護者を上から一方的に叱り付けても解決はしません。

 そうした抑圧で一時的に問題が解決したように見えても、水面下の見えないところで歪みが蓄積してしまう可能性もあります。迷宮を育てる上で、予期せぬ心の歪みが生じるのは非常にまずいのです。


 あくまで普通に会話をする中で、問題児達の問題を無理なく自然に矯正したい。

 レンリ達には、そういった役割が期待されていました。



『それに、ほら。皆さん、小さい子の相手は得意でしょう?』








 ◆◆◆








 旅行から戻って一月近くも鍛錬に費やしたレンリ達。

 その甲斐あって、それぞれ大きく能力を伸ばすことができましたが、



「さあ、これからどうしよう?」



 ここに来て行動の指針を失ってしまいました。

 いえ、新たな知識や才覚を得るためにも、第三以降の迷宮攻略を再開すべきだとは彼女達も分かっているのです。もちろん油断はできませんが、力を増した今ならば以前よりも安全に、より大きなリターンを得ることも不可能ではありません。


 ですが、以前に聞いた頼み事がどうにも頭に引っかかっていました。

 レンリ達はまだくだんの協力に関しては返事を保留している状態です。

 しかし迷宮に赴けば、三人にその気がなくとも守護者の側から接触を図ってくる可能性を否定できません。そうなれば必然言葉を交わすことにもなるでしょう。


 その結果、相手の内面にどのような変化が起こるかまでは分かりませんが、彼女達に期待されているのはまさにその会話をすることなのです。事によると、返事をしないままに依頼を達成してしまうかもしれません。


 いえ、上手くいくならまだいいのです。

 協力を約束する以前にまだ見ぬ守護者達との関係が絶望的に悪化してしまったら、これはもうどうしようもありません。

 神様がそれくらいで怒るほど器が小さいはずがない……と思いたいところですが、本物の神様と知り合った後ではそれも不安です。もっとも、あの神様であれば怒るのではなく、メソメソ泣きながら部屋の隅でいじけていそうではありますが。


 まあ、いずれにしても判断材料が足りないのです。

 第一迷宮のウル。

 第二迷宮のゴゴ。

 一つ抜かして第四迷宮のモモ。

 レンリ達が会ったことのあるのは、この三名のみ。

 しかも、モモは第三迷宮『天穹海』の海をプカプカ漂っていたのを偶然見かけて一度だけ話した程度で、まだその人格もほとんど把握できていません。その時の印象からするに大きな問題があるようには感じられませんでしたが、あの幼女にも隠された一面があるのでしょうか。



「まあでも、あんまり気にしすぎるのも良くないかな?」



 用心は必要にせよ、杞憂に陥って空回りしていたのでは何もできません。

 迷宮に入らないなら、そもそも学都に住んでいる意味もなくなってしまいます。

 


「久しぶりに新鮮なシーフードも食べたいし」



 仲間内だけで相談した結果、最終的には新鮮な海産物や南国のフルーツが決め手になって、レンリ達は久しぶりに第三迷宮『天穹海』に向かうことを決めました。


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