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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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修行完了!


 ――――そして、あっという間に半月が過ぎました。



「はい、次! ……よし、終わり! 次の子は誰?」



 先日、ウルの頼みで子供達のオモチャをゴーレム化する作業に取り掛かったレンリ。

 当初は魔法の修行も兼ねて気楽な気持ちで始めたことだったのですが、自分の意思を持って動き回るオモチャ達のインパクトはレンリが想像していた以上に絶大なものでした。

 動くオモチャを手に入れた(しかも無料で!)子供達が、それぞれの友達や兄弟姉妹に自慢しないはずもありません。二日目には初日の倍の人数が、三日目には更にその倍が……という具合に評判を聞きつけた子供達が倍々で集まってきてしまったのです。作業をしているのは初日と同じ公園なのですが、何の変哲もないごく普通の公園が大勢の子供達で埋まったことから興味を持たれ、そこからまた噂が広がった面もあるでしょう。


 この半月でレンリがゴーレム化したオモチャは軽く千を超えています。

 二千か三千か、あるいはそれ以上か。魔法をかけたレンリ自身にもとても数え切れません。

 中には一人で何個も人形を持ってくるような子もいましたし、一度来た子が他のオモチャを持ってきたり、噂を聞いてから新しく買ってもらったオモチャを持ってくる子もいました。


 作業時間に関しても、初日は午後の昼過ぎから夕方までだけだったのが、三日目以降は朝から晩までほとんど休みなしのハードワークになってしまいました。食事についてもサンドイッチのように作業しながら食べられる軽食を、作業の合間に食べていたような有様です。

 ちなみに途中からは噂を聞きつけた街のオモチャ屋や、好事家相手の商売をしている商人が話を聞きにきたりもしていましたが、そういう明らかに商売に利用する考えの大人はさっさとお引取り願いました。こういう時には貴族の権威は便利なもので、極めて平和的かつ穏便に引き下がってくれたものです。まあ、レンリの知らないところで別の魔法使いに依頼して商売にすることまでは否定しませんでしたが。



「ほら、大事にしたまえ。次は……え、これで全員? やっと終わった!」



 そして本日、果てがないかに思われた作業はようやく終わりました。

 別に商売でやっているわけではありませんし、途中で止めても文句を言われる筋合いはないのですが、そうしてしまうと動くオモチャを持っていない子がレンリの知らない所で仲間外れにされてしまうかもしれません。そう考えると止めるに止められず、連日集まる希望者の最後の一人まで対応したというわけです。最後のほうは、もうほとんど意地ヤケクソでやっていました。

 まだまだ人口が増えつつある学都ですから、これからも同じような物を欲しがる子は増え続けるでしょうけれど、一度にまとめて大人数を相手取ることは少なくとも当分はないでしょう。


 これだけ魔法を使った甲斐あって、まだまだ未熟だったレンリのゴーレム魔法も急激に腕を上げました。弱い力しか持たせない人形やぬいぐるみ程度なら、一時間で百近くはゴーレム化させられます。

 もちろん量だけでなく質も向上。

 操作性に大きな難があった『銀糸の腕』も、全力の一撃の三割程度に出力を制限すればという条件付きではありますが、中段横斬り以外の戦闘に必要な動作をさせることにも成功していました。レンリ本人の力と速度くらいにまで出力を制限すれば自由度は更に上がります。本人にとっても予想外の展開ではありましたが、当初の目的であった魔法の練習は十分以上に出来たと言えるでしょう。



「ふぅ、疲れた。安請け合いはするもんじゃないね」


『お姉さん、お疲れ様なの』


「おや、ウル君のほうも一段落したのかい?」


『うん、だいたい欲しい子には行き渡った感じなの』



 そして、レンリの隣ではウルも似たような作業をずっとしていました。

 いつぞや目覚めた極小の迷宮を造る能力。ペンギンのペン三郎と並ぶウルのペットであるミニチュアドラゴンのドラ次郎も、元はといえばこの能力で生み出したものです。

 迷宮とはいっても壁はウエハースのように脆く、宝箱はどう頑張っても最大で手の平サイズ、小さな魔物は普通のカブトムシにも負けそうな力しかありません。

 この迷宮製作能力に関してはウルやゴゴもどういう用途で使う能力なのか教えられておらず、現状では観賞用以外の使い道はありませんでした。


 まあしかし、それはつまり観賞用としてなら立派に通用するということ。

 お盆やバスケットなどの中に造れば迷宮ごと持ち歩くことも可能です。ウル達がレンリの帰省に付き合ってA国の王都に行った時にも、レンリの友人のお嬢様達に造ってあげていました。


 最近のウルはその時と同じように、欲しがる人のために迷宮を造っていたのです。

 小さな迷宮は専門の職人が手がけたドールハウスのように凝ったデザインにも出来ます。中の魔物も小さく弱すぎるので指を近付けて噛ませてみても全然痛くありません。

 以前からウルが知り合いに造ってあげてはいたのですが、最近になってじわじわと人気が出て欲しがる子が増えてきたので、子供達が集まるこの機会に一気に増産したというわけです。ウルはそもそも疲労を感じませんし、魔力も本体の迷宮から必要なだけ常時送られています。隣にいたレンリほどの負担はありませんでした。



「よっ、二人とも。来る途中で昼飯買ってきたぞ」


「やあ、ルー君。待ちかねたよ!」


『今日のお昼はなにかしら?』



 と、そこへお昼ご飯を持ったルグがやってきました。

 ここ半月、ルカはライムの下にいましたし、レンリは子供達の相手で手一杯。予定が空いたルグは一人で騎士団の公開訓練に通ったり、非番のシモンに稽古をつけてもらったりと修行の日々を送っていました。その合間に忙しいレンリに食べ物を運ぶ役目も課されていましたが、それもまた修行の一環。今日も騎士団での午前訓練の後で、レンリとウルのために食べ物を買ってきたところです。

 要するに連日使い走りをさせられているわけですが、迷宮に入る時ほどではないにしろ一応レンリからの給金は出ていますし、軽く10kgを超える荷物を抱えて、かつ中身の形が崩れないようバランスを制御しながら走り回るのは案外良い鍛錬になりました。



『今日はハンバーガーなの!』


「ほほう、いいチョイスだ。褒めてあげよう」


「そりゃ、どうも。それよりもウル、頼む」


『はいはい。分かってるのよ』



 それにルグにとっては、こうしてウルに会いに来る以外に迷宮内のルカの状況を知ることができないのです。彼は毎日、こうして食事を届けがてらに迷宮内の様子を尋ねに来ていました。監督をしているライムのことは信頼していますが、なにしろ会えなくなってからもう半月。心配になるのも当然というものです。



『ええと、どれどれ……あれ?』


「どうかしたのか?」


『あのね、本体われの中にルカお姉さんいないみたいなの』


「いない?」



 しかし、今日は昨日までとは少し様子が違いました。

 ルカがいたのは迷宮内ではなく……、



「えへへ……ここ、だよ」


「え?」



 なんと、ルグ達のすぐ後ろから声をかけてきました。

 どうやら近くまで来たら会話が聞こえ、出てくるタイミングを見計らっていたようです。

 そんな彼女の体型は、半月前の丸々とした太り方が嘘のように引き締まっていました。ムキムキの筋肉質というわけではありませんが、猫背気味だった背筋も心なし伸びて、全体的にすらっとスマートな印象になっています。



「ルカ、無事だったのか!」


「うん……なんとか、生き残ったよ……」



 よほど壮絶なダイエットメニューを課されたのでしょう。

 太ったり痩せたりなどといった些事は早い段階で頭から消え、ルカはただただ生き残ることだけに専念していたようです。物腰や喋り方こそ穏やかですが、その瞳の奥にはまるで十年も修羅場を潜ってきたような『スゴ味』が見え隠れしています。レンリやルグもそれぞれ努力を重ねて成果を得ていましたが、三人の中で最も成長したのは間違いなくルカでした。



「それでね、ライムさんが……もう大丈夫だから、って」


「そうか、頑張ったな」



 ルグがルカの頭に手を伸ばして撫でると、彼女は心地良さそうに目を細めます。



「えへ、もっと褒めて……くれる?」


「ああ、いくらでも好きなだけ。そうだ、こっち来いよ」



 更にはレンリ達のすぐ隣のベンチにルグが腰掛けたと思ったら、



「よしよし、偉いぞ。よく頑張ったな」


「えへへ、へへ……嬉しい……」



 ルグの太ももに姿勢を倒したルカが頭を乗せて、いわゆる膝枕の体勢で頭を撫で続けています。公園内では子供達が動くオモチャを相手に遊んでいますし、すぐ隣ではレンリとウルが昼食を口に運びながら眺めているのですが、まるで意識に入っていないようです。完全に二人だけの空間が出来上がっていました。会えない間、相当に我慢していたのでしょう。



「ねえ、ウル君。なんだか、このポテト甘くない?」


『ケチャップの代わりに蜂蜜でもつけて食べてる気分なの』



 まあキッカケはどうあれ、過程が何であれ、終わり良ければ全て良し。

 迷宮都市から戻って早一ヶ月以上。

 こうして、この一ヶ月で三人は大きく力を伸ばしました。


 迷宮攻略の続き。

 第三以降の迷宮に関しては一切踏み入らぬまま。



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