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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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オモチャの魔法使い


『……って感じなのよ』


「その調子ならすぐ痩せそうだね。ルカ君にはちょっと悪いけど」


 ルカがライム先生の指導の下、過酷なダイエットに励んでいる様子は、ウルを経由してレンリにも伝わっていました。ウルにとって第一迷宮『樹界庭園』は自分の身体そのもの。本体の迷宮内部で起こっていることは、この場にいる化身アバターのウルにも正確に把握できます。



『痩せるためにあんなに頑張らなきゃいけないなんて人間は不便なの』


「ああ、まったく大変だ。私は食べても太らない体質で良かったよ」



 幸い、この二人は体型の悩みとは無縁です。

 レンリはもう半ば物理的におかしい量の食事をしても健康そのものですし、ウルはそもそも物を食べて太るという機能がありません。

 ウルの形態は自由自在なのでその気になれば丸々とした肥満体型になることもできるのですが、わざわざそうする意味もないでしょう。普段から人間と同じように食事をしていますが、それはあくまで娯楽であって食べ物の栄養を必要としているわけではないのです。

 飲み食いした物質は欠片も残さず分解、魔力に変換された後に吸収されるので排泄の必要もありません。あえて人間と同じ形状と性能の消化器官を体内に作れば可能ですが、それこそ無意味というものでしょう。

 ウルの活動に必要なだけの魔力は、常に本体の迷宮から空間を隔てて供給され続けています。言うなれば、ここにいる彼女もまた超高性能なゴーレムみたいなものかもしれません。



「あっ、ウルちゃん達来たよ」


「わあ、楽しみだね」


『ふっふっふ、みんな待たせたの!』



 さて、お喋りをしながら街中を歩いていたレンリとウルは、街の中央近くにある公園にやってきました。もう既に彼女らの到着を待っていた子供達が何人も集まっています。



『それじゃあ順番に並ぶのよ』


「横入りは駄目だからね。さあ、それじゃ始めようか」



 幼い少年少女は、全員がぬいぐるみや人形といったオモチャを手にしています。

 ベンチに腰掛けたレンリは子供達のオモチャを受け取ると、そこに次々とゴーレム化の魔法を施していきました。



 ◆



 少し前。

 時期的にはレンリ達がライムとの試合に備えて準備をしていた先週頃のことですが、その間もウルはいつものように近所の子供達と毎日遊び回っていました。

 もらったお小遣いでオヤツの買い食いをしたり、おままごとやかくれんぼをしたり。

 それだけ見れば、ごく普通のお子様と変わりません。


 そしてそんな風に遊んでいたある日のこと、ウルは先日の旅行の際に買ってもらったペンギンのぬいぐるみを友達に自慢していました。

 それも買ったままの物ではなく、学都に帰ってからレンリにゴーレム化の魔法をかけてもらった品です。レンリのゴーレム魔法が未熟なので強い力は出せず、ゆっくりよちよち歩きをするだけですが、本物のペンギンも陸上では似たようなものですし、変に機敏にならないことでかえってリアリティが増していたかもしれません。

 レンリの部屋で室内飼いをしている小型ドラゴンの「ドラ次郎」と同じように「ペン三郎」と名付けられたゴーレムを、ウルは大変に可愛がっていました。


 しかし、そんなペン三郎を見た子供達が羨まないはずがありません。

 学都にもオモチャ屋はあってフワフワのぬいぐるみや様々なデザインの人形も販売されていますが、流石に自律的に動くような物は売っていないのです。


 ならばゴーレム魔法を使える魔法使いに頼めばと思うかもしれません。

 子供達も最初はそう思いました。

 実際に親や知り合いの大人にどうすれば頼めるかと尋ねてみた子もいたのですが、残念ながら魔法使いにそうした依頼をするには彼らのお小遣いではまるで足りませんでした。レンリが気軽に引き受けたのでウルも気付いていませんでしたが、魔法道具の製作依頼というのは本来とても値が張るものなのです。


 しかし、ウルとしても友達を残念がらせるのは本意ではありません。

 彼女もお金はあまり持っていませんが、なにしろペン三郎を作ったレンリと同居しているのだから、頼み方次第では友達のオモチャも同じようにゴーレム化してくれるかもしれない。そう思って、ライムとの試合が終わったタイミングで頼んでみたというわけです。



 ◆



 それに、レンリとしても実は悪い話ではありません。

 なにしろゴーレム魔法の習熟は、目下の課題である『銀糸の腕』の操作精度向上に直結します。そのためには数をこなして慣れるのが早道。それも同じ形ばかりの綿コットンゴーレムよりも、一体一体の形状が違う子供達のオモチャを加工するほうが微妙な調整の感覚を養うのにも向いていました。


 

「ふぅ、終わりっと」


「ありがとう、ウルちゃんのお姉ちゃん!」


「はい、どういたしまして。さあ、次の子は誰だい?」


 魔力切れで動かなくなっても困るので周囲の大気や持ち主から自動的に魔力を吸収する術式も刻み、術者のレンリだけではなく持ち主の子供の命令を聞くように設定していきます。

 動作確認と称してオモチャ同士で踊らせたり、かけっこをさせてみたり、公園内はなんだかとてもメルヘンチックな雰囲気になっていました。


 可愛らしいウサギ。

 ずんぐりとしたドラゴン。

 勇ましい騎士人形。

 可憐なお姫様。

 全部を同じようにするのではなく、形状に見合った動きをさせるためには細かな気を遣わねばなりません。魔力以上に精神力を使う作業です。


 

「うん? なんだか、良い匂いが……」



 まあしかし、大変なだけというわけでもありません。



「姉ちゃん、姉ちゃん。父ちゃんがお礼に持ってけって」


「うちのママもお礼にどうぞって」


「おお、それは嬉しいね!」



 飲食店や菓子店を営んでいる家の子達が、一度帰ってからお菓子を持って戻ってきました。子供達には魔法の修行を兼ねているからお金を払う必要はないと最初に伝えてありましたが、その保護者としては「はい、そうですか」とは心情的にいかないのでしょう。



「じゃあ、皆でオヤツ休憩にしてから続きをやろうか」



 レンリとしても、そうした気遣いまで断るつもりはありません。

 また、いくら食いしん坊のレンリでも子供達を前にして独り占めする気もありません。たっぷりの揚げ菓子や蜂蜜を絡めたナッツ菓子を全員で分け、英気を養ってから続きの作業に取り掛かるのでありました。


 翌日以降、学都の子供達の間で「優しくて気前が良い魔法使いのお姉さん」という評判が広がり、ウルの知り合い以外までオモチャを持って押し寄せてきたのは、レンリにとっても誤算でしたが。



◆ネット小説大賞は二次落ちでした。残念

◆ところで、ちょっと気になったので読者の皆様にお尋ねしたいんですが、設定上は「頭が良いキャラ」であるはずのレンリはちゃんと賢そうに見えてますかね? 読者の方からキャラがどう見えてるかっていうのは作者からはなかなか分かりにくいものでして。

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