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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
一章『源流想起庭園』

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罠猟と迷宮内の食料事情


 第一迷宮内、川沿いの森道を歩くことしばし。



「おや、あれは鳥……かな?」 



 レンリがふと視線を川沿いの木に向けると、根元の近くで一羽の鳥がじたばたと暴れているのが見えました。どうやら、首のあたりに何か蔦のような物が引っかかって身動きができなくなっているようです。



「あれは……」



 ルグの呟きに、レンリとルカがそれぞれ相槌を打ちました。



「美味しそうだね」


「か、かわいそう……だね」



 どうやら鳥は鴨の近縁種のようです。

 もしも美味い肉ランキングというものでもあれば、上位入賞は間違いないとされる、あの鴨の親戚のようなもの。丸々肥えて脂が乗っていそうですし、きっとお味のほうも良いことでしょう。



「ちょうどいい。そろそろ小腹も空いてきたし、お昼ご飯になってもらおうか」


「可愛い、し……逃がしてあげちゃ……ダメ、かな?」


「いや、二人とも手を出しちゃダメだ」



 女子二名がそれぞれ正反対の提案をしましたが、どちらもルグによって却下されました。



「あの鳥が捕まってる蔦、よく見ると結び目があるだろ? 茂みの中に蔦で作った輪っかをいくつも仕掛けておいて、獲物が頭を突っ込んだら結び目が締まるようになってるんだ」



 鳥が捕まっている罠は自然のままの物ではありませんでした。

 くくり罠といって、蔦やロープを利用して鳥や動物を捕らえるための仕掛けがあるのですが、それに運悪く引っかかってしまったようです。



「誰かが仕掛けたヤツだろうから、横取りとか勝手に逃がしたりしちゃダメだ」


「なるほど、それなら仕方ない。狩人の流儀ってやつかい?」


「うん、下手すると殺し合いになる」


「「…………」」



 まあ、殺し合い云々に関してはルグが二人に警戒を促すために大袈裟に言っているだけです。そもそも、この神造迷宮内ではルールによって他者に明確な危害を加えることは出来ません。

 それに、飢饉の時でもなければ、精々半殺しにされる程度で済むでしょう。



「だから、昼飯を探すなら別の場所にしよう」


「うん、それなら仕方ない」



 そういった事情により、三人は罠から逃れようとする鳥には手を触れず、そのまま前を通り過ぎて先へと進みました。








 ◆◆◆







「これはギョウジャニンニク。料理の味付けにしてもいいし、外側の皮ごと泥を落とせば生でも食べられる」


「へえ、意外と食べられる植物って多いんだね」


 ちょうどお昼頃。

 レンリとルカはルグの指導を受けながら、食べられる野草摘みをしていました。

 先程のギョウジャニンニクの他にも、三つ葉やゴボウ、タンポポ、ゼンマイ、タラの芽、雑多なキノコ類などがやたらめったら生えている場所があったのです。



「全部無料ただ……すごい……!」



 ルカも普段よりややテンション高めになって、野草摘みを楽しんでいるようです。意味合いとしては、レジャーというより食費の節約的な部分の割合が大きそうですが、この場で食べる分以外にも持ってきた鞄がパンパンになるまであれこれ詰め込んでいます。



「俺も知らないやつが結構あるし、怪しそうなのには手を出さないように。それにしても、季節も場所も関係なしか……便利だ」



 そして、神造迷宮だからこそでしょう。季節感とか本来あるべき土壌の違いのような要素をまるで無視して、あらゆる時期の植物がまとめて一緒に生えていました。一見すると普通の森のようにも見えますが、地味に色々な差異があるようです。







「あ、ツイてるな。一品増えるぞ」


「ん、その木がどうかしたのかい?」


「食べら、れる……の?」


 そして野草摘みをしている最中、たまたま目にした倒木にルグが反応しました。

 大人の胴くらいの太さの木は既に腐りかけ、何やらボコボコと小さな穴が開いています。ルグは腰の角剣を抜くと、剣の先端を器用に使って穴をほじくって中のモノを引っ張り出し……、



「ほら、芋虫。これも焼くと美味いんだ」



 丸々と肥えた芋虫を、女子二名に見せ付けました。

 白っぽい色合いにブヨブヨした質感。ルグの手の平に納まらないほどの大物です。



「ほう! 芋虫は珍味だと聞いていたからね、一度食べてみたかったんだ」



 思春期の女子としては、あまり一般的でない感性を持つレンリは平然としていましたが、



「~~~~っ!?」


「「あっ」」



 虫が苦手なルカは一瞬にしてパニックを起こし、鞄も放り捨てて逃げ出してしまいました。間近で見せ付けられたのがよっぽどショックだったのでしょう。



「早く追いかけないと!」



 不幸中の幸いと言うべきか、ルカの走る速度はそれほどでもありません。

 筋力自体は常人離れしていても、そのフォームは手足の連動がバラバラのいわゆる女の子走りで、力がスピードに転化されていないのでしょう。

 しかし、行く手を遮る木々をベキベキとなぎ倒しながら直進する姿からは、か弱さの欠片も感じられません。かの大陸横断鉄道の鋼鉄車両を彷彿とさせるような力強さです。



「驚かしてっ、悪かったからっ、止まってくれっ!」


「~~~~っ!?」



 レンリはともかくルグの足なら追いつくことは難しくありませんでしたが、走りを止める手立てがありませんでした。

 完全にパニック状態になっているので、横から声をかけてもまったく聞こえていない様子なのです。かといって、今のルカに迂闊に触れようものなら周囲の木々と同じような末路を辿りそうです。



 もはや、このままルカが走り疲れて止まるのを待つしかないかとも思われましたが、幸か不幸か、直後に彼女の暴走は止まりました。



「ひゃっ……な、なに……!?」


「なっ!?」



 恐らくは、進行方向上に偶然設置されていた大型獣用の括り罠に足首が入ったのでしょう。

 周囲の木のしなりを利用して獲物を宙吊りにするような仕掛けが発動し、見事に引っかかったルカが逆さ吊りにされてしまったのです。



今回、山菜について少し調べてみたんですが、ヨーロッパあたりでもゼンマイやワラビなどを食べる地域があるそうです。アクを抜いてスープの具にする場合が多いとか。

大抵の山菜系は天ぷらが一番だと思うのですが、どんな味になるのか少し気になります。

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