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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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vsライム①


 前回の訪問から一週間。

 レンリ達は迷宮内のライム宅を訪ねました。

 出来る準備はすべて終え、その眼差しには強い自信が宿っています。



「待ってた……え? えっ?」



 家の外で待ち受けていたライムも、三人の気迫を感じてかやけに驚いた様子です。

 いえ、正確には「三人の」ではなく、ルカに対しての驚きが大半でしょうか。なんというか、とても「強そう」に見えたのです。人の視線に敏感なルカは当然しげしげと見られていることには気付いていましたが、



「あの、どうか……しました?」


「ううん。何も」


「そう……です、か?」


 

 ライムはあえてその件についての言及を避けました。

 しばしば言葉よりも拳によるコミュニケーションを好む根っからの武闘派みたいに見られることのあるライムですが、そんな彼女にも年齢や外見相応のデリカシーというものは備わっているのです。まあ、強者との戦いを好んでいるのは本当ですが、それはそれとして。

 彼女自身も年齢の割に幼い容姿に密かなコンプレックスを抱いていることもあり、女子の容貌に迂闊に言及すべきではないと理解しています。

 気にしていないのか、そもそも気付いていないのか、ルカ自身には特に現状を問題として認識していないようです。だからライムとしては気になることも言いたいこともありましたが、ひとまずは言葉を飲み込みました。



「ふふふ、ルカ君。ライムさんは我々の気迫に圧されているのさ」


「いやいや、それはないだろ」



 ちなみに他二人、レンリとルグの見た目も以前までの冒険スタイルとは大きく変わっていました。レンリは普段のジャケット姿の上に丈の長いロングコートを羽織っており、ルグは頭から上半身にかけてを分厚い毛皮で守っています。



「ルー君のそれも間に合って良かったね」


「ああ、出来たのが昨日だったからギリギリだった」



 ルグが身に着けている防具は、昨年末に彼が故郷に帰省した際に退治した巨大熊の毛皮を加工した物です。迷宮都市から戻った後で職人街の防具工房に発注し、そして昨日になってようやく出来上がりました。

 形状としては、丈の短いマントかローブにフードを付けたような感じでしょうか。

 剣や弓を扱う邪魔にならないデザインで、きっちり寸法を測ってのオーダーメイドなのでサイズもピッタリ。動きを阻害しない軽さと柔軟性、そしてちょっとやそっとの打撃や斬撃はものともしない耐久性を兼ね備えた逸品です。当然値段もそれなりに張り、彼のこれまでの蓄えが半分以上も飛んでいきましたが、お金で命を守れると思えば安い物でしょう。



「レンのほうこそ。ちゃんと使えるのか、それ?」


「さあ、どうかな」



 一方、レンリの纏っているコートは一見すると普通の防寒具のように思えます。

 濃紺の生地のあちこちに銀糸の刺繍が入った派手なデザインですが、それも異様というほどでもありません。流行のファッションに敏感な貴婦人であれば、この百倍は派手に着飾っているでしょう。

 


「多分大丈夫だとは思うけど、実戦で通用するかは試してみないとなんともね。だからこそ、こうして試合を申し込んだわけだけど」



 この新たな装備に秘められた仕掛けが上手く機能するかは、まだ製作者であるレンリ自身にも半信半疑ですが……いえ、だからこそ、こうして試しの場を設けたわけです。









 試合のルールは単純明快。


 ①平らな地面に10m四方の線を引き、その範囲から出たら負け。

 たとえばライムが開始と同時に全速力で距離を取って、遠くから大威力長射程の攻撃魔法を連発するような元も子もない戦法を取ったら、まるで勝負になりません。なので場外負けのルールを取り入れることは先週の時点で取り決めてありました。

 今回は三対一の戦いなので、ライムが場外に出ればその時点で決着。

 レンリ達の場合は三人とも場外に出た時点で負け。一人、もしくは二人が場外に出ただけではチームの負けにはなりませんが、場外負けになったメンバーが途中から復帰することは認められていません。


 ②目潰しをはじめとした急所攻撃、危険行為は禁止。

 これに関しては言うまでもないでしょう。

 今回はあくまで試合。試し合いであって殺し合いではありません。

 レンリやルグの持つ剣も、流石に人造聖剣では危なすぎるので訓練用の木剣です。木剣が有効打となる程度の威力で当たれば、それで勝負ありとする取り決めになっています。


 ルールらしいルールといえば、この二つくらいでしょうか。

 安全への配慮はしてありますが、試合とは言っても要はケンカみたいなものです。



「わくわく」


「なんだかすごく楽しそうだ……」



 ライムも今日という日を楽しみにしていたのでしょう。

 三人が入念な準備をしてきたのを見て、なおさら期待が高まったようです。


 即席の試合場の中5mほどの距離を空け、双方向かい合いました。



「おっと、開始の合図を決めてなかったね。このコインを投げて、それが地面に落ちた瞬間からってことでいいですか?」


「ん。わかった」



 ライムとしては特に反対する気もありません。

 戦う直前になってからの合図の提案もそのまま受け入れました。



「なんか悪い気がする……」


「い、いいの……かな?」


「ふふふ、こうして全力を尽くすのはむしろ相手への礼儀というものなのだよ」



 その些細な取り決めも、実はレンリの罠だったりするのですが。



「それじゃあ投げますよ」


「ん。いつでも」



 レンリが宣言通りにコインを高く弾くと、コインは放物線を描きながら頂点を過ぎて落下を始め、そして自然の重力に従って地面に落下……しませんでした。



「ん?」



 地面すれすれ、ほんの10cmくらいの高さでコインは宙に浮いて……否、目に見えないほど細い絹糸で吊り下げられていました。種を聞けば呆れるほどに単純な、あまりにもせこいトリックですが、コインにはあらかじめ接着剤で糸がくっ付けられており、地面に落ちる直前に逆の手で持っていた糸の端をグイっと引いたのです。結果、ライムの予想よりも落下が一秒ほど遅くなりました。

 

 ですが、せこいトリックも案外馬鹿にならないものです。

 開始の瞬間を見誤り、拍子を乱されたライムに僅かな隙ができました。


 生じた隙は時間にして一秒程度。

 しかし、今の彼にとってはそれで十分。



「ふっ」



 縮地法。

 その歩法で彼我の間合いが詰まるまで半秒。

 右手に提げた木剣を胴目掛けて振り上げるまでにもう半秒。



「……びっくり」


「いや、なんかホントごめんなさい」



 ライムと三人との試合。

 先制の一撃は、ルグの右切り上げ――――。



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