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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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戦う理由は?


 第一迷宮『樹界庭園』。

 この日、レンリ達はライムの住処を訪ねていました。



「ん。わかった」



 用件は、一週間後に試合の相手をしてもらいたいというもの。

 ライムはその申し出を快く引き受けてくれました。

 そう、引き受けてしまったのです。



「ほ、本当に……や、やるの……?」


「ああ、勿論やるとも」


「あぅ……」



 レンリの真意がどこにあるのかはともかく、ルカは早くも腰が引けていました。

 まあ無理もありません。いつぞやの腕相撲の結果を見るなら、パワー面ではルカとライムはほぼ互角か、あるいはルカがやや優位かもしれませんが、それ以外のほとんど全てで圧倒的に負けているのは明白。勝っているのは背丈くらいのものでしょう。

 そもそも、どれほどのパワーがあっても当たらなければ無意味。

 荒事に疎いルカにだってそれくらいは分かります。

 スピード、スタミナ、テクニック、魔法の腕前や戦闘の駆け引きなど、およそ思いつくありとあらゆる要素で劣っていたら、逆転の目などあろうはずがありません。ライム一人に対してレンリ達は三人がかりで戦う条件ではありますが、人数差で覆せる域を遥かに上回る根本的な力量差があるのです。


 ライムが断ってくれないかという一縷の望みもこうして目の前で断たれ、ルカはすっかり絶望的な気分になっていました。



「よし! こうなったら俺も腹を括るか」


「ル、ルグ、くん……?」



 ですが、そんなルカとは反対に、ルグは意外にも積極的な姿勢を見せていました。

 無論、彼とてライムとの力量差は承知しています。

 レンリの新作魔法道具や他にも思いつく限りの隠し玉を考慮して、それでもなお勝てるなどとは思っていません。戦いと呼べるものになるかすら怪しいでしょう。



「別に試合なんだから、死んだり大怪我したりすることはないしさ。そりゃ、いくらか痛い思いはするだろうけど」


「まあ、それは……そう、だけど」 



 あくまで腕試しの試合である以上、一応、安全面は保障されています。

 ライムの性格上、たとえ格下であろうとも決して油断はしてくれそうにありませんし、手加減はしても絶対に手抜きはしないでしょう。

 なので、ものすごく痛かったり、とても怖かったり、多少の怪我を負うことくらいはあるかもしれませんが、まあデメリットがあってもその程度の範囲に収まるはずです。最悪の場合でも、ライムが死ぬほど痛い治癒魔法で治してくれます。



「なんなら俺がやられた時点でルカは降参してもいいし。別にレンだって嫌がるのを無理矢理戦わせるつもりは無いだろ? 無いよな?」


「うん、別にそれでも構わないよ。どちらかというと腕試しより道具の検証がメインだから、最初っから参加してくれないのは困るけど」


「そ、それなら……まあ」



 試合途中での降参も認められ、ようやくルカも少しだけ前向きになりました。

 それに最初に聞いた時は自殺行為としか思えなかったレンリの提案も、その意図を聞けば納得できるものでした。同意できるかはさておき。

 魔法道具に限りませんが、戦闘に用いる道具や武器防具の使い勝手や利点欠点というのは、机上の想定だけでは分からない部分が多々あるもの。実際の戦いの中でこそ浮き彫りになるものです。そして自力だけではどうにもならない、道具に頼らざるを得ないほどの強敵であればあるほどに、その隠れた性質は見えやすくなるでしょう。

 どんな事故があるかわからない魔物相手ではそうもいきませんが、あくまで安全が保障された試合形式で、なおかつ信頼できる人物が相手ならデータ取りもさぞや捗るに違いありません。


 ルカにはレンリの研究内容を聞いてもほとんど理解できませんが、その知的好奇心がどれほどかは普段から近くで見て知っていました。食欲と同じく、常識的に考えたらちょっとどうかと思うくらいに貪欲な彼女なら、新作の試しをするためにライムに挑むほどのリスクを冒しかねないとも思えます。



「それじゃ、来週までにしっかり鍛え直さないとな」


「う、うん……?」



 ……しかし、それはあくまでレンリの理由。

 彼女に雇われている立場のルグがその意向に従うのは分かりますが、だからといって彼が積極的に試合に臨む理由になるかというと疑問です。そもそもの前提として、彼は別に世界最強を目指しているわけでもなければ、戦うこと自体に喜びを見出すような戦闘狂でもないのです。


 そんなルカの疑問を気配から察したのでしょう。

 彼は聞かれるよりも前にその理由を説明し始めました。



「ああ、俺も試してみたい技とかあったからな。まだまだ練習中だけど」


「な、なる……ほど」



 ちょくちょくサボりがちなルカやレンリと違って、ルグはほとんど休むことなく鍛錬を続けています。飛び抜けた才を持たない彼にとっては、その継続力こそが武器。地道な積み重ねの成果をほんの少しでも知ることができたら、その成長の実感は今後に向けての大きなモチベーションへ繋がるだろう……というのは、どちらかというとオマケの理由。



「それに、ルカは俺が守る、って胸を張って言えるようになりたいから。その為なら無茶の一つや二つくらい、どうってことないよ。相手が強いからって尻尾を巻くようじゃ情けないしな」



 一番大きな理由は、好きな女の子を守れるようになりたいから。

 冗談でもなんでもなく、恥ずかしがる素振りも一切なく、至極真剣な顔でそう言い切りました。人間変われば変わるものです。つい一ヶ月前に、恋心のなんたるかが分からず困っていた朴念仁と同一人物とは思えません。



「ルグ、くん……ふふ、ふふふ」



 彼の言葉を聞いて、ルカもまた大いにときめいていました。

 それはもうキュンキュンと。嬉しさのあまり思わず顔もニヤけてしまい、先程までの怯えなど綺麗さっぱり頭から吹っ飛んでしまったかのようです。


 

「こほんっ! こらこら、キミ達。そういうのは二人の時にゆっくりやりたまえ」


「ん」


「あっ……ご、ごめん、なさい」



 ついでに、レンリとライムがすぐ近くにいることまで失念していましたが、まあそれはさておき。ここまでの会話のおかげで、結果的にはルカの恐怖心もある程度払拭されたようです。本番までこの調子が持続すれば、怯えるあまりに逃げ出したり腰を抜かしたりということは避けられるでしょう。



「ライムさん、そういうことでまた来週」


「ん。楽しみ」


「さあ、二人とも。帰ったら早速特訓だ。一週間で新しい装備を使いこなせるようになってもらわなきゃいけないからね」



 兎にも角にも、本当にライムの胸を借りることが決まり、レンリ達は意気揚々と迷宮の外へと引き上げていきました。そして、かつてない強敵を想定した猛特訓の日々が始まったのです。



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