表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

405/1054

黄金柳


 近年、学都には様々な料理店が増えてきました。

 安くて気軽に入れる庶民的な店から、正装と予約が必須の高級店まで。

 既に名店としての呼び声高い店もいくつかありますが、その中でも東の大河沿いにある『風の魚亭』、そして北街の高級住宅街近くに店舗を構える『黄金柳』の二つが双璧と言えるでしょうか。


 前者はややカジュアル寄りで魚料理が名物。

 後者は完全予約制のフォーマルな高級店で、肉料理が名物。

 得意分野や客層が違うので一概にどちらが上とは判じられませんが、料理の味に関しては間違いなく両者共に一級品です。


 そして本日、少なくとも値段に関しては一番の名店『黄金柳』で、騎士団長職を休んでいたシモンの復帰祝いの会が開かれようとしていました。







 ◆◆◆






「やあ、諸君……うぅ、お腹が……」


「ど……どうした、の?」


 シモンの友人として招待されたレンリやルカ達。

 ルカとルグは一旦解散して着替えてきており、レンリも今日はお嬢様らしいドレス姿。それぞれ場に相応しい格好をして集まっていたのですけれど、レンリはお腹を押さえて苦しげに呻いています。



「レン、具合が悪いなら無理して来ることはなかったんじゃないか?」


『ああ、そういうのじゃないから心配するだけ無駄なのよ』



 祝いの席とはいえ、体調不良なら無理して来るようなものでもありません。

 しかし、レンリと同じ部屋に住んでいるウルは呆れたように肩を竦めています。



「いやほら、沢山食べるために今日は朝と昼を一人前ずつしか食べてないんだよ……ああ、お腹が空き過ぎてなんだか目が回ってきた……」


「今更だけど、レンの胃袋はどうなってるんだ?」


「ふ、不思議……だね」



 一人前というのは、あえて言うまでもなく「一人分の食事」という意味のはずですが、普段から五人前十人前は当たり前に食べるレンリにとっては前菜にもならないようです。いくら食べても太らない体質で、なおかつ食べ過ぎる分には健康を損ねることもないというのは今のルカには羨ましくもありますが。



「はっはっは、そういうことなら沢山食べると良いのである!」



 ……と、レンリ達のやり取りが耳に入ったのか、通りすがりの巨漢が朗らかに声をかけてきました。身長190cm超にして体重は150kg以上という巨体。それでいて肥満体ではなく分厚い筋肉に覆われた超マッチョ。本日の主催者であるエスメラルダ伯爵です。特注品のタキシードが内側からの筋肉の圧力で今にもはち切れそうになっています。



「若者達よ! 諸君はたしかシモン殿下の友人であったな? 今宵の料理は我輩の奢り故、遠慮せず好きなだけ食べるといいのである」


「まあ、これはお恥ずかしいところをお見せしました。ですが、そう仰せならば遠慮するのもかえって失礼というものですね。閣下のご厚情に感謝いたしますわ」



 いつもの口調とはまるで違いますが、咄嗟に猫を被ったレンリが会話に応じました。

 猫を被っていない姿を既に見られている以上、誤魔化そうにも手遅れ感がありますし、似合わないお嬢様言葉を聞いたウルが口を押さえながら必死に笑いを堪えていますが、まあそれはさておき。



「ふふふ。それではお言葉に甘えまして、今日は店の食材と閣下のお財布が空っぽになるまで食べ尽くしてご覧に入れましょう」


「はっはっは、それは大変結構! 若者は沢山食べて我輩のように大きくなるべきなのである」



 伯爵はレンリの言葉を冗談だと思ったようですが、横で聞いていたルカ達には多分それが本気なのだろうと分かってしまいました。本気でお腹を空かせたレンリが相手なら、下手をすると本当に店の食材と伯爵の財布が空っぽになってしまうかもしれません。



「おっと、そろそろ人が増えてきたようであるな。では、若者達よ。我輩はこれにて失敬!」



 主役はあくまでシモンですが、主催者の伯爵には色々と用事があるようで、朗らかに笑いながら立ち去っていきました。


 今夜の集まりに招かれているのはシモンの友人知人、それに騎士団の幹部や他の公職関係者、学都に滞在中の他領の貴族や高名な学者、大商会の頭取など、かなりの人数に上ります。ちなみにルカ以外の兄弟達もシモンの友人枠として招待されているのですが、



「いやぁ、こうお廻りさんばっかりだと、なんだか居心地悪いねぇ」


「ああ、アタシもそれ分かるわ。ルカとレイルはよく平気ねぇ」


「別に気にすることないと思うけどなー」



 もう足を洗って堅気になったとはいえ、騎士団関係者に周りを囲まれているのはどうも落ち着かないようです。最近は悪事を働いていないので堂々としていればいいはずなのですが、なんとなく隅のほうで目立たないようにしていました。これも一種の職業病かもしれません。ちなみに、流石に鷲獅子グリフォンはサイズ的な問題で物理的に店内に入れないので、ロノだけは屋敷で留守番をしています。



 ともあれ、参加者は全部で百人を軽く超えるでしょう。

 中にはシモンと直接の面識がない人々も少なからず招待されているようですが、それも王弟殿下と伯爵閣下の威光によるものでしょうか。普通に考えれば、いくら慶事と言ってもたかが復職祝いの割に招待客が多すぎるようにも思えますが……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ