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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
七章『終末論・救世機関』

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想起:アカデミアの迷宮

おまたせしました


 これは今より少しばかり前のこと。

 迷宮都市の、とある宿の一室であった話。



『ところで、不思議に思ったことはないですか? あの聖杖が、どうして「アカデミア」と名付けられているのか、と』



 本題であった異界の情報の取り扱いに関する注意が一段落した後。

 来訪者カミサマは、レンリ達にこんなことを問いました。



『貴方達にとっては杖よりも街の名としてのほうが馴染みがありそうですね。率直に言ってしまいますと、人間の皆様が杖の銘を採ってそのまま街の名としたのは、わたくしにとっても意外でして。まあ、あえて止める理由もないので別に構わないのですけれど』



 街の中央に突き立つ聖杖から名を貰ったのが学都アカデミア。あの街の住人は当然として、その名を聞いて最初に連想するのは聖杖ではなく街のほうでしょう。



『「アカデミア」というと学問の研究機関や学校・学園……今時分ではそういった使われ方が主でしょうか。元来はもっと広い意味での「学ぶ場」という意味合いですね』



 学都にも学校やそれに類する教育・研究の場は少なからず存在します。

 知識を求めて迷宮にやって来た学者……例えばレンリもその一人ですが、その誰もが彼女のように経済的に裕福というわけではないのです。日常の生活や研究、冒険者の護衛を雇うのにも何かとお金は必要です。そういう人々がお金を稼ぐために私塾を開いたり、既存の学校組織で教師として働くことは珍しくありません。

 結果的に「学ぶ場」が増え、また研究者同士の交流の機会も自然と増し、あの街は「アカデミア」という名に相応しい発展を遂げてきました。



『まあ何にせよ、杖の銘とするには不似合いだと感じるのではありませんか?』



 けれど街の発展は、あくまで結果的に、半ば偶然でそうなっただけのこと。どうして聖杖が、そして杖が創り出した迷宮群が「アカデミア」と名付けられたのか。その理由は別にあります。



『迷宮に入った人々が知識を得て、経験を積み、様々なことを学ぶ場だから……という意味もあるにはありますが、それだけでは半分です。肝心なのは残りの半分』



 迷宮を上手く利用すれば、努力と運次第で生まれついての才覚の不足を埋めることも不可能ではないかもしれません。元々、才に恵まれた者でも本来以上の高みを目指せる可能性が出てきます。だからこそ、遥か遠方の国々からも人々がやってきて、危険も承知で迷宮に入ろうとするのです。


 そういった、人々が学ぶ場としての意味合いがまず半分。


 

『あの迷宮は、情報を取り込んで育つのですよ』



 もう半分の理由は、迷宮そのものが学んで成長するから。

 人々の「学ぶ場」であると同時に「場が学ぶ」。


 

『養分、餌、肥料……ええと、ちょっと言い方が悪いかもしれませんけれど、迷宮に来る皆さんは迷宮の栄養源というわけでして。ほら、生きた人間というのは、ただそれだけで情報の宝庫ですから』



 肉体の強さ弱さ、健康状態。

 感情や思考や記憶。

 熟慮の末の行動、咄嗟の判断。

 他者との交流についても。


 迷宮に足を踏み入れた時点からじっくり観察され、解析され、記録され、そうして得られた情報の全ては迷宮を育てるための栄養となる。そして最後まで育ちきったなら――――。



『その時こそ、この世界は必ずや救われましょう』








 ◆◆◆








 さて、迷宮都市への旅行から戻って早数日。



「ふふ、ふふふ」



 ルカは毎日朝から晩までずっと浮かれていました。それはそれは大層な浮かれっぷりで、うっかりすると足が床から離れてふわふわ飛んでいってしまうのではというほどです。


 まあ無理もありません。

 旅行中には幾多のトラブルもありましたが、結果的には見事なハッピーエンド。

 ルグへの初恋が実って交際を始めることができたのです。


 幸い、戻ってから家族に紹介する際にも特に問題はなく……というよりルグが挨拶に来た時にも「あ、やっぱりそうなったか」程度の軽い反応でした……無事に家族公認のお付き合いということになっています。



「えへへ……これで、よし」


「ルカ、最近ずっとご機嫌ねぇ」


「う、うん……だって、嬉しくて」



 今朝も姉のリンと一緒に朝食の準備をしながら、お昼にルグと食べるためのお弁当を準備していました。大きなバスケットに一杯のサンドイッチや揚げ物やサラダ、デザートの果物まで。頑張っているのは調理だけでなく、野菜や果物はまだ暗い早朝に起きて東街の市場で新鮮な物を選んできたほど。実に気合が入っています。

 ルグと二人で食べるにしても多すぎるほどの量ですが、きっと彼なら多少苦しくなっても文句ひとつ言わずに完食してくれることでしょう。


 

「あ、お兄ちゃん……お、おはよう」


「やぁやぁ、おはよう。今日も未来の義弟おとうと君のところに行くのかい?」


「み、未来の義弟……えへへ、ふふふふ」



 長兄のラックも遊覧飛行の仕事を始めて以降は、ちゃんと朝食の時間に起きてくるようになりました。彼の軽口にもルカはいちいち頬を緩めてしまいます。



「んー……? ところで、ルカ」


「なぁに、お兄ちゃん……?」


「もしかして最近ちょっと太った?」


「……っ!?」



 流石にこれは笑えませんが。



「ちょっとちょっと、兄さん。妹相手だからって、女の子にいきなり『太った?』はないでしょ。ルカも気にすることは……うんまあ、たしかにちょっと丸くなった気はしないでもないけど」


「…………っ!?」



 擁護しようとしたらしいリンからも追い討ちを受けましたが。


 ルカにも心当たりがないわけじゃありません。

 というか、心当たりしかありません。


 迷宮都市への旅行では、いえ、その前のA国王都への帰省からかれこれ一ヶ月以上も、食欲と興味の赴くままに美味しい物を食べて食べて食べ続けてきたのです。いくら食べても太らないレンリやウルのような体質でもなければ、当然ながら体型への影響も出てきます。


 今はまだ身内がよく見ると「太ったかも?」と思う程度の変化ですが、このまま生活方針を改めなければ、いずれは誰が見ても分かるくらいの差異が出てくることでしょう。



「う、運動……しなきゃ……」



 ルグと一緒に出かけるのは昼近くになってからの予定です。

 家事を手伝った上でも時間は幾らか余るでしょう。ルカは出来上がった朝食を運びながら、空き時間を利用してジョギングでもしようかと考えていました。



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