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続・将来の夢についての話


「そう、なの?」


「そうなのかい?」


 よく考えてみたら自分は冒険者になりたいわけではなかった。

 ルグの発言が意外だったのか、ルカとレンリはきょとんとした表情を浮かべています。



「ああ、いや。別に冒険者が嫌だとか、辞めたいってわけじゃないぞ」


「ふむ?」


「元々、何か人を助ける仕事がしたいって気持ちがあってさ」


「勇者……リサさん、みたいに?」


「うん。まあ、ずっと憧れだったし。で、それなら何をするにも腕っ節はあったほうがいいし、修行しながら生活費を稼ぐには冒険者が都合が良かったんだよ。あとは師匠の影響もちょっとあるかも」



 勇者のように人を助けたい。そんな漠然とした憧れが先行していただけで、具体的に就きたい仕事があったわけではないのです。


 とはいえ、何をするにも強くなって悪いということはありません。

 強くなれば将来的な選択肢の幅も増えることでしょう。

 人の多い都会に出ることで見聞を広めることもできます。


 そして、実際そのようになりました。


 この一年近くの日々は予想外の事態・事件も数多く、かつてのルグが考えていたよりずっと波乱万丈の毎日でしたが、成果を見れば当初の期待通り。いえ、期待以上の得難い経験を積むことができました。



「だから、別に冒険者になったことを後悔してるとかじゃないぞ。そうじゃなかったらルカとも会えなかったろうし。でも、この先もずっと冒険者をやってたいかっていうと、それは正直よく分からない」



 現状に不満があるわけではないけれど、だからといって冒険者を一生の仕事としたいかというと疑問がある。もしかしたら、もっと相応しい仕事があるのかもしれない。じゃあ、何をしたいのかというと、それはまだ彼自身にも分からないのですが。



「あ、そういえば……わたし、も」


「そっか。ルカが冒険者してるのって元々は俺が勘違いしたせいだったな」



 それはルカも同じです。

 彼女の場合、冒険者という仕事に対する執着はルグ以上に薄いでしょう。

 元々、列車強盗をやらかしたすぐ後に、何も知らないルグ相手にその場しのぎの誤魔化しをしていたら、何故かギルドで登録することになってしまっただけなのです。

 当時のルカとその家族は経済的に苦しかった事情もあり、レンリの護衛を引き受けたことで結果的に助かった面もありますが、現在はそのような困窮からも脱しています。極論、今この瞬間に辞めても大して困ることはありません。



「うーん、将来の夢か。意外と難しいな」


「わたしも……お嫁さん以外、は……思いつかない、かも」



 将来の夢。

 どんな仕事をしたいのか。

 どんな人間になりたいのか。

 軽い雑談のつもりだったのが、ルグもルカも真面目に考え込んでいます。


 単に食べていくだけなら、ルグの田舎に帰って畑仕事や狩猟をするだけでも恐らくはなんとかなるでしょう。将来的に家庭を持つのなら、安全な環境で安定した収入を得られる職業を選択したほうがいいのかもしれません。けれど、そうした堅実な道を選んだとして心から満足して生きていけるかというと、それもまた疑問があり……。



「まあまあ、二人とも。別に今すぐ決めなきゃいけないってわけでもないだろう」



 しかし、レンリの言う通り、今すぐ決めなければいけないわけでもありません。

 いつかは決めねばならないにせよ、ここは焦らずじっくり考えるべきでしょう。



「そうだ! せっかくの機会なんだし、ここは頼りになる先達の意見を聞いてみるのはどうだい? 私もちょっと興味あるしさ」








 ◆◆◆







 というわけで、その日の夜。

 魔王の店で夕食を摂っている時に、レンリ達は年上組の皆に尋ねてみました。



「ほう、将来の希望についてか。ちなみに騎士団うちならいつでも歓迎だぞ。外国人でもちゃんと手続きを踏めば入団できたはずだ。給料が特別高いというわけではないが公務員だから安定しているしな」


「街を守る兵隊おまわりさんか。それも立派に人を助ける仕事だね。ルー君、結構似合うんじゃない?」



 まず最初に聞いてみたのはシモン。もうちょっとだけ休職期間は残っていますが、彼はこの旅行が終わったら間もなく団長職に復職する予定です。

 騎士団なら、ルグの希望する「人を助ける仕事」という曖昧な希望にも少なからず合致します。冒険者ほどの自由はありませんがその分安定していますし、就職先の候補としては意外と悪くないかもしれません。



「そういえば、ライムさんは将来やりたいことってあるんですか?」



 続いて、ルグが質問したのはシモンの隣で黙々と揚げた芋を食べていたライム。

 普段、迷宮に住んでいる彼女は、修行を兼ねた狩猟で得た肉や毛皮を売って収入を得ていますが、かといって職業的な猟師という風でもありません。むしろ、人里離れた環境に籠もって鍛錬を積むストイックな武芸者的イメージが近いでしょうか。

 極端な無口無表情のせいで、出会ってしばらく経つルグ達にも謎めいた印象があるライム。彼女はチラと横目でシモンを見てから、



「いつか倒す」


「あ、ああ。お手柔らかにな」



 いつも通りの短い言葉で答えました。


 夢というのは、何も就きたい仕事だけを意味しません。

 因縁のライバルを打倒する。

 それもまた立派な夢の形です。



「ん。シモンを倒して心臓を……」


「俺の心臓を!?」


「……やっぱり、なんでもない」


「いや、待て待て! 俺の心臓をどうする気だ!?」



 ライムの場合、シモンを倒すだけでなく他にも大きな目標があるのですが、そちらはこの場で明かす気はなさそうです。「心臓ハートを射止める」とか「心臓ハートを奪う」みたいな言い回しが中途半端になったせいで何やら猟奇的な感じになってしまいましたが。



同じ話題でもう一回くらい続きます

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