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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
六章『異郷夢幻恋歌』

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彼氏彼女の間柄


「あははははっ! なにそれっ、私を笑い殺す気かい!」


 翌朝。

 魔王の店で朝食を摂りつつ、昨夜の顛末を聞いていたレンリは、それはそれは大笑いしていました。あまりに笑いすぎて痛くなったお腹を抱えて苦しがっているくらいの笑いっぷりです。


 

「そんな笑わなくてもいいだろ」


「は、恥ずか……しい」



 昨晩、無事に仲直りをして、晴れて両想いになったまでは良かったけれど、ルカはあまりに嬉しかったせいで手加減を忘れたままルグを抱き締め、彼はそのまま失神してしまったのです。

 それを聞いたら、たしかに笑うなというほうが無理というものでしょう。



「でも、どこも骨折してなくて良かったじゃないか。いやだって、下手したら骨折どころか全身の穴という穴から血を噴いて死んでたかもだし。流石に私も友達の惨殺死体とか見たくないからね」



 病院に運び込まれた彼が目を覚ましたのは夜明け近くになってから。

 幸い、医師の診察でも骨折や内臓破裂などの重傷ではなく、吐き気や痛みのような自覚症状もありませんでした。したがって通院や入院の必要もなく、目が覚めてすぐに解放されたという次第です。

 ルカがあと数秒力を緩めるのが遅れていたら、それこそルグはスプラッタな惨殺死体になっていたかもしれませんが、それは既に済んだ話です。彼としても、そこをしつこく掘り下げる気はありません。



「まあ、なんだ。おめでとう。これでめでたくキミ達は彼氏彼女の間柄になったわけだ」


「ああ、うん。そうなるのか」


「か、彼女……えへ」



 それよりも重要なのは、ルグとルカが晴れて恋人同士となったことでしょう。


 

「わたし、は……ルグくんの、彼女、です」


「ん? ああ、そうだね」


「えへへ……彼女……ふふ」



 ルグの「彼女」になったことがよっぽど嬉しいのか、ルカはそれはもうスライムもかくやというほどに顔を緩ませています。頬が緩みすぎて、そのまま蕩けてしまいそうです。



「なんなら宿の部屋も今から相部屋にしてもらうかい? ルー君がこの家にお邪魔する理由はもうなくなったわけだし」


「い、いや、そういうのは……ほら、あれだ」


「え、えと……まだ……難易度が、高い……から」



 とはいえ、まだ恋人同士になってから半日足らず(しかも、その大半の時間はルグは気絶した状態)。具体的にどういう交際をしていくかの見通しなど、まだまったく立っていないのです。

 ルカはただでさえ人一倍恥ずかしがり屋ですし、一見平然としているルグだって照れ臭さは隠し切れていません。名目上の関係が変わったからといって、すぐに何がどうなるということはないでしょう。というより、むしろ……。



「というか、それ以前にちょっと問題があってさ」


「問題って? 無事に仲直りはできたんだろう?」


「ああ、それはそうなんだけど。ルカ、ちょっと手いいか? はい、握手」


「え、あ……」



 他にも困った問題がありました。

 レンリに説明するために、ルグが隣に座っていたルカの手を握ると、



「痛てててっ」



 手をギュッと握り返された彼が痛みに呻きました。すぐに離されたので骨まで握り潰されるようなことはありませんでしたが、それでも圧迫された手が赤くなっています。



「ご、ごめんっ……大丈夫?」


「ああ、大丈夫だから気にするなよ。えっと、つまりだな」



 もちろん、ルカが愛しい彼に危害を加えるつもりなどあるはずがありません。

 けれど、この場合はその愛情こそが曲者です。



「なんだか、力加減が……上手く、できなくて。えと……ちょっと、嬉しすぎて」


「俺以外の人とか物だと大丈夫みたいなんだけど」


「それは……なんというか、難儀な話だね」



 普段のルカは、怪力を完全に抑えることはできずとも、精妙な力加減によって大過なく日常生活を送ることができています。しかし昨夜からこっち、対象がルグの場合のみ、その制御がどうも上手くできなくなってしまったのです。今朝、彼が目覚めて以降も、もう何度も今みたいに痛い目に遭っていました。


 原因はルカ自身にもはっきり分かっています。

 あまりに嬉しすぎて、愛情が溢れすぎて、ふわふわと浮き足立っているが為。

 心が乱れているのは、どこからどう見ても明らかです。

 ルグに痛い思いをさせないために、どうにか我慢して普段通りにしなければと思いながらも、直に触れ合ったら、これはもういけません。ついつい力が入ってしまいます。


 せっかく精神的な距離が縮まって交際を始めたというのに、これではおちおち手を繋ぐこともできません。付き合い始める前よりも、かえって物理的に遠ざかってしまっています。



「あの、痛かった……よね? わたしの、こと……嫌いに……」


「これくらいで嫌いになるわけないだろ。ちゃんと好きだから安心しろよ」


「ほっ……よ、良かった」



 まあ、そういった面も含めて受け入れるのが男の度量というものかもしれません。

 実際、ルカは不安そうにしていましたが、ルグの態度は堂々としたもの。今の彼ならきっと全身複雑骨折くらいなら笑って許してくれるでしょう。


 おかげでルカも安心したようです。

 安心して、勢いあまってこんなことを言い出しました。



「……ねえ、ルグくん。もう一回……好きって、言って?」


「ん? ああ、好きだぞ」


「えへへ……わたし、も、好き。ふふ……もう一回」


「ルカ、好きだ」


「えへへへへ……も、もう一回、いい?」


「好きだぞ、って何度も飽きないのか?」


「全然、飽きないよ……えへへ、幸せ……」


「まあ、ルカが幸せならそれでいいか。気の済むまで何度でも言ってやるよ」



 すぐテーブルの向かいにレンリがいるのも忘れて、二人だけの世界に入っています。とても幸せそうですが、それを間近で見せ付けられる側としては、たまったものではありません。



「うわ、甘っ! なんだかハチミツをジョッキでがぶ飲みしたみたいな気分だ。あ、アリスさん。私にブラックコーヒーを大急ぎで!」



 友人達の幸せを喜ぶ気持ちはあるものの、これでは甘さで胸焼けしてしまいそうです。レンリは急ぎ注文したコーヒーを一息に飲み干しました。




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