好きだから
「お前が好きだ」
ルグは、はっきりと告げました。
「俺はルカのことが好きだ」
「え、な……っ!?」
聞き違えようもない真正面からの告白。けれどルカとしては、正直、嬉しさを感じるというよりも、あまりにも急なことで混乱するばかり。
「ああ、駄目だな。謝りに来たのにこれじゃ順番が違う」
彼もその戸惑いを察したのでしょう。
そもそも、ルカを探していた目的は彼女に謝るため。
ルグとしても気持ちが先走ってしまい、上手く言葉が出てこないようです。彼も、慣れないことで緊張があるのかもしれません。
「えっと……最近、どうしてた?」
「皆と、遊びにいったり……楽しかった、けど」
「そっか。こっちもそこそこ楽しかった」
「そう……なんだ」
話題を変えてみるも、互いによそよそしさが隠しきれていません。
相手がいなくても楽しんでいたという言葉も、ともすれば相手がいなくても問題なかったという風にも解釈できてしまいそうですが……、
「でも、『そこそこ』じゃ駄目なんだ。これじゃ足りない」
「足りない……って?」
確かにルカがいなくても、レンリや他の皆と過ごしていても『そこそこ』楽しかった。けれどそれは、相手がいなくても構わないなどという意味では断じてありません。
「ルカがいないと、何をしていても、美味しい物を食べても、本当に心から楽しめないんだ。レンや皆にはなんだか悪い気もするけど」
この数日、ルグの頭の中には常にルカのことがあり、そのせいで何をしていても心から楽しむことが出来ていませんでした。
彼女を傷付けてしまった罪悪感ゆえ?
たしかに、そういう理由もないとは言えません。
だけど、決してそれだけではなく……。
「離れてみて、今会って、やっと分かった。これが『好き』ってことなんだな」
好きだから。
「俺を好きになってくれて、ありがとう」
特別な人だから。
「それと、本当にごめん。ごめんなさい。お前に酷いことを言った。あれじゃ怒られて当然だ。許せなくても仕方ないと思う。でも……」
一緒にいたい。
すぐ近くにいて欲しい。
「それでも俺を許してくれるなら、どうか俺とずっと一緒にいて欲しい」
不器用な、けれど彼らしい真っ直ぐな想い。何度も失敗して、大きく遠回りをしたけれど、ルグはようやくこの答えに辿り着いたのです。
「わたし、も……っ」
ルカは、彼女自身も気付かない間に目から涙を零していました。
悲しいから泣いているのではありません。
嬉しいから。
好きだから。
心の中で静かに燻っていた怒りも今や消え、あるのは暖かい愛しさばかり。
「好き……大好き……っ!」
想いが通じた嬉しさゆえか、感極まったルカは彼を思い切り抱き締めて――――、
「ぐえ」
ルカは、カエルが潰れたような音を聞きました。
はて、今は真冬だけどこんな時期に冬眠していないカエルがいるのだろうか?
それに、なんだかやけに音が近かったような……と不思議に思ったのは一瞬のこと。
「ル、ルグくん……?」
「……ぐぅ」
ほんの一瞬とはいえ、手加減を忘れたルカが思い切り抱き締めたら、ルグの身体はひとたまりもありません。息はしているので一応死んではいないようですが、白目をむいて泡を吹いています。どうやら完全に失神しているようです。
「ル、ルグくん……しっかりして! 気をたしかに……っ」
つい数秒前までのロマンチックな雰囲気はどこへやら。気絶した彼をお姫様だっこの形で抱えたルカは、大慌てで医者を探して夜の街を走り回る羽目になったのでした。
めでたくもあり、めでたくもなし。




