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仲直り作戦スタート


 ――――そして、数日が過ぎました。



「いやぁ、今日も遊んだ遊んだ。やっぱり旅行ってのはこうじゃないと」



 レンリ達が迷宮都市を訪れてから早一週間。

 来てからすぐの三日ほどはトラブル続きでロクに観光を楽しめませんでしたが、まるでその分を取り返すかのように以降は怒涛の追い上げを見せました。まあ、つまりは朝から晩まで全力で遊び呆けていたわけです。

 滞在一週間目に当たる本日も、昼前にルグを迎えにきたレンリの誘いでスライム料理の専門店で昼食を済ませた後で書店巡りをし、路上に設えたリングでゲリラ試合をしていたレスラー達の戦いを見物したり、路上を暴走する猛牛相手に闘牛士ごっこをしていた知人コスモスが跳ね飛ばされてどこかに飛んでいくのを眺めたり、異様に広く深い噴水で弟妹達と華麗なシンクロナイズドスイミングを披露していた馬鹿コスモスを見かけて他人の振りをしたり……この数時間だけで異常に密度の濃い時間を過ごしていました。


 現在は喫茶店で休憩中ですが、基本的には一事が万事。

 発生する出来事イベントの内容こそ違えど、ここ数日は毎日がこんなノリです。

 内陸にも関わらずどこからともなく湧いた海水に街の一部が沈んだり、菜食主義者ベジタリアンを自称するゾンビの群れが死体の人権獲得を訴えるデモ行進をしていたり、明らかに異常な現象も頻発しているのですが元々の迷宮都市の住人はまるで気にしていないか、見世物として面白がっているばかり。

 悪質な洗脳でも受けているかのような無反応ぶりですが、それらの現象による人的・金銭的な被害は何故か無く、翌日には何事もなかったかのようにいつもの街並みに戻っているのが常なのだとか。ならば、一々騒ぐほどでもないということなのでしょう。

 レンリ達のような旅行者は最初のうちは律儀に驚くのですが、次第にツッコミ疲れて静かな心で物事を受け入れられるようになってきます。なりました。

 

 もちろん、ルグとルカとの間の問題が解決したわけではありません。

 というか、この件に関しては、少なくとも当事者の認識としては、何ひとつとして進展していません。あの晩以降、当事者の二人が一回も顔を合わせていないのだから当然といえば当然ですが。


 魔王宅に居候しているルグは、本人の意に反して連日のようにレンリに連れ出されては、美味しい物を食べたり、遊びに付き合わされたり、買い物の荷物持ちをさせられたりといった目に遭わされてます。要するに泊まる場所がホテルから移っただけで、あとは普通の観光旅行。


 魔王宅の人々も、ただただお客様として丁重にもてなしてくれるばかりで、他に何をするでもありません。相変わらず仕事もさせてもらえず、精々、親達が家事をしている間に子供達の遊び相手を務めるくらいのものです。

 ルカとの恋バナに興味を持っていた女性陣にせよ、最初の一日二日で出会ってから現在までのことを粗方聞いたら、それで満足してしまったようでした。そもそも、恋バナといっても付き合ってすらいないのだから、彼女たちが期待するような話をしたくとも出来るわけがないのです。



「なあ、レン。ルカはどうしてるかな?」


「ちゃんと元気にしてるから安心したまえ」



 一応、レンリにも何かしらの思惑はあるのか、頑なに彼とルカを会わせようとはしませんけれど、それ以外のいつもの面々、ウルやライム達が一緒に行動することはあります。ルカが一人にならないように、誰かしらはルグ達のグループと別行動を取るようにしていますが、その組分けはその時々で様々。

 そしてルカ側のグループも連日あちこちを観光していました。

 直接会わせてもらえないルグは伝聞の形で知るだけですが、彼女もそれなりに楽しんでいるようです。一時の病的なまでの鬱々とした状態を鑑みれば、それ自体は悪い傾向ではないのでしょうけれど……、



「いや……いいのか、コレ?」



 こうなってくると、これはただ単に常に全員で行動すると効率が悪いので、より効率的に観光旅行を楽しむために二手に分かれているだけなんじゃないか、という疑念も生まれてきます。

 人数が多いと行きたい場所がばらけることもままありますし、実際、ルグ側とルカ側とで偶然鉢合わせないように別々の場所に行くようにしているおかげで各人が目当てのお店や遊興施設やらに行けるようになっていました。


 楽しいことは、たしかに楽しい。

 けれど肝心の問題から目を逸らして現実逃避に明け暮れているかのようで、ルグとしては罪悪感やら焦燥感やらにじりじりと焼かれているような気分がずっと続いています。なので、滞在一週間目の本日、ルグは直接的にレンリに尋ねてみました。



「いいって、何がだい?」


「何って、最近遊んでばっかりで他に何もしてないだろ」


「うん。だって観光旅行バカンスってそういうものだろう?」


「それは、まあ、そうなんだけど……そうじゃなくて」



 さては、ルグの問題を解決するためというのはただの方便で、本当は面倒事をなぁなぁにしたまま、自分が観光を楽しみたいがためにこんな意味不明な状況を作り出したのだろうか。



「おい、まさか……」


「ふふふ、さてどうだろう?」



 そんな穿った考えすら浮かんできてしまいます。

 もっとも、たとえそうだったとしてもルグに文句の言える筋合いなどありません。

 そもそもルカとの関係が拗れた原因と、そして責任の大半は彼にあります。本来なら、彼が一人で解決しないといけない問題なのです。

 ルグが顔を見せないことでルカが元気を取り戻して旅行を楽しめているというならば、むしろレンリに感謝してもいいくらいかもしれません。流石にルグも正面からお礼を言うつもりにはなれませんでしたが。



「なーんて冗談だよ、冗談」



 それに、ただ旅行を楽しんでいるかのように見えて……事実、半ば意地になって旅行前半の遅れを取り戻そうと遊びまくっていたのは否めませんが……それでも一応はレンリも問題解決に意識を割いて必要な手を打っていたのです。


 

「ここまでのことは全部私の計算さ。うん、もうそろそろ頃合だろう。もはやキミ達は私の掌の上にいるといっても過言じゃない。たとえルカ君が泣いて嫌だと懇願したところで、無理矢理にでも仲直りさせてあげるから安心したまえ」


「いや、そんな無理矢理は困るけど」


「ああ、当然さ。私の計算が正しければこの作戦で確実に……八割方は……五分五分くらいで……一か八かで上手くいくはずさ!」


「自信があるのか無いのかはっきりしてくれ…・・・」


「だってほら、自信がないわけじゃないけど結局は人の心の問題だしね。絶対に100%とはいかないよ」


「それは、まあそうか」



 自信があるのか無いのか、冗談めかしているせいもあってイマイチ分かりにくい物言いですが、ルグが独力で頑張った場合の仲直りできる確率は恐らくゼロ。それどころか現状より更に関係が悪化する危険すら否定できません。

 それに比べれば、成功率が五割だろうが一割だろうが、レンリの言う「作戦」とやらに乗るほうがいくらかマシというものでしょう。多分。きっと。恐らくは。








 ◆◆◆








「それじゃあ愚かなルー君に最初の質問だ。ここ何日か魔王さんに泊まって、何か思ったことはなかったかい?」


 第一問。

 シンキングタイム、スタート。




◆ちょっと更新の間が開いてしまい申し訳ありません。年明け早々に腰痛が再発して悶絶したり、同時に風邪をひいてフラフラになっていたりしましたが、多少は動けるようになってきたのでぼちぼち更新ペースを上げていきますね。

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