浅くて深い? 彼女達の興味の理由
なんとか年内に間に合いました。
魔王一家の女性陣がルグに興味を示している。
より正確には、ルグとルカとの間にある問題に。
当の本人には全く心当たりがなかったけれど、何しろ相手が相手です。基本的に自己評価が低めな彼は、きっと自分などには思いも寄らない深謀遠慮があるのだろう、みたいに漠然と思っていました。
だから、その理由を知った時にルグはどう反応していいか戸惑ってしまいました。
たしかに予想外の理由ではあったけれど決して深くはない……というか、あまりに浅すぎて逆に盲点となっていたような理由だったのです。
◆◆◆
ルグが魔王宅にやって来た日。
一家の皆が帰宅し、夕食も終えた後のこと。
「ねえねえ、この前のお姉ちゃんとはもうチューしたの?」
「え、いや、俺とルカはそういうんじゃなくて……」
「だったら、どういうのなの?」
魔王の一人娘であるアリシアがプライベートな質問を投げてきて、ルグはたじたじになっていました。視線で彼女の母親達に助けを求めるも……、
「ふふ、青春ですねえ」
「うん、昔のわたし達を思い出すね」
この一家にはコスモスを通じて現在のルグとルカの間の問題は伝わっているはずなのですが、その伝わり方が多少歪んでいたのでしょうか。
アリスもリサも、なんだかとても楽しそうです。
どうやら助けは期待できそうにありません。
「ルカさんから告白して、まだ返事はしてないんですよね?」
「ルグくん、ダメですよ。あんまり女の子を待たせちゃ。まあ、それはそれとして、その辺りの詳しい経緯を聞きたいですね。ほらほら、恥ずかしがらずに言っちゃいましょうよ」
「いや、えっと……何から言えばいいか」
ルグは部屋の隅っこでおとなしく会話を聞いていた魔王と、その息子のリヒトに視線で助けを求めました。彼らはルグの問題にそこまでの興味はないようでしたが、
「……えーと、長くなりそうだし、僕は先にリヒトとお風呂入ってくるね」
「うん、お父さん。早くいこう」
魔王達は薄情にも、困っているルグを見捨ててこの場からの離脱を選択しました。
女性陣の盛り上がりに水を差すような真似をすれば、ロクな目に遭わないと経験的に知っているのでしょう。魔王は恐妻家というわけではありませんが、だからといって進んで妻達の機嫌を損ねたいとも思っていません。実に賢明な判断です。
「そうそう、この間、家に来る前にデートして良い雰囲気だったとか」
「あ、あの時かな。結果的にわたしが水を差すみたいになっちゃったから、もうちょっとゆっくり行けば良かったかも。うーん、惜しい!」
流石に、もうそろそろルグにも彼女達が興味を示している理由が分かってきました。
彼は元々、勇者であるリサには信奉とも言えるような深い尊敬と憧れの念を抱いていました。そして、そうやって強く憧れているからこそ、過度に神格化していたような部分も否定できません。
まだ出会って間もないとはいえ、先代の魔王であるアリスに対しても、自分のような普通の人間とはかけ離れた存在であると無意識のうちに特別視していたのでしょう。
しかし、行き過ぎた憧れの感情は時に目を曇らせることも否めません。
まさか、そんな特別な存在であるはずの彼女達が、
「ふふふふ、若い子の恋愛話はいいですねえ」
「うんうん、ワクワクするよね」
単に、年頃の少年少女の恋バナに好奇心を刺激されただけだったなど、ルグにとってはまさに盲点。そんな興味本位の野次馬のような理由で関心を持たれていたとは、予想外にもほどがあります。
いえ、彼女達の極めて特殊な肩書きを考えれば、ルグの察しが悪いからと言い切ってしまうのは酷かもしれません。それに、リサ達への尊敬がこんなことくらいで揺らいだりはしませんが。
「なんか、思ってたのと違う……」
さぞや辛く厳しい試練が待っているのかと思いきや、実際に待っていたのは単なる質問攻め。これはこれで彼にとっては厳しいものがありましたが、痛くも苦しくもありません。
レンリに言われた通りにやって来たけれど、こんなことで己の不足が見つかるのだろうか。
ルグのホームステイ一日目は、ただただ困惑と共に過ぎていくのでした。
◆今年も一年ありがとうございました。
◆来年もよろしくお願い致します。




