ぐっどもーにんぐ?
手段の是非はさておき、ルカは熟睡して心と身体を休めました。
柔らかなベッドに横になってスヤスヤと穏やかに。
それはもう、夢も見ずに泥のように眠り、
「…………あれ?」
目覚めて早々に強烈な違和感を覚えました。
窓の鍵は閉じていますが、カーテンは開いたまま。そして、今まさに顔を見せつつある朝日が客室に差し込みつつあります。
朝は朝でも、明らかに眠る前より早い時間帯です。
寝る前はロクに周りも見えていないようなひどい状態でしたが、それでも、もっと遅い時間だったことくらいは分かります。ルカの感覚的にはちょっとうたた寝をした程度だったのですが、もしや丸一日近くも眠っていたのでしょうか?
それにしては空腹や渇きもこれといって感じません。
長く寝すぎて逆にだるいとか疲れているということもない爽やかな目覚めでした。むしろ調子が良すぎることに戸惑いを覚えるほどです。
実のところ、この異様なまでの快調ぶりはウル謹製の睡眠薬(毒)の効能によるものなのですが、ルカ自身は昨日の朝食に一服盛られていた事実など知りません。
まあ、体調が良くて困るということもないでしょう。
身体だけでなく、心のほうも、今は落ち着いています。
寝入る前にレンリと話した内容についても大体覚えていますし、それ以前に落ち込む原因となったルグとの一件についても同様。まだ何も解決してはいないけれど、そのせいで無闇に自虐的になったり、正体不明の不安に苛まれるようなこともありません。
むしろ積極的に問題解決に取り組んでいこうというような、前向きな気力が心の奥底からどんどん湧いてきています。
「えっと……どうしよう?」
とはいえ、こんな早朝では特に何をすることもできません。
窓から外を覗いても街はまだまだ薄暗く、通行人もほとんど見当たりません。
市場に買い物に行く用事でもなければこんな日の出間もない時間には眠っているのが普通でしょう。皆を起こそうにも、こんな時間では迷惑になってしまいます。
何かするには早すぎるけれど、何もしないで皆が起き出すのを待つには長すぎる。
かといってベッドに戻って二度寝を決め込むには目が冴えすぎています。
せっかく気力が充実していても、これでは空回りするばかりです。
「くんくん……ちょっと、汗臭い……かも?」
とりあえず、ルカは身だしなみを整えることにしました。
丸一日近くも眠っていれば当然汗もかきますし、その前の魔王のレストランに行った日も帰ってきたのが遅かったので入浴をしていません。自分自身の体臭というのは鼻が慣れているせいで分かりにくいものなのですが、それでも何となく汗臭いような気がします。
そもそも、身に付けている服や下着も一昨日あたりからずっとそのまま。こういうのは気にしなければ何ともなくとも、一度気になり始めると物凄く落ち着かなくなってしまうものなのです。
最低限、着替えは必須として、ホテルの浴場が使えそうなら一人で朝風呂と洒落込むのもいいかもしれません。こんな早くから浴場が開放されているのかはルカも知りませんが、この時間でも一階のフロントには宿の従業員が詰めているはず。そこで尋ねれば浴場の利用可能時間も教えてくれるでしょう。でも、よく知らない人と話すのは緊張するなぁ……などと考えながら、タオルや着替え等のお風呂セットを用意したルカが宿の一階に下りてきた、ちょうどその時。
「皆様ーっ! おはようございまーす! あーそびーましょーう!」
近所迷惑など微塵も考えていないのか、それとも全部分かった上であえてやっているのかは不明ですが、宿の玄関先から何やら聞き覚えのある馬鹿の声が聞こえてきました。
最近ちょっと忙しかったので更新が遅れていましたが、やっと落ち着いたので少しずつ更新ペースを戻していきますね。




