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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
六章『異郷夢幻恋歌』

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『お勉強』と『箱入り娘』


「ふふ、お礼はいらないよ。友人の手助けをするのは当然のことじゃあないか」


 過去最大の失敗をしたルグに対し、寛容にも助力を申し出たレンリ。

 ああ、なんと心優しい少女なのでしょう。



「ほら、あれだ。ルー君のダメダメさ加減はさておいて、こうなった原因の一部……ほんのちょびっとくらいは、周りで面白がっていた私達にあると認めるのもやぶさかではないというか……もしかしたら、それでキミ達を焦らせちゃったのが悪かったのかもとちょっとくらいは思わないでもないというか」



 実のところ、その動機には若干の後ろめたさも含まれていたりするのですが、まあそれは置いておきましょう。理由はどうあれ、これからやることに変わりはありません。



「それで、ルー君にはしっかり反省してもらわないといけないのだけど、反省文を百枚くらい書かせたり、鞭打ちの刑に処したり、頭を丸坊主に丸めたりしても根本的な解決にはならないよね」


「ああ、流石にそれは俺でも分かる」



 それでルカの気が晴れるなら、ルグは今すぐにでも床屋に駆け込むでしょうけれど(ついでに反省文を書くための紙と、自分が打たれるための鞭まで買ってくるかもしれません)、そんなことでは何の解決にもなりません。ルカだって、丸坊主になったルグに鞭を手渡されても困るでしょう。



「だから、一つずつ順番にルカ君が怒ったポイントについて説明していくことにする」



 ただ単に苦痛を与えるだけの罰では反省に繋がりません。なので、レンリは幼児に言葉を教えるかの如く、一つ一つ地道に根気強く解説していく方針を定めました。


 ルグの女心の分からなさといったら並大抵ではありません。

 それに関しては、レンリ達もよく理解しました。

 思い知りました。

 想像以上の、想定以下。

 そんな彼に中途半端に教えて、下手に自主性に任せようなどしたら、またぞろ見当違いの方向に思考を飛ばしてしまうでしょう。本当はルグ一人で問題点に気付かせるのが最善なのですが、同じ愚を繰り返すことはできません。


 よって、ここで採るべきは最善ならぬ次善の策。



「まあ、要するに『お勉強』ってことさ。基礎から学んで次第に応用問題に、ってね」


「勉強か……俺、正直、苦手だ」


「なに、そこは頼ってくれていいよ。ま、参考書テキストはないけどね」


 

 懇切丁寧にじっくりと、それこそ学問の試験にでも臨むかのような方法で、彼に女心の勉強をしてもらうことになりました。





 

 ◆◆◆







 さて、一方その頃。



『ルカさん、聞こえますか?』


『朝ご飯を持ってきたのよ』



 一足先に食堂を抜けてきたウルとゴゴは、朝食のサンドイッチを持ってルカの部屋を訪ねていました。今は強情になっているかもしれませんが、いつまでも顔を出さず、食事抜きでいられるはずもありません。



『返事がありませんね』


『寝ちゃったのかしら?』



 二人が戸をノックしても返事はありませんでしたが、



『おっと、よく見ると鍵が開いていました』


『うんうん。元々開いてたなら“ふほーしんにゅー”じゃないの』



 剣に、というか金属であれば大抵の物に変身できるゴゴがいれば、たかが宿の客室の鍵穴など一瞬でピッキング可能です。

 変形させた指先を鍵穴に突っ込んで一捻り。

 そうして、あたかも最初から閉め忘れていたような白々しい演技をしながら、幼女達はルカの部屋へと踏み込みました。鍵を閉め忘れていようが不法侵入には違いがないのですが、それについては言わぬが花というものでしょう。


 ですが、そこまで堂々と侵入してもルカからの反応はありません。朝食前にレンリが声をかけた時点では起きていたはずなのですが、部屋の中も真っ暗です。



『明かりも消えてるし、カーテンも閉まってるのね』


『本当に寝ちゃったんですかね。だったら起こすのも悪いですし、サンドイッチは部屋のテーブルにでも置いて……え?』


『どうした……の』



 朝食を置いて立ち去ろうとした二人は、ほんの微かな声が聞こえるのに気が付きました。耳を澄ませても言葉としてはっきり聞き取れない程度の、本当に小さな声。



「……れ……た、………に……」



 その声の出所は、どうやら室内にある洋服箪笥クローゼットのようです。

 この宿は高級宿だけあって調度品の類も品質の良い物が揃っていて、クローゼットも大きなコートが十着以上も入るであろうほどの大きさがあります。これならば、中に人間の一人くらいは楽に収まることでしょう。そうする意味があるのかはさておき。



『ええと、この中に入ってるんですか?』


『かくれんぼなの?』



 状況から察するに、ルカは何故だかクローゼットの中に入り込んでいるようです。

 ウルとゴゴは不思議に思いながらも、状況を確かめるべくクローゼットの戸に手をかけ、



「……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……ルグくんに嫌われた……」


『ぎゃあっ!?』


『きゃっ!?』



 両膝を抱えて座った姿勢で、呪詛か何かの如く延々と同じ言葉を繰り返すルカを目の当たりにして、恐怖のあまり揃って悲鳴を上げました。



◆ちょっと前に公式のほうで誤字報告機能とやらが実装されたようなので、今後誤字報告をしていただける際はそちらからお願いします。

◆最後の悲鳴は『ぎゃあっ!?』がウルで『きゃっ!?』がゴゴです。普段は冷静でしっかりしてる子が驚いた時に反射的に可愛い感じの悲鳴を上げちゃうのっていいなぁ、という地味なこだわり。

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