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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
六章『異郷夢幻恋歌』

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このヒトはどちら様?

お待たせしました


 さて、さしあたって覗き見がバレてしまったレンリ達の処遇についてですが、



「やあ諸君! こんな所で会うなんて奇遇だね!」


「おい、レン」


「まあ狭い世の中、時にはそういうこともあるさ」


「おい」


「偶然じゃないという具体的な証拠もないのだし、それはつまり偶然ということなのだよ」


「……わかった、もうそれでいいから。いいから、こっちの話を聞け」



 口の上手さでルグやルカが勝てるはずもありません。

 無茶苦茶なゴリ押しで「偶然」ということにして無罪判決を勝ち取っていました。

 まあ、今の状況からすれば尾行されていたのも些細な問題です。少なくとも一刻も早く事情を聞きたいルグにとっては、下手にその話題を追求して話が横道に逸れてしまうほうが困ります。



「それで、さっきから気になってるんだけど、このお姉さんはどちら様?」



 そして事情を聞きたいのはレンリも同様。

 先程から見ていただけでも、ルグが突然泣き出したり、ウルやゴゴがあからさまに動揺したりとわけが分からない事態が連続しているのです。その謎を解く鍵が目の前の人物にあると考えるのはレンリならずとも至極当然。



「ふふ、貴女がルグくん達のお友達のレンリちゃんですね? はじめまして、わたしは」


「待て待て! こんな往来で堂々と自己紹介をするでない。ええと……こちらは俺の知り合いなのだが、名前に関してはちと訳ありでな。後でちゃんと説明するから、今は聞かないでやってくれ」


「はい? まあ、いいですけど」



 当のリサ本人は楽観的な様子ですが、弟子のシモンとしては気が気ではありません。

 万が一、彼女の正体が不特定多数の人々に知られるようなことがあれば、どんなパニックに発展するか分かったものではないのです、が。



「案外大丈夫なんですけどね。ご近所の奥さん達からも普通に名前で呼ばれてますけど、全然気付かれてないみたいですし」


「ん。シモンは心配性」


「そ、そうか? 俺が気にしすぎなのか!?」


 

 天然ボケの比率が多い集団では常識人ほど苦労するものです。

 天然ではなく計算でボケてくるコスモスあたりを相手にするのも苦労しますが、シモンの心労は他の知り合いを相手にする時でも変わりません。



「とにかく場所を移さねばな……」



 兎にも角にも、安全に話が出来る場所に移動しないことには始まらないでしょう。

 それ以前に、このまま天下の往来で皆に好き放題させていては、例え結果的に秘密がバレなくともストレスでシモンの胃に穴が開きかねません。

 こうして一行はリサの住む家へ、迷宮都市中央近くにある、どこにでもありそうな一軒の料理店へと向かいました。そう、向かったまでは良かったのですが……。









「おや、何か甘い香りが……?」


 ひとまず店舗兼住宅の一階、レストランの客席に案内された一同でしたが、そこで厨房のほうから漂ってくる焼き菓子の香りをレンリが嗅ぎ付けました。



「レンリちゃん、良い鼻してますねえ。さっきまでクッキー焼いてたんですよ。折角だからお茶にしましょうか。コーヒーと紅茶はどっちにします?」


「ははは、なんだか催促したみたいで悪いなぁ」



 内密の話をしに来たとはいえ、別に火急の用というわけでもありません。

 それに、今はちょうど午後のお茶の時間。込み入った話を始める前に、お茶とお菓子で一服しようという流れになるのも、まあおかしくはないでしょう。

 一刻も早く諸々の事情を知りたい、あるいは早く秘密を明かして楽になりたいメンバーは呑気にお茶を楽しむ気分ではないのですが、だからといってリサを急かすのにも抵抗があるようです。

 彼女の正体について大なり小なり知っているルグやウル達は珍しく緊張しているようですし、何もかもまるで事情を知らないルカは単純に持ち前の人見知りっぷりを発揮していました。



「ほほう、これはなかなか」


「あらあら、いい食べっぷり。沢山ありますから遠慮なくお代わりして下さいね」


「ええ、それはもう。いやぁ、お姉さん良い人だね。おや、皆は食べないのかい? 食べないなら私がもらっちゃうよ?」



 そんなこんなで込み入った話を始める前に何故かお茶会が始まってしまったのですが、恐るべきはレンリの切り替えの早さ。そして空気の読まなさ。決して空気が読めないのではなく、きっちり読んだ上で確信犯的に場の雰囲気や流れといったものを無視する神経の太さは並大抵ではありません。

 彼女とて眼前の女性の正体が気になってはいるはずなのですが、それはそれ、これはこれ。今は完全に目先の食欲を優先していました。普通の感覚なら、明らかに只者ではない、名前すら知らない正体不明の人物と仲良くするのに抵抗を覚えても不思議はありませんが、



「食べ物をくれる人は良い人だからね。あ、紅茶のお代わりを」


「ええ、新しいのを淹れてきますね」



 実にシンプル極まる判断基準。名前も聞いていない会ったばかりの相手であれ、美味しい物をご馳走になったというだけの理由で信用しきっている様子です。いとも容易く餌付けされていました。リサのほうも食べっぷりの良いレンリは気に入ったようで、仲良くお菓子の味付けや茶葉の銘柄についての意見交換などしています。



「ふぅ、食べた食べた。ご馳走様でした」


「はい、お粗末様でした」



 そうして長めのお茶が終わったのは、なんと店に到着してから一時間以上も経ってから。もうすぐ夕方という頃合で、窓から見える日もだいぶ傾いてきています。年が明けて間もないこの時期なら、もう一時間か二時間もすれば暗くなってくるでしょう。



「おっと、すっかり長居しちゃったね。それじゃあ、そろそろお暇しようか」


「いや待て! 流石にそれはないだろ!」


「はっはっは、軽いジョークだよ。ルー君が緊張してるみたいだったから、それを解してあげようという私の心遣いさ。感謝してくれてもいいんだよ?」



 レンリの言い分はさておき、流石にこれだけの時間が経てばルグや他の面々の緊張も多少は薄れてきています。これで冷静に話を聞く準備は整った、と言いたいところだったのですが……。



 ◆



「ただいま、今帰ったよ」


「あ、おかえりなさい、あなた」


「え、さっき公園で会った人?」


「あれ、さっきの? ああ、そっか。コスモスの言ってたシモンくん達の友達ってキミだったんだ」


 いざ本題に移ろうとしたタイミングで、午前中にたまたまルグと会っていた通りすがりの青年が店のドアを開けて現れました。





「くんくん……何やら、こちらから面白そうなトラブルの匂いがしますな。ややっ、これはこれは皆様。どうも、さっきぶりのコスモスちゃんです」


「あら、コスモスさんもおかえりなさい。今日はうちでご飯食べていきます?」


 直後に、店の裏口側の戸を開けて、こちらも数時間前に会ったばかりのコスモスが出てきて、





「ただいま帰りました」


「お母さん、ただいまー」


「ただいまー」


「あらあら、お帰りなさい。お客様が来てるからちゃんとご挨拶するんですよ」


 更に、ほぼ同時に店内の空間が歪んだと思ったら、今度はルグやレンリ達と面識のない小柄な金髪の女性と二人の子供達が突如出現しました。



 ◆



「ええと、何から聞けばいいのか……」


 当初の緊張も多少は解れ、いよいよリサに核心的な質問をしようと覚悟を決めていたルグ。ですが、ほんの数秒の間に見聞きしたことの情報量とそれに伴う疑問とが増えすぎて、彼は何を聞いたらいいのかさっぱり分からなくなってしまったようです。


 まあ、そりゃあそうなるでしょう。













◆◆◆◆◆◆



《おまけ》


挿絵(By みてみん)



◆おかげさまで腰の調子はだいぶマシになってきました。もうしばらくは更新ペースが遅くなるかもしれませんが、どうか気長にお待ちくださいませ。

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